『バズらない僕と、最強フォロワーの彼女』

「……本当に、やるの?」
配信終了ボタンを押したあとも、
湊の心臓はうるさかった。
通知欄には信じられない数字。
【フォロワー+3,842】
【切り抜き投稿:急上昇入り】
たった一人のコメントが、
世界を変えてしまった。
――白雪凛。
Sランク能力者。氷の女王。
その彼女が、自分の名前を口にした。
スマホが震える。
【Shirayuki_Rin:明日、放課後。学校の屋上で】
「……は?」
今度はDMだった。
【Shirayuki_Rin:直接、話そ。配信外で】
画面越しじゃない。
現実で。
湊は、喉が鳴るのを感じた。
「なんで、そこまで……」
既読がつく。
数秒後。
【Shirayuki_Rin:君の能力、危ないから】
短い言葉。
けれど、そこに冗談の気配はなかった。
翌日、放課後。
夕焼けが校舎を赤く染める。
屋上の扉を開けた瞬間、
冷たい風が頬を撫でた。
そこに、いた。
長い白銀の髪。
制服のスカートが風に揺れる。
白雪凛。
画面越しより、ずっと静かで、
ずっと小さく見えた。
「……来たんだ」
声は思っていたより低い。
「来いって言ったの、そっちだろ」
強がってみせる。
凛は少しだけ目を細めた。
「君さ、自覚ないでしょ」
「何が」
凛は一歩近づく。
その瞬間。
――バキッ。
屋上の床に、小さな亀裂が走った。
湊は凍りつく。
「な、なんで……」
「それ」
凛の視線は、湊の足元。
「感情が揺れると、空間が歪む」
彼女はしゃがみ込み、
ひびにそっと触れる。
「こんなの、見たことない」
氷の粒がふわりと舞い、
亀裂を覆っていく。
凛の能力だ。
「私の氷じゃ止めきれないかも」
「……え?」
凛は立ち上がり、真っ直ぐ湊を見る。
「君の力、暴走したら学校ごと消える」
冗談じゃない目。
夕焼けよりも赤い光が、瞳に宿っていた。
沈黙。
風の音だけが通り抜ける。
「……なんで助けるんだよ」
湊は、やっと絞り出した。
「有名人だろ。俺なんか放っとけばいい」
凛は少しだけ困った顔をする。
その表情は、配信では見せないものだった。
「……静かだったから」
昨日と同じ言葉。
でも、今日は少し違う。
「みんな、私の力しか見ない」
彼女はフェンスにもたれかかる。
「怖いとか、すごいとか、最強とか」
少し笑う。
でも、その笑顔は寂しい。
「でも君は、何も求めてなかった」
湊は言葉を失う。
「ただ、配信してただけでしょ」
「……まあ」
「だから」
凛は一歩近づく。
距離が、近い。
息が白くなる。
「君の“静かな世界”、壊したくない」
胸がぎゅっと締まる。
その瞬間――
ゴォッ、と強風が吹いた。
湊の視界が揺らぐ。
空間が、歪む。
空気が裂ける音。
「……っ!」
凛がとっさに湊の腕を掴む。
冷たいはずなのに、
その手は温かかった。
「落ち着いて!」
「無理だ、俺……」
視界が白く染まりかける。
凛は湊の胸元を掴み、
強く引き寄せた。
額がぶつかる距離。
「私を見て」
その声は、氷よりも澄んでいた。
「湊」
初めて、名前を呼ばれる。
心臓が跳ねる。
「大丈夫。私がいる」
その言葉と同時に、
暴れていた空間が、すっと静まった。
風が止む。
亀裂も広がらない。
湊はその場に崩れ落ちた。
「……ごめん」
凛はしゃがみ込み、少しだけ笑う。
「だから言ったでしょ。危ないって」
沈む夕日。
静かな屋上。
二人の距離は、さっきよりずっと近い。
「……コラボ」
湊が呟く。
「やるなら、条件がある」
凛は首を傾げる。
「何?」
湊は、勇気を振り絞る。
「バズらせるのが目的じゃない」
凛の瞳が揺れる。
「俺、自分の力、ちゃんと知りたい」
「……」
「逃げたくない」
凛は、少しだけ目を見開いて。
そして、ゆっくり頷いた。
「じゃあ――私が教える」
氷の女王は、
ほんの少しだけ、優しく笑った。
「最強の育成配信、始めよっか」
夕焼けの空に、
新しい物語が動き出す。
二人の距離は、まだ数センチ。
でも確実に、
昨日より近づいていた。
(続く)