翌朝。
湊は、目覚ましより早く目が覚めた。
嫌な予感がして、スマホを開く。
――トレンド1位。
【#空に亀裂】
【#湊覚醒】
【#凛と手繋ぎ配信】
「……終わった」
ベッドに顔を埋める。
通知は鳴り止まない。
ニュース系配信者、考察勢、炎上系まとめ。
世界が、騒いでいる。
でも。
一番気になるのは、一件のメッセージ。
【白雪凛:おはよ】
たった三文字。
なのに、心拍数が上がる。
【白雪凛:学校、行けそう?】
湊は少し迷ってから返信する。
【湊:……たぶん】
すぐ既読。
【白雪凛:一緒に行く?】
画面を見つめたまま固まる。
「一緒に……?」
心臓が、またうるさい。
【湊:目立つだろ】
数秒。
【白雪凛:もう目立ってる】
……正論だった。
校門前。
ざわめきが、異様だった。
「あれ、湊じゃね?」
「マジだ」
「昨日の人だ」
視線が刺さる。
逃げたい。
そのとき。
「おはよう」
後ろから、静かな声。
振り向くと、凛。
いつも通りの制服。
でも、周囲の空気が凍る。
「一緒に行くって言ったでしょ」
当たり前みたいに、隣に並ぶ。
ざわめきが一段階上がる。
「……平気なのか?」
「何が?」
「俺と歩くと、イメージとか」
凛は少しだけ考えて。
「私のイメージって、“最強”でしょ」
「まあ……」
「別に、弱い人と歩いちゃダメって法律ないよね?」
さらっと言う。
でも、ほんの少しだけ視線が揺れた。
教室に入ると、空気が変わる。
ざわつき。
スマホを向ける生徒。
湊は息を詰める。
その瞬間。
凛が、さりげなく袖を掴んだ。
「気にしない」
小さな声。
その仕草が、妙に自然で。
湊の鼓動が跳ねる。
昼休み。
屋上。
昨日と同じ場所。
でも今日は、静かじゃない。
遠くからも視線を感じる。
「……疲れるな」
湊が呟く。
凛はフェンスにもたれながら言う。
「これが“バズる”ってこと」
「楽しくないな」
凛は少しだけ笑う。
「私も、最初はそうだった」
風が吹く。
白い髪が揺れる。
「力を見せれば、みんな集まる」
凛は空を見る。
「でも、私のことを見てるわけじゃない」
その横顔は、少し寂しい。
湊は言葉を探す。
「俺は、見てるけど」
凛の視線が、止まる。
「……え?」
「凛が怖がってるのも、ちゃんと」
昨日、抱きしめられたときの震えを思い出す。
「最強でも、怖いもんは怖いだろ」
沈黙。
風の音だけ。
凛はゆっくり視線を逸らす。
「……ずるい」
「何が?」
「そういうこと、普通に言うとこ」
頬が、ほんのり赤い。
湊は気づかないふりをする。
そのとき。
ズン、と空気が重くなる。
二人は同時に空を見る。
うっすらと。
昨日と同じ、光の亀裂。
「……まただ」
凛の声が低くなる。
「昨日より、濃い」
湊の胸がざわつく。
頭の奥で、あの声がかすかに響く。
――“目覚めろ”
「……やめろ」
空気が歪みかける。
凛がすぐに手を握る。
今度は、迷いなく。
「湊、私を見る」
視線が絡む。
距離が近い。
鼓動が重なる。
亀裂が、わずかに揺れて。
消える。
しばらく、手は離れなかった。
「……ねえ」
凛が、ぽつりと呟く。
「もし、君の力が本当に世界を壊せるなら」
湊は息を呑む。
「そのとき、私は――」
言葉が途切れる。
凛は視線を伏せる。
「君の隣にいる」
はっきりと。
「最強だからじゃない」
少しだけ微笑む。
「好きだから……たぶん」
時間が止まる。
「……え?」
凛は慌てて顔を逸らす。
「ち、違う意味じゃない!」
でも、耳まで赤い。
湊の心臓は、限界だった。
空の亀裂よりも。
トレンド1位よりも。
今の一言の方が、ずっと衝撃だった。
世界は、少しずつ歪んでいる。
でも。
二人の距離も、確実に縮んでいる。
壊れるのは世界か。
それとも、静かな日常か。
湊はまだ知らない。
この力の正体が、“選ばれた者”の証だということを。
(続く)
湊は、目覚ましより早く目が覚めた。
嫌な予感がして、スマホを開く。
――トレンド1位。
【#空に亀裂】
【#湊覚醒】
【#凛と手繋ぎ配信】
「……終わった」
ベッドに顔を埋める。
通知は鳴り止まない。
ニュース系配信者、考察勢、炎上系まとめ。
世界が、騒いでいる。
でも。
一番気になるのは、一件のメッセージ。
【白雪凛:おはよ】
たった三文字。
なのに、心拍数が上がる。
【白雪凛:学校、行けそう?】
湊は少し迷ってから返信する。
【湊:……たぶん】
すぐ既読。
【白雪凛:一緒に行く?】
画面を見つめたまま固まる。
「一緒に……?」
心臓が、またうるさい。
【湊:目立つだろ】
数秒。
【白雪凛:もう目立ってる】
……正論だった。
校門前。
ざわめきが、異様だった。
「あれ、湊じゃね?」
「マジだ」
「昨日の人だ」
視線が刺さる。
逃げたい。
そのとき。
「おはよう」
後ろから、静かな声。
振り向くと、凛。
いつも通りの制服。
でも、周囲の空気が凍る。
「一緒に行くって言ったでしょ」
当たり前みたいに、隣に並ぶ。
ざわめきが一段階上がる。
「……平気なのか?」
「何が?」
「俺と歩くと、イメージとか」
凛は少しだけ考えて。
「私のイメージって、“最強”でしょ」
「まあ……」
「別に、弱い人と歩いちゃダメって法律ないよね?」
さらっと言う。
でも、ほんの少しだけ視線が揺れた。
教室に入ると、空気が変わる。
ざわつき。
スマホを向ける生徒。
湊は息を詰める。
その瞬間。
凛が、さりげなく袖を掴んだ。
「気にしない」
小さな声。
その仕草が、妙に自然で。
湊の鼓動が跳ねる。
昼休み。
屋上。
昨日と同じ場所。
でも今日は、静かじゃない。
遠くからも視線を感じる。
「……疲れるな」
湊が呟く。
凛はフェンスにもたれながら言う。
「これが“バズる”ってこと」
「楽しくないな」
凛は少しだけ笑う。
「私も、最初はそうだった」
風が吹く。
白い髪が揺れる。
「力を見せれば、みんな集まる」
凛は空を見る。
「でも、私のことを見てるわけじゃない」
その横顔は、少し寂しい。
湊は言葉を探す。
「俺は、見てるけど」
凛の視線が、止まる。
「……え?」
「凛が怖がってるのも、ちゃんと」
昨日、抱きしめられたときの震えを思い出す。
「最強でも、怖いもんは怖いだろ」
沈黙。
風の音だけ。
凛はゆっくり視線を逸らす。
「……ずるい」
「何が?」
「そういうこと、普通に言うとこ」
頬が、ほんのり赤い。
湊は気づかないふりをする。
そのとき。
ズン、と空気が重くなる。
二人は同時に空を見る。
うっすらと。
昨日と同じ、光の亀裂。
「……まただ」
凛の声が低くなる。
「昨日より、濃い」
湊の胸がざわつく。
頭の奥で、あの声がかすかに響く。
――“目覚めろ”
「……やめろ」
空気が歪みかける。
凛がすぐに手を握る。
今度は、迷いなく。
「湊、私を見る」
視線が絡む。
距離が近い。
鼓動が重なる。
亀裂が、わずかに揺れて。
消える。
しばらく、手は離れなかった。
「……ねえ」
凛が、ぽつりと呟く。
「もし、君の力が本当に世界を壊せるなら」
湊は息を呑む。
「そのとき、私は――」
言葉が途切れる。
凛は視線を伏せる。
「君の隣にいる」
はっきりと。
「最強だからじゃない」
少しだけ微笑む。
「好きだから……たぶん」
時間が止まる。
「……え?」
凛は慌てて顔を逸らす。
「ち、違う意味じゃない!」
でも、耳まで赤い。
湊の心臓は、限界だった。
空の亀裂よりも。
トレンド1位よりも。
今の一言の方が、ずっと衝撃だった。
世界は、少しずつ歪んでいる。
でも。
二人の距離も、確実に縮んでいる。
壊れるのは世界か。
それとも、静かな日常か。
湊はまだ知らない。
この力の正体が、“選ばれた者”の証だということを。
(続く)
