恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない


「ねぇ、美也(みや)!」
「ちょっと、こっちこっち〜!」

 謝恩会が順調に進む中。
 会場で音響を担当中の姫妃(きき)千雪(ちゆき)に、食べ物を運んだ帰り。
 椅子に座って休憩中のグループの女子たちが。

「美也、お話ししようよぉ〜」
「さみしいから、こっちきてよぉ〜」
 わたしに立ち寄れと……『圧』をかけてくる。


「ま、またねぇ〜」
 あいまいな笑顔で、逃げようとするわたしを。
「逃げるなっ!」
「お姉さん、ちょっと寄ってきな!」
「ほら、いいからおいでよ!」
 その子たちは、三人がかりで捕まえると。

 願いも虚しく『捕獲』されたわたしは。
 一気に大勢に、取り囲まれてしまう。

「ほんと、ありがとう放送部!」
「生徒会のおかげで、お別れだけどうれしぃ〜!」
「でも美也。『彼』との時間奪ってごめんねぇ〜」
「いやぁ。最後まで『あの彼』をこき使っちゃったね!」

 ハイテンションな声がどんどん続くけれど。
 会場はどこも大騒ぎなので……気にしないでおこう。


 ただ、よりによってこういうときに限って……。
「おっ! 会長君!」
「えっ?」
「ガールフレンドならここだよ!」
「ちょ、ちょっとっ!」

 うわぁあ……。
 まさかの、海原(うなはら)君本人に加えて……。
 玲香(れいか)が一緒に、歩いている。


 それはちょうど、男子たちが彼に話しかけたタイミングだったのに。
 彼女がわざわざ、海原君の肩をたたいて知らせている。

 ……あれは絶対、わざとだよね。

「美也、あの美少女に負けるな!」
「えっ?」
「そうだ、いまは三年が主役だっ!」
「や、やめて〜!」

 なんだか酔っ払った佳織(かおり)先生みたいに、みんなが騒ぐ中。
 少し困った、いやひきつった顔の海原君が。
 背中から刺すような視線を浴びながらやってくる。


「よしきたっ!」
「ねぇ、座んない?」
「最後だし、ちょっと語ろうよ!」

 するとこの子たちの中では、すでにわたしの存在は消えていて。
 その……複雑なことに。
 海原君は、なんというか……。


 ……意外と三年女子に、人気がある。


「海原君ってさぁ、なんか『置物』にいいよね!」
「そうそう、玄関で配達物とかちゃんと受け取ってくれそう!」
 それって宅配ポストのこととかかな?
 ただ……なんとなくわかる気がする。

「あとほら、寂しいときとかさ」
「なんかずっと、話し聞いてくれそうだよねー」
 う、うん。
 それならわかる。
 実際、彼はとってもやさしいからね。


「よしっ、決めた!」
「付き合おうよ! 海原君!」
「末長く、お願いします!」
 そっか、そうだよね。
 みんなもそんなふうに……って、えっ?

「お願いしますっ!」
「わたしこそっ!」
「いや、そこはわたしでよろしく!」
 ええっ……!


 完全にテンションの狂った女子高生たちが。
 なんの真似か、一列に並ぶと。
 頭を下げて、右手を揃えて前にだす。

 ど……どうしよう。
 みんなにやめてともいえず。
 かといって、わたしまで『一緒に差し出す』わけにもいかなくて。

 あとは……海原君がちゃんと断ってくれるのを祈るしかない。
 そう思って思わずわたしが。
 ギュッと、目をつぶったところで……。


「え?」
「えっ?」
「うわっ!」


 ……そんな妙な声が、次々と聞こえてきた。




「おいしいので、落とさないでくださいね」
「えっ……?」

 ……いったいいつから、ここにいたの?

 目の前には、大きなお皿を持った由衣(ゆい)がいて。
 手を差し出した子たちの右手には。


 ……手羽元で作った『チューリップ唐揚げ』が、握らされている。


「ゆ、由衣……?」
 わたしの問いかけに由衣は。
 一瞬、冷たい視線をわたしに向けた一方で。

「どうぞ先輩! オススメですよ!」
 ほかのみんなと視線が合うと、すぐに笑顔になる。


「お、思わず『手が出る』よね!」
 慌てたわたしが、意外にいいかと思った『オチ』をつけたところ。
 由衣はそれを華麗にスルーして。

「ところで『海原部長』。あなたにはいくらでも予定が詰まっていますけれど?」
 どこまでも笑顔だけれど。
 どう考えても、さっさと働けと彼に告げている。



「なんか、『連行』されちゃったねー」
「しかも美也は、置き去りだよね〜」
 由衣が海原君を『強奪』したあとでも。
 きょうは、ある意味『お祭り』だから。
 この子たちは、ちっともこりていない。

「でもさ、美也」
「なんか、いいよねー。うらやましい」
「えっ、なんのこと?」

 ……怖い後輩たちに、あとで怒られそうなのにどうして?

「もう美也ってばー」
「必死すぎて、聞いてなかったの?」
「えっ、なにを?」
「さっき『彼』がさぁー」



 ……そ、その手はちょっと。



 海原君が、ボソリとつぶやいたのが。
 どうやらみんなには……聞こえたらしい。

「でもよく考えたら彼、レディーに対して失礼じゃない?」
「あ、ほんとだ! あんなにはっきりと断るか?」
「……っていうか美也、なにその顔?」


 ……だって『お祭り』だったら、笑顔になりたいでしょ?


「はいはーい。ごちそうさまー」
「なんでそこまで、幸せそうな顔になれるかなー」
 もしかしたら、我ながら締まりのない顔なのかもしれない。
 でも……散々冷や汗かいたんだから。いまはいいよね?


「じゃぁそろそろ……『海原君のところ』に戻るね」
 そう伝えたわたしに、今度は誰もなにもいわなくて。

 みんなは、チューリップ唐揚げを仲良く振りながら。
「いってらっしゃーい!」
「後輩に、負けるなよ〜」
 快く……わたしを見送ってくれた。




 会場と通路を挟んだ控室に戻ると。
 由衣が、チューリップ唐揚げをのせた大きなプレートの前でわたしを呼ぶ。

「あのバカ、あっというまに三本も食べたんですよ」
 由衣は、わたしに取り分け用のお皿を渡しながら。
「美也ちゃんは五本までです。わたしはその『上』をいきますけどね」
 無愛想な声で、告げてくる。


「お腹すいたから、もう少し食べたらごめん」
「だったらわたし、その『上』をいきますから」
「なにそれ。またいうの?」
「何度でもいいますけど? 必ず上をいきますから」

 由衣はそう宣言すると。ちょうど手を洗って戻ってきた海原君に。
「そこのバカ、唐揚げ追加!」
 元気な声で伝えると。


「一緒に、食べ尽くしますよ」


 ……割と本気な声で。

 負けないんだと……伝えてきた。