恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない


 ……朝十時、ついに謝恩会がはじまった。

 寺上(てらうえ)校長と、保護者会代表の短いあいさつが終わると。
 待ち構えていたように軽音部の先輩たちが。
 早速大音量で、音楽をかき鳴らす。


海原(うなはら)君、頼んだわよ」
「あとは、よろしくお願いしますね」
 会場を出た僕は、そんな声にはいと答えながら。
 校長たちを、エレベーターホールへとご案内する。

 保護者会の幹部の人たちを加えた一団はこのあと。
 ホテル最上階のレストランで、のんびりと一日を過ごすらしい。

「お茶とランチとアフタヌーンティーね、了解」
 ホテルの担当の人は、相談した瞬間にレストランの個室を押さえてくれて。
「ねぇ、そのままディナーまでどうかな?」
 なんなら監禁してでも稼いでみせると、鼻息が荒かった。


 エレベーターのボタンを押して待つあいだ。
「そういえば、窓の向こうに『丘の上』が見えますよ」
 つい、僕が口を滑らせる。

「あら?」
「詳しいのね、海原君」
 ま、まずい……。

「い、いえ。『映像で』見ただけです」
 さらに余分な、僕のひとことに。
 お見送り要員としてきてくれていた、三藤(みふじ)先輩と都木(とき)先輩が。
 即座に回れ右をする。


「た、ただの……『イメージムービー』です」
 なんとなく、僕から離れていくふたりのため息が聞こえてきた気がしたけれど。

「なるほど、そういうことなのね」
 校長が、なにを勘違いしたのか。
「ホテルのホームページで、下調べしたのね」
「えっ?」
「ご覧のとおり。彼はこう見えて、意外と勉強熱心なんですよ」
 妙にやさしい……フォローをしてくれる。

 ……でもなんだろう、この違和感は。

「あら、いけない」
 校長が、これまた妙にタイミングよく。
「申しわけございません。会場の教師に伝言し損ねまして」

 そういって、到着したエレベーターに保護者会の人たちまとめて乗せると。
「すぐに向かいますので」
 笑顔で、先にどうぞとうながしている。



 扉が閉まると、校長が。
「まったく……思わず吹き出すかと思ったわよ」
 楽しそうに僕に告げると。

「はいこれ、佳織(かおり)たちのかわりに海原君にお願いするわね」
 なにかの入った茶封筒を渡してくる。

「学校の『予備費』です。追加のお料理にでも使いなさい」
「えっ?」
「『あの子』も、いろいろと頑張ってくれているようですしね」
「は、はぁ……」

 先生のいう『顔を立ててあげないと』という『あの子』とは。
 どうやら藤峰(ふじみね)先生たちのことでは……なさそうで。

 するとそのとき、ホテルの担当の人がやってきて。
「あら! きょうはありがとうね〜」
 寺上先生が、なんだか親しげに声をかけて……。


「えっ……」
 ということは、もしかして……?

「そうそう。彼女も、わたしの『教え子』よ」
「あれ? 『つぼみちゃん』。それって、最後まで内緒じゃなかったの?」
「ところが、海原君がねぇ〜」

 僕が自分から『ブライダルサロン』のネタをしゃべったと、校長が暴露して。
「え〜、ほんとに〜?」
 担当の人も一緒になって、楽しそうに笑っているけれど。

 ……も、もしかして……この人は。

「ただの『教え子』じゃなくてその……」
「そうね」
「ま、そういうこと」

 意外と賢いわねと、ほめられたとしても。
 喜んでいる場合ではない。


 ……まさかここにも、『元放送部員』がいるなんて。


「実はね、佳織も響子(きょうこ)もまだ知らないのよ」
 寺上先生がそういうと。

「まぁ。わたしは評判、聞いたことあるけどね〜」
 ホテルの人が、藤峰先生や高尾(たかお)先生にもつうじるような。
 どことなく親しみのわく笑顔で、僕を見る。


「いつか『部活の同窓会』でもやるときに、発表するんだよね?」
「それは、あなたにまかせるわよ」

 寺上先生が、将来退職するときに『同窓会』をする。
「もちろん、会場はこちらです」
 ホテルで働く『先輩』は、僕に右目でウインクをすると。

「で、海原君は幹事だよ」
「えっ?」
「もう決めたらから、よろしく」
「ええっ……」


 ……強引に決めるのが、『放送部女子の伝統』だから。


「あ、そうそうあとね」
「ま、まだあるんですか……」


 ……ただ『女性幹事』は、自分で決めなさいと。


「えっ……」
「なお、その際はぜひ。当ホテルの『ブライダルサロン』をご利用ください」
「あ、あの。それって……」


「そろそろ、上がろうかしら?」
「じゃぁ、わたしはごあいさつさせてもらおうかな?」
 僕の質問を放置したまま。
 ふたりは楽しそうに、エレベーターに乗っていく。



 それから、会場の控室に戻った僕に。
 今度は『現役の放送部女子』が、まとめて一気に話しだす。

「アンタ、どこでサボってた?」
「なんだか随分、遅かったね」
「ほんと、遅い・っ!」
(すばる)君、早く働いて」
「危険な香りがしたので、先に戻らせてもらったわよ」
「それで海原君……それはなに?」


「追加料理の……軍資金です」
「なんだ、ちょっとは役に立つんじゃん」
 無愛想な、高嶺(たかね)からはじまって。
 市野(いちの)さん、波野(なみの)先輩、玲香(れいか)ちゃん、三藤先輩。

「ありがとうだけれど……本当に使ってもいいのかな?」
 そして都木先輩まで含めたこの『チーム』は。
 あと数時間で、いったん解散する。



 ……『放送部』の『同窓会』。



 そんなサプライズ・パーティーの。
「『女性幹事』か……」

「えっ?」
「なにかいった?」
「な、なんでもありません」


 僕は慌てて指で、数字を作ると。
「メニューから、一律でこれくらい割引してくださるそうです」
 みんなにそう告げてから。



 その指越しに、喜ぶみんなの顔を。
 そっと……遠慮しながらのぞいてみた。