恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない


 ……ついに迎えた、謝恩会の日の朝。

 僕たちの乗った列車が、時間どおりに駅に到着し。
 ゾロゾロとプラットフォームに降りたところで。

「みんな、おはよう!」
 都木(とき)先輩の、あかるい声が。
 うしろからまっすぐに飛んできた。


「早く目が覚めたから、待ってたの」
 ひとりだけ反対側の列車を使う先輩は。
 どうやら待ち合わせより、早めに到着したらしく。

「じゃ、出発!」
 無邪気に笑って、歩きだす。


「まるで遠足当日の、小学生みたいよね」
 三藤(みふじ)先輩は、そんなひとことを漏らすと。
海原(うなはら)くんも、早起きしたのよね?」
 なぜか僕のことも……いい当てる。

「えっ? どうしてわかるんですか?」
 すると、玲香(れいか)ちゃんがスッと会話に入ってきて。

「だって、きょうの(すばる)君さ……」
 ふわりと自分の髪の毛を、僕の目の前で浮かせると。
「いつもより髪の毛がマシだから」
 ボソリといってから、都木先輩を追いかける。


「玲香、なに早起きアピールしてるんだろう・ね?」
 波野(なみの)先輩がそういうと。
「でも実はわたしも、ちょっとオシャレし・た!」
 どこか当ててみろと、クイズを出す。

「えっ……」
「正解は、ここです」
 すると僕たちの横をとおり抜けながら、市野《いちの》さんが先輩の毛先を示して。

「ちょっと千雪(ちゆき)、なんで答えちゃう・の!」
「だって姫妃(きき)ちゃん。海原君にわかるわけないじゃないですか」
「だから試したの・にっ!」
「無駄ですよ、無駄」
 ふたりはいい合いながら、そのまま歩いていく。


 ……朝からみんな、元気だな。



 この時間帯、なぜだか駅前の大通りはすいていて。
 みんなは都木先輩を中心に。
 両脇に広がりながら……楽しそうになにかを話している。

 その光景を、僕が数歩うしろから眺めていると。
 途中で珍しく高嶺(たかね)が気がついたらしく。
「アンタ、なにしてんの?」
 集団から離れて、こちらにやってくる。


「……みんなのうしろ姿を眺めてた」
「もしかしてお尻見てたとか? うわっ、変態じゃん」
「違う、そうじゃなくて」
「……知ってる」
「え?」

 もしかしたら高嶺も、早起きしたのだろうか。
 栗色の髪の毛を、流れてきた風にのせながら。
 アイツは、珍しくやさしい目で僕を見ると。

「……この並びとは、きょうでお別れだね」
 僕が思っていたのと、まったく同じことを口にする。


「いい一日にしようね」
「う、うん」
「それと……」
 真面目な声は、予想外にまだ続いて。


「『丘の上』の一年目、楽しませてくれてありがとう」
「え?」

「アンタと同じ高校にしといて、よかった」
 そのときの高嶺の瞳はなんだか。


 ……少し、潤んでいるようだった。


「……なによ?」
「い、いや……なんでもない」
 アイツは、自分でも気づいたらしく。

「これは卒業生のためっていうか、美也(みや)ちゃんのためだから!」
 そういって、僕の背中に。
 思いっきりカバンをぶつけてくる。

「海原君〜、早く〜!」
「ほら、アンタがボケッとしてるから気づかれたじゃん」
 カバンの音が響いてみんなが気づいたはずなのに。
 前のほうで呼んでいる先輩たちを、わざと細目で見た高嶺は。


「この並び……わたしも忘れない」
 僕を見て、小さな声でそういうと。

「走れ、海原!」
 大きな声になると同時にもう一度。
 カバンをバシっと、叩きつけてきた。






 ……ホテルのエントランスで、佳織(かおり)はずっとウロウロしている。

「遅いね、あの子たち」
「まだ時間より早いでしょ?」
「ねぇ響子(きょうこ)、やっぱり海原君に発信機つけといたほうがいいんじゃない?」

 まったく……なにをいっているんだか。


 まるで遠足にいく小学生みたいに。
 昨晩も今朝も、佳織は落ち着きがない。

 準備の時間は、十分にある。
 なにより彼らがいるから大丈夫なのに。
 佳織はとにかく……気になるのだろう。


「あっ! きたっ!」
 無邪気な佳織の声が、彼らの到着を告げると。
「えっ? 早くないですか?」
 みんなが思わず、驚いた声をあげている。

「ま、まぁちょっとね。たまたまだよ、たまたま」
「……まるで遠足当日の小学生みたいですね」
 月子(つきこ)がわたしが思ったとおりのことを口にすると。
「ちょっと! 一緒にしないで!」
 美也を筆頭に、何人かが慌てた感じで否定する。

 ……なんだか。よく似た子たちが、いっぱいいるね。



「じゃ、出発!」
 それから佳織が号令をかけると、思わずみんなが固まって。

「ん? どした?」
「ど、どうしたの?」
 なぜかみんなの視線が、美也に集まって。
 顔を赤くした彼女のかわりに……千雪が。


「さっきから、美也ちゃんと佳織先生が『同じ』なんです」
 ボソリといった、その瞬間。

 ……みんなが一斉に、笑いだした。


「ちょ、ちょっとひどい!」
「なに美也、それってひどくない?」
「でも佳織先生と発想が同じとか……」
「えっ? ダメなの?」
「そ、それはダメでしょう……」

「……は?」

 いま……誰か最後にいわなかった?


「ぼ、僕じゃありませんよ!」
「海原くん、犯人が自ら名乗るなんてダサいわよ」
 詰めの甘い彼が、容赦なく詰めらている。

「いいから、いきますよ」
 ところが、遠くに見えたときから彼の隣にいた由衣(ゆい)が。
「ほら、いきますよ!」
 珍しく彼の『味方』をして。

「バカいってないで、さっさと働きなよ!」
 でもいつもどおり、叱っている。


 ……朝からみんな、元気だね。


「はいはい、とにかく」
 わたしはみんなに。
「ここはホテルだよ。静かにね」
 そういって、近くに集まらせると。

「とにかく、このメンバーで楽しむよ」
 わたしは短く、でも大切なことをわざわざ告げる。



 ……卒業生のために、そして美也のために。



「き、響子先生……」
「も、もう響子ってば……」

 うわっ、早まったのかな?
 似た感じのふたりが、そんな声を出すと。

「美也ちゃん、いきますよ」
「佳織先生、とりあえず控え室に移動します」
 月子と玲香が、背中を押して動き出す。


「海原?」
「うん、担当にあいさつにいってくる」
「じゃ、わたしもい・く」
「会場、一度見ておきます」

 そうだね、それでいい。
 さすがだね『放送部』。



 みんなのうしろ姿を眺めながら……わたしは思う。
 この並びは、きょうが最後。

 だからわたしは……『あなた』のことを。


 ……お別れしたって、忘れない。