恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない


 ……三藤(みふじ)月子(つきこ)は、海原(うなはら)(すばる)に恋をしている。


「ほんと、『公式発表』まで時間がかかったよね」
美也(みや)ちゃんと違って、わたしにはプライドがありますから」
「なにそれ?」
「河川敷で叫んだりとか。身に覚えは、ありませんか?」
「黒歴史だから……いわないで」

 月子とお互い、肩を寄せ合って。
 そのやわらかな香りと、やさしいぬくもりを感じながら。
 わたしたちは……『恋』について語り合う。


「ねぇ月子。いままで本当に、好きだってわからなかったの?」
「彼ははるか昔、小学一年生のときの『初恋の人』ですので」
「ですので?」
「……再会したら、それで終わったのだと考えるようにしていました」

「なにそれ? ズレてるよ月子って」
「そうですか? 意外と機能していたと思いますけけれど?」
 まったく……あなたのどこが。
 すでに『終わったこと』になっていたというのだろう?


「再会したのなら、そのまま初恋を貫いたらよかったのに」
「残念ながら、そうはできなかった『事情』がありました」
「えっ、どういうこと?」

 すると彼女は、わたしをチラリと見ると。
「美也ちゃんに、勝てないと思ったんです」
 なんだか……うれしいことをいってくれる。


「ただのお世辞です」
「いや、額面どおり受け取っておく」
「ダメです」
「一度口にしたから、ダメ〜」

 ……あぁ。なんだろう、この楽しい関係は?

「美也ちゃん、顔がニヤけていますよ」
「そ、そうかな?」
「いつかわたしの前で、泣くかもしれませんよ」

「そう、かもね……」
 もし……そうなったら。
 それがわたしの潮時だし。

 ……なにより、月子に負けたのなら……納得できるだろう。



「あの、美也ちゃん……」
 すると月子が。
 突然、真面目な顔になって。

「時期がきたときに、海原くんに伝えようと思うのですが」
 そういって……とんでもない『告白』をわたしにした。


「ねぇ、それっていつ決めたの?」
「美也ちゃんの背中を、わたしなりに見てきましたので」
 ダメだ、この子はたまにこうやって煙に巻く。

「でも、ありがとう!」
 月子のいったとおり。
 実際にどうなるかなんて、わからないけれど。
 でもあなたというライバルのおかげで。
 わたしは未来の楽しみが……確実に増えた。


「いいですか? 『わたしが』伝えますから」
「うんうん、わたしからは海原君に話さない」
「絶対、ですよ」
「もう……わかったからぁ!」

 わたしは、あのとき。
 月子が迷惑そうな顔をするぐらい、ご機嫌で。
 海原君によってもたらされた関係を。
 いつまでも大切にしようと……このとき改めて誓ったのだ。






「あの……都木(とき)先輩?」
「そういえば、『あのとき』月子って……」
「へ?」
「あぁ海原君ごめん。こっちの話し」

 ……随分と長いあいだ、回想シーンにひたってしまった。

「確かわたし、照れてたんだよね?」
「えっ、それも忘れてたんですか?」
 不思議そうな顔でわたしを見る彼の前で。

「か〜もねっ!」
 そういうとわたしはいきなり。
 ひらりと一回転して、笑顔になる。


「へっ?」
「なぁに?」
「都木先輩……大丈夫ですか?」

「平気だよ、楽しんでみただけ」
「といいますと?」
「だって、女子高生の制服でいられるのって、もうすぐ終わりでしょ?」

 まぁ、完全におかしなテンションではあるものの。
「だから、回転するんですか?」
 もう……相変わらず鈍感だよなぁ、海原君は。


「だ・か・ら。海原君の前で、輝いてみたの!」
「なんだか……波野(なみの)先輩みたいですね……」

 あぁ……ホント最低! この彼は!


「あのね、海原君!」
「は、はい……」
「これだけわたしが、君にアピールしているのに」
「え、ええ……」
「まだほかの女の子たちのこと、考えてるわけ?」
「えっ……」

 彼が沈黙して、次の言葉を探していると。
 ふと……いや、確かに。

 ……自分がなんだか、姫妃(きき)みたいになっている。

 どうしよう、なんだかこのまま壊れてしまいそうだけど。
 楽しいんだから、しかたがない……のかな?



「いい表情ですね、都木先輩」
「えっ?」
 ま、また海原君から不意打ちなの?

「ちょ、ちょっとっ!」
 ただ、このとき。
「あっ……な、なんでもないです」
 急に慌て出した海原君を見てわたしは思った。

 ……いまのって、自分でも気づかずに口にしちゃったんだね。


「ねぇ、海原君」
「は、はい」
 おかげで余裕が出てきたわたしは。


「誰にでも気軽にいうのは、ナシだからね」


 大胆にも……ウインクまでつけて、彼に贈ってみた。






「月子、お待たせ」
「三藤先輩……お待たせしました」

 約束の時間より前。
 ただわたしが予想した時間、ぴったりに。

 ……あのふたりが、現れた。


「それで海原くんは、さぞかしお楽しみだったのかしら?」
「えっ?」
「ちょ、ちょっと月子!」

「美也ちゃんがお楽しみなのは、顔に出ていますので」
「う、ウソっ!」
 いまさら慌てて両手で払おうとしても。
 その幸せなど……消えるはずはない。

 ただ美也ちゃんは。
 さすがわたしの『ライバル』だけあって。


 ……不思議と、嫌な気持ちにならないのだ。


 ただ、それに比べて。
 もう片方のあなたときたら……。

 同じく楽しかったと、顔に書いてあるくせに。
 妙にわたしを気づかうのは、いったいどういう了見なのかしら?

 ところが、わたしはそれもなぜか。


 ……不思議と、嫌な気持ちにならないの。


「いつか、三人でも出かけたいわね」
「えっ?」
「いいの! 月子?」
「いつか、というのは。近々ではありません」
「うん! それでもいい!」

 大喜びの美也ちゃんの隣で。
 なんだか海原くんは複雑な表情をしている。

 でもね、海原くん。


 ……あなたには、まだまだ悩んでもらいたいことがあるの。



「そろそろ『みんな』が、到着する頃ね」
「えっ?」
「よかったわね、海原くん」
「あ、あの……」

 その話しは、いまではない。
 それに、非常に。またとってもややこしいことに。
 あの子たちの存在だって、まだまだこの先。

 ……油断は、できないの。




「海原君! 学校戻ってくる時間、あった・よ・ね!」
 姫妃に責められ。
「アンタ、サボってる場合じゃないでしょ!」
 由衣(ゆい)に怒られ。
「海原君、なにかいうことないの?」
 千雪(ちゆき)に諭されている彼を横目に。


「で、美也ちゃんと月子はなにをしてたの?」
 玲香(れいか)がわたしたちに、詰問する。

「知らないわよ。美也ちゃんに聞きなさい」
「えっ?」
「わたしは寄るべきところに、『ひとりで』向かいましたから」
「ちょ、ちょっと月子っ!」


 恋するだけでは、終われない物語は。
 この先もきちんと、前へと進んでいく。


 だからいつか。
 たとえ『みんな』ではいられなくなるときがきたとしても。

 わたしは絶対に『あなた』のことを。



 ……お別れしたって、忘れない。