ふと、うつらうつらしていた意識が遠のいたのに、眠りが浅かったのか。それとも、人の気配がすぐ近くに感じたからか。
まだ体が寝ていたい、と主張するかのように怠かったけれど、私は瞼を開けた。
ほんのりとだが、いつもより明るく感じる。寝る時はもっと暗くしているはずなのに、どうして? と視線だけを動かすと、有り得ない人物がそこにいた。
「こ、惟久、様?」
どうしてここに……私は入内したはず。そうか、これは夢なんだわ。ちょっと体が怠いから、気弱になって。その心細さから、惟久様が夢の中まで……嬉しいような、情けないような。
「起こしてしまったようだね」
「いけませんでしたか?」
「そんなことはないさ。こうして会話できたことでさえ、嬉しいと思っているのだから」
「まぁ、それはこちらの台詞ですわ。いつお会いできるのか分からないのですから」
幼い頃は夏の一季だけ、と限られていたけど、必ず来年も会える、遊べるという確信があった。互いに裳着、元服を済ませると、今度はいつ会えるのか分からなくて不安になったものだ。
「こうして後宮に入ったら、尚更……」
「それで体調が悪くなったのか」
「え?」
「猫を届けに来たら、小侍従が血相を変えて局から出て来たんだよ。呼んでも反応がないってね」
あぁ。確か小侍従に、早目に就寝するように催促されて、私はその準備を待たず、そのまま脇息に体を預けて寝てしまったのだわ。
「それで私が、千景を運んで寝かせた、というわけさ」
「……夢の中まで惟久様に迷惑をかけるなんて」
「夢? そうか、夢か」
「惟久様?」
「今は夢の中だとしよう。千景は尚侍をどう思った?」
え? え? どうして尚侍? もしかして、私が尚侍と惟久様の関係を疑ったから? それで惟久様がそのような質問をしたのかしら。
「……惟久様のことが好きなのかなって……思いました」
夢とはいえ、あまりの恥ずかしさに衾を頭から被せた。
「好き? 尚侍が? それはあり得ない話だよ。私は相談役でしかないし、千景以外の女人は、基本的にどうでもいいと思っているんだからね。その証拠に、猫を貰い受けた時、叱っておいたよ」
「叱る? なぜですか?」
「千景に無礼を働いたそうじゃないか」
突然惟久様が、聞いたこともないような低い声を出されたものだから、思わず体が跳ねた。
「ごめんよ。千景を怖がらせるつもりはなかったんだ。それよりも、千景がそんな可愛いことを思ってくれていたとはね。嬉しいよ」
「では、本当に違うと?」
「嘘だと思うのなら、明日もまた、尚侍を呼べばいい。少しは違う態度で接してくれるんじゃないかな?」
「……尚侍の恨み言も、理解できるんです。だから、あまりいじめないでくださいませ」
私は衾から顔を出して、惟久様にお願いした。
夢なのに、どうして昔の惟久様が出てくるのだろうか。帝はお優しかったけれど、惟久様は時々、こうして意地悪なことを言うのだ。
「幼い頃の惟久様も悪くはないけれど、今のようなかっこいい惟久様が良かった」
「っ! すまない。千景のこととなると、どうやら昔の悪い癖が出てしまうようだ」
「……もしかして、これは……夢じゃない?」
思考が段々と浮上したお陰か、自分に都合の良い展開というよりも、あまりにも現実に近い内容に疑問を抱いた。
まだ怠かったが、状況を把握するには起きるしかない。けれど上半身を起こそうとすると、止めに入る惟久様。この行動もまた、夢ではないことを裏づけていた。
「離してください、惟久様。私には確認したいことが……」
「確認なら私がする。千景は動くな」
「っ! では、小侍従を呼んで来てください。惟久様の態度を見る限り、傍にいるのでしょう?」
今は秋とはいえ、夜は肌寒いはずだ。この局には惟久様以外、人の気配を感じないことから……おそらく外にいるのだろう。
心配をかけた挙句、小侍従に負担をかけるなんて……主人失格だ。
「分かった。呼んでくるから、大人しくしているんだ。いいね」
「はい」
後ろにあった几帳の垂れ布を横に押して、惟久様は私の視界から姿を消した。
惟久様が後宮の、それも私の局にまで現れるなんて……一体、どのような立場なのだろうか。入内した後も会えたことは嬉しかったが、そんな疑問が浮かんだ。
いや、今まで見ぬ振りをしていただけだ。尚侍との関係も、帝を介してだと思っていたのに、相談役? ますます分からない。
帝がいようがいまいが、関係なく力を持っている惟久様。あなたは一体、何者なのですか?
けれどそんなことを今更、聞くことなどできるのだろうか。私は言い知れぬ不安に苛まれながら、静かに待つしかなかった。それも小侍従と共にやって来る惟久様を。
まだ体が寝ていたい、と主張するかのように怠かったけれど、私は瞼を開けた。
ほんのりとだが、いつもより明るく感じる。寝る時はもっと暗くしているはずなのに、どうして? と視線だけを動かすと、有り得ない人物がそこにいた。
「こ、惟久、様?」
どうしてここに……私は入内したはず。そうか、これは夢なんだわ。ちょっと体が怠いから、気弱になって。その心細さから、惟久様が夢の中まで……嬉しいような、情けないような。
「起こしてしまったようだね」
「いけませんでしたか?」
「そんなことはないさ。こうして会話できたことでさえ、嬉しいと思っているのだから」
「まぁ、それはこちらの台詞ですわ。いつお会いできるのか分からないのですから」
幼い頃は夏の一季だけ、と限られていたけど、必ず来年も会える、遊べるという確信があった。互いに裳着、元服を済ませると、今度はいつ会えるのか分からなくて不安になったものだ。
「こうして後宮に入ったら、尚更……」
「それで体調が悪くなったのか」
「え?」
「猫を届けに来たら、小侍従が血相を変えて局から出て来たんだよ。呼んでも反応がないってね」
あぁ。確か小侍従に、早目に就寝するように催促されて、私はその準備を待たず、そのまま脇息に体を預けて寝てしまったのだわ。
「それで私が、千景を運んで寝かせた、というわけさ」
「……夢の中まで惟久様に迷惑をかけるなんて」
「夢? そうか、夢か」
「惟久様?」
「今は夢の中だとしよう。千景は尚侍をどう思った?」
え? え? どうして尚侍? もしかして、私が尚侍と惟久様の関係を疑ったから? それで惟久様がそのような質問をしたのかしら。
「……惟久様のことが好きなのかなって……思いました」
夢とはいえ、あまりの恥ずかしさに衾を頭から被せた。
「好き? 尚侍が? それはあり得ない話だよ。私は相談役でしかないし、千景以外の女人は、基本的にどうでもいいと思っているんだからね。その証拠に、猫を貰い受けた時、叱っておいたよ」
「叱る? なぜですか?」
「千景に無礼を働いたそうじゃないか」
突然惟久様が、聞いたこともないような低い声を出されたものだから、思わず体が跳ねた。
「ごめんよ。千景を怖がらせるつもりはなかったんだ。それよりも、千景がそんな可愛いことを思ってくれていたとはね。嬉しいよ」
「では、本当に違うと?」
「嘘だと思うのなら、明日もまた、尚侍を呼べばいい。少しは違う態度で接してくれるんじゃないかな?」
「……尚侍の恨み言も、理解できるんです。だから、あまりいじめないでくださいませ」
私は衾から顔を出して、惟久様にお願いした。
夢なのに、どうして昔の惟久様が出てくるのだろうか。帝はお優しかったけれど、惟久様は時々、こうして意地悪なことを言うのだ。
「幼い頃の惟久様も悪くはないけれど、今のようなかっこいい惟久様が良かった」
「っ! すまない。千景のこととなると、どうやら昔の悪い癖が出てしまうようだ」
「……もしかして、これは……夢じゃない?」
思考が段々と浮上したお陰か、自分に都合の良い展開というよりも、あまりにも現実に近い内容に疑問を抱いた。
まだ怠かったが、状況を把握するには起きるしかない。けれど上半身を起こそうとすると、止めに入る惟久様。この行動もまた、夢ではないことを裏づけていた。
「離してください、惟久様。私には確認したいことが……」
「確認なら私がする。千景は動くな」
「っ! では、小侍従を呼んで来てください。惟久様の態度を見る限り、傍にいるのでしょう?」
今は秋とはいえ、夜は肌寒いはずだ。この局には惟久様以外、人の気配を感じないことから……おそらく外にいるのだろう。
心配をかけた挙句、小侍従に負担をかけるなんて……主人失格だ。
「分かった。呼んでくるから、大人しくしているんだ。いいね」
「はい」
後ろにあった几帳の垂れ布を横に押して、惟久様は私の視界から姿を消した。
惟久様が後宮の、それも私の局にまで現れるなんて……一体、どのような立場なのだろうか。入内した後も会えたことは嬉しかったが、そんな疑問が浮かんだ。
いや、今まで見ぬ振りをしていただけだ。尚侍との関係も、帝を介してだと思っていたのに、相談役? ますます分からない。
帝がいようがいまいが、関係なく力を持っている惟久様。あなたは一体、何者なのですか?
けれどそんなことを今更、聞くことなどできるのだろうか。私は言い知れぬ不安に苛まれながら、静かに待つしかなかった。それも小侍従と共にやって来る惟久様を。



