親の再婚で気になってた同級生が妹になったけど、初恋の許嫁も同じ高校にいた件について

第八話 日曜日、午前の部活と午後の約束
 日曜の朝は、少し冷えた空気だった。
 体育館のシャッターが上がる音が、やけに大きく響く。
 中に入ると、すでにボールの弾む音がしていた。
 葉英。
 一人でシュート練習をしている。
 フォームは無駄がなくて、静かで、それなのに芯がある。
 ネットが揺れる音が、きれいに響く。
「遅い」
 振り向きもせずに言う。
「十分前だ」
「私は二十分前」
 ようやくこちらを見る。
 ほんの少しだけ、安心したような目。
「日曜なのに真面目だな」
「七斗が来ると思ったから」
 さらっと言う。
 その一言が、胸に残る。
 昨日の瑠奈の笑顔が一瞬よぎる。
 家の中で、距離の近かった時間。
「集中してる?」
 葉英がボールを回しながら聞く。
「してる」
「嘘」
 即答。
「目がちょっと泳いでる」
 図星だ。
「昨日、瑠奈ちゃんと何してたの」
 ボールの動きが止まる。
「……映画」
 葉英の指先が一瞬だけ強くボールを握る。
「へえ」
 それ以上は聞かない。
 でも次の瞬間、プレーが変わった。
 ドライブが鋭い。
 フェイクが速い。
 距離が一気に詰まる。
 肩がぶつかる。
「負けない」
 低い声。
 それはバスケの勝負に対してなのか、それとも。
 七斗も本気になる。
 フェイント。
 ターン。
 シュート。
 ブロック。
 息が荒くなる。
 体育館の空気が熱を帯びる。
 一本取る。
 取り返される。
 互角。
 昔からずっと、こうだった。
 並んで、ぶつかって、笑って。
「……やっぱり」
 タイムを取ったとき、葉英がぽつりと呟く。
「七斗とやるのが一番楽しい」
 その言葉に、胸がじわっと熱くなる。
 嘘じゃない。
 俺もそうだ。
 午前の練習は、いつもより長く感じた。

 練習が終わり、体育館の外へ出る。
 日差しが少し強い。
「午後、空いてる?」
 葉英がペットボトルを差し出しながら言う。
「ああ」
「じゃあ、少し付き合って」
 向かったのは、昔よく通った公園。
 小学生の頃、毎日のように練習していた場所。
 小さなコート。
 少し錆びたリング。
「懐かしいね」
「だな」
 ベンチに座る。
 風がゆっくり吹く。
 セミの鳴き声が遠くで聞こえる。
 葉英は自販機で買ったジュースを渡してくる。
「ありがと」
「どういたしまして」
 少しだけ沈黙。
 でも居心地は悪くない。
 「昨日さ」
 葉英が視線を前に向けたまま言う。
 「ちょっとだけ、悔しかった」
 「何が」
 「七斗が誰かと映画行ってるの」
 その言い方は、責めているわけじゃない。
 ただ、正直。
 「私、ずっと隣にいたから」
 小学生の頃から。
 朝練も、放課後も。
 試合に負けた日も勝った日も。
 「でもさ」
 少し笑う。
 「隣って勝手に決まるものじゃないよね」
 風が葉英の髪を揺らす。
 その横顔は、少し大人びて見えた。
 「だから私も、ちゃんと頑張る」
 「何を」
 「全部」
 その言葉には、バスケも、勉強も、そして――七斗も含まれている。
 逃げない。
 譲らない。
 そういう覚悟。
 「七斗」
 「ん?」
 まっすぐ見つめられる。
 「私のこと、どう思ってる?」
 直球。
 ごまかせない。
 昔から特別だった。
 一番長い時間を共有してきた。
 楽しいも、悔しいも、全部知ってる。
 「……特別だよ」
 正直な言葉。
 葉英の目が、ほんの少し柔らかくなる。
 「それで十分」
 立ち上がる。
 でも、すぐに振り向く。
 「でもね」
 夕日が差し込む。
 「いつか“特別”じゃなくて、“好き”って言わせるから」
 心臓が跳ねる。
 冗談じゃない。
 本気だ。
 公園のリングが、オレンジ色に染まる。
 昔と同じ場所。
 でも関係は、昔とは違う。
 葉英はもう、“幼なじみ”の位置に甘えていない。
 本気で取りに来ている。

 夜。
 ベッドに横になる。
 天井を見つめる。
 土曜の瑠奈。
 日曜の葉英。
 タイプも、距離の詰め方も、覚悟の見せ方も違う。
 でも、どちらも本気だ。
 (俺は……)
 まだ答えは出ない。
 でも確実にわかる。
 このまま曖昧ではいられない。
 心は、確実にどちらかへ傾き始めている。
 それがどっちなのか――
 まだ、自分でもわからないだけで。