親の再婚で気になってた同級生が妹になったけど、初恋の許嫁も同じ高校にいた件について

第六話 揺れる気持ち(葉英視点)
 その日の帰り道。
 七斗と別れて、一人になる。
 夕焼けが長く影を伸ばしていた。
(七斗の“特別”は、まだ私のもの)
 そう思ったはずなのに。
 胸の奥が、少しだけざわついている。
 瑠奈ちゃん。
 明るくて、距離が近くて、まっすぐで。
 七斗の隣に立つとき、迷いがない。
(家族、なんだよね……)
 その言葉が、重い。
 私は“幼なじみ”。
 でも彼女は“家族”。
 毎日同じ家に帰る距離。
 それは、どんな思い出よりも強いのかもしれない。
 信号が赤に変わる。
 立ち止まる。
 ふと、スマホを取り出す。
 ――メッセージ画面。
 七斗とのトーク履歴。
 さっきの「全国、行くぞ」。
 それだけで胸が温かくなる。
(大丈夫)
 私は、コートの上で隣に立てる。
 それは誰にも奪えない。
 ……でも。
(勉強、教えてもらってたんだ)
 小学生の頃。
 七斗が困ると、いつも私のところに来た。
「葉英、ここわかんね」
 得意げに教えるのが、少し嬉しかった。
 それが今は、瑠奈ちゃん。
 小さな棘みたいな感情が、胸に刺さる。
 青信号に変わる。
 歩き出す。
(私だって、強くなった)
 バスケも、勉強も。
 七斗の隣にいる資格は、ちゃんとある。
 でも。
 “好き”って気持ちは。
 努力だけじゃどうにもならない。

 夜。
 机に向かう。
 ノートを開く。
 ……集中できない。
 代わりに、今日の試合の場面が何度も浮かぶ。
 七斗の横顔。
 楽しそうに笑う顔。
 そして。
 瑠奈ちゃんが体育館の入り口で見ていた姿。
(あの目)
 悔しそうで、でも諦めていない目。
 あの子、本気だ。
 なんとなくわかる。
 バスケじゃなくて。
 七斗に対して。
 胸がきゅっと締まる。
(負けたくない)
 でも、奪い合いたくない。
 そんな綺麗事、通用しないのかもしれない。
 スマホが震える。
 画面を見る。
 七斗。
『明日の朝、早めに行く』
 短いメッセージ。
 それだけで、少し笑ってしまう。
『うん。待ってる』
 送信。
 ベッドに横になる。
 天井を見つめる。
(七斗は、どう思ってるんだろう)
 私のこと。
 瑠奈ちゃんのこと。
 ただの幼なじみ?
 ただの家族?
 それとも――
 考えすぎて、胸が苦しくなる。
 でも。
 目を閉じる前に、はっきり思う。
(私は、隣を譲らない)
 コートの上も。
 七斗の隣も。
 簡単には、渡さない。

 翌朝。
 体育館の扉を開けると、もう七斗がいた。
この学校は朝練は自由で午後はほぼ強制だ。
 ボールをつきながら、ひとりでシュート練習。
 その姿を見た瞬間、胸が少し軽くなる。
(やっぱり、この人だ)
「早いね」
「お前もな」
 自然な会話。
 自然な距離。
 でも今日は、少しだけ踏み込む。
「七斗」
「ん?」
「昨日さ」
 一瞬、迷う。
 でも、逃げたくない。
「……瑠奈ちゃんに教えてもらってるんだよね、勉強」
 七斗がボールを止める。
「ああ。数学だけな」
「そっか」
 笑う。
 うまく笑えているかわからない。
「よかったね」
「……なんでそんな顔してんだよ」
 ドキッとする。
「してない」
「してる」
 真っ直ぐ見られる。
 逃げられない。
 少しだけ、視線を落とす。
「……ちょっとだけ、悔しいだけ」
「え?」
「昔は、私が教えてたから」
 言ってしまった。
 静かな体育館。
 ボールの転がる音だけが響く。
 七斗は、少し考えるようにしてから言う。
「別に、変わってねえよ」
「何が?」
「頼るとこは頼る」
 ぶっきらぼう。
 でも。
 胸の奥が、じわっと温かくなる。
「じゃあさ」
 思い切って、笑う。
「今度は私にも、ちゃんと頼ってよ」
 七斗が一瞬だけ目を逸らす。
「……考えとく」
「即答しなさいよ」
 軽く肩を叩く。
 いつもの距離。
 でも。
 ほんの少しだけ、昨日より近い。
 コートの上の約束は、まだ生きている。
 でも――
 コートの外の戦いも、静かに始まっていた。