親の再婚で気になってた同級生が妹になったけど、初恋の許嫁も同じ高校にいた件について

第十三話 視線の行き先(葉英視点)
 月曜日。
 教室のドアを開けた瞬間、空気が少しだけ揺れた気がした。
 視線。
 それが誰のものか、もう分かっている。
 七斗。
 目が合う。
 ほんの一瞬。
 すぐ逸らされる。
(まただ)
 最近ずっとそう。
 見てくるくせに、捕まえられると逃げる。
 それが、嬉しいのか苦しいのか、自分でも分からない。
 席に座る。
 ノートを出す。
 シャーペンを持つ。
 でも、背中に刺さるみたいな視線。
 見なくても分かる。
 七斗が、こっちを見てる。
 ページをめくるふりをして、ちらっと横を見る。
 やっぱり。
 目が合う。
 また逸らす。
 心臓が小さく跳ねる。
(期待、していいのかな)
 何度も何度も見られると、勘違いしそうになる。
 いや、もうしてる。
 きっと。

 昼休み。
 ずっと迷っていた。
 聞くか、聞かないか。
 このまま黙っていたら、たぶん私はどんどん好きになる。
 でももし違ったら。
 壊れるのは、私だけ。
 それでも。
 曖昧なままは、もっと嫌だった。
 廊下で七斗を見つける。
 窓際。
 少しだけ遠い背中。
「七斗」
 振り向く。
 その瞬間の目。
 一瞬、嬉しそうに見えた。
 だから、余計に聞いてしまった。
「さっきから何回見た?」
 とぼける顔。
 嘘つくときの顔。
「見てない」
「嘘」
 即答してしまった。
 だって分かる。
 ずっと見られてた。
「なんで逸らすの?」
 本当は聞きたくなかった。
 でも止まらなかった。
 七斗は黙る。
 その沈黙が、怖い。
「私、勘違いしていいの?」
 心臓がうるさい。
 お願い。
 何か言って。
 肯定でも、否定でもいいから。
 でも。
 何も返ってこない。
 その静けさが、答えだった。
 胸の奥が、静かに割れる。
「……そっか」
 笑おうとした。
 うまくできなかった。
「私だけが、ちゃんと好きなんだと思ってた」
 言ってしまった。
 本音。
 ずっと隠してたのに。
「七斗が見るから」
 喉が熱い。
「少しだけ、期待した」
 本当は少しじゃない。
 毎日、期待してた。
 視線ひとつで、浮かれて。
 逸らされるたびに、落ちて。
 それでもまた見られると嬉しくて。
 馬鹿みたい。
「今日は一緒に帰らない」
 逃げるみたいに言った。
 怒ってない。
 でもこれ以上そこにいたら、泣きそうだった。

 放課後。
 体育館。
 いつも通りに動く。
 パスも、シュートも、声も。
 全部完璧にやる。
 でも、七斗を見ない。
 見たら、弱くなる。
 視線が合ったら、また期待してしまう。
 それが一番怖い。
 何度か名前を呼ばれた。
 短く返す。
 それ以上は無理。
 七斗の視線を感じるたびに、胸が痛い。
(どうして見るの)
 好きなら、言って。
 違うなら、見ないで。
 中途半端が一番残酷。

 帰り道。
 一人。
 夕焼けがやけにきれいで、腹が立つ。
 スマホを握る。
 連絡は来ない。
 それが現実。
 立ち止まる。
 深呼吸。
 涙は出ない。
 出たら、負けた気がするから。
 でも本当は。
 すごく怖い。
 七斗の視線が、今日で終わってしまうんじゃないかって。
 あの曖昧な距離が、ただの距離になるんじゃないかって。
 好きだって言わなきゃよかった。
 でも言わなかったら、もっと苦しかった。
 七斗の目は優しい。
 でも優しさだけじゃ、足りない。
 ちゃんと選んでほしい。
 私を。
 その覚悟があるかどうか。
 私は待てる?
 分からない。
 ただ一つだけ、はっきりしている。
 それでも私は、まだ七斗が好きだ。
 だからこんなに痛い。