親の再婚で気になってた同級生が妹になったけど、初恋の許嫁も同じ高校にいた件について

第十三話 視線の行き先
 月曜日。
 夢を見た朝から、七斗の視線は少しだけ落ち着かなかった。
 自分では意識していないつもりでも、気づけば探している。
 教室に入る。
 一番最初に目に入るのは、窓際の席。
 葉英がまだ来ていないと、なぜか少しだけ物足りない。
(何やってんだ、俺)
 鞄を置く。
 席に座る。
 数分後、ドアが開く音。
 反射的に顔を上げる。
 葉英。
 友達と話しながら入ってくる。
 笑っている。
 その瞬間、胸の奥がふっと緩む。
 自分でも分かる。
 安心している。
 葉英が席に座る。
 七斗は前を向く。
 でも、ノートを取るふりをしながら、何度も横目で見る。
 シャーペンを回す指先。
 考え込むときの癖。
 ふとしたときの真顔。
 無意識に、追っている。
 視線が重なる。
 葉英がこちらを見る。
 一瞬、目が合う。
 七斗は慌てて逸らす。
 鼓動が速い。
 また、見る。
 また、逸らす。
 それを何度も繰り返しているうちに――
 葉英の表情が、少しだけ変わった。

 昼休み。
 七斗は廊下の窓際に立っていた。
 グラウンドを見下ろす。
 でも意識は別のところ。
 後ろから足音。
「七斗」
 振り向くと葉英。
「さっきから何回見た?」
「は?」
「私のこと」
 真っ直ぐな目。
 冗談じゃない。
 七斗は言葉に詰まる。
「見てない」
「嘘」
 即答。
 ほんの少しだけ、声が揺れる。
「なんで逸らすの?」
 胸がざわつく。
 自分でも分からない。
 ただ、見てしまう。
 でも、見られると落ち着かない。
「別に意味ない」
「意味ないなら、そんな顔しない」
 葉英が一歩近づく。
「私、勘違いしていいの?」
 その言葉が、重い。
 七斗は答えられない。
 肯定も否定もできない。
 沈黙。
 それが一番残酷だった。
 葉英の瞳が、わずかに揺れる。
「……そっか」
 小さく息を吐く。
「私だけが、ちゃんと好きなんだと思ってた」
 七斗の胸が締めつけられる。
「七斗が見るから」
 かすれた声。
「少しだけ、期待した」
 風が吹く。
 葉英の髪が揺れる。
 その表情は、初めて見る顔だった。
 強くて、まっすぐで、負けない彼女が――
 ちゃんと傷ついている。
「ごめん」
 思わず出た言葉。
「謝らないで」
 即座に返される。
「謝られるほうが痛い」
 視線が逸れる。
「中途半端が、一番つらい」
 そのまま背を向ける。
「今日は一緒に帰らない」
 静かな声。
 怒っていない。
 でも、確実に距離ができた。

 放課後の体育館。
 葉英はいつもより無口だった。
 パスも、シュートも正確。
 でも視線を合わせない。
 七斗が声をかけても、短い返事だけ。
 距離がある。
 物理的じゃなく、心の距離。
 七斗は気づく。
 自分の視線は、優しさじゃなかった。
 期待させるものだった。
 無意識でも、残酷だ。

 帰り道。
 七斗は一人で歩く。
 ポケットの中のスマホが震える。
 瑠奈からのメッセージ。
『今日元気ない?』
 指が止まる。
 返信できない。
 頭の中に浮かぶのは、さっきの葉英の顔。
「私だけが、ちゃんと好きなんだと思ってた」
 その言葉が離れない。
 胸の奥がじわじわ痛む。
(俺は……)
 無意識に目で追って。
 無意識に期待させて。
 でも、まだはっきり言えない。
 それが一番ひどい。
 夜風が冷たい。
 初めて、はっきり自覚する。
 葉英が傷つくのは、嫌だ。
 その感情は、はっきりしている。
 それが何を意味するのか。
 まだ、言葉にできないだけで。