親の再婚で気になってた同級生が妹になったけど、初恋の許嫁も同じ高校にいた件について

第一話 桜の下の再会
桜が舞っている。
 春の風に乗って、花びらが校門をくぐる新入生たちの頭上を流れていく。
「ここが……俺の高校、葉和高等学校か」
 七斗は新品の制服の袖を軽く引っ張った。少しだけ緊張している。
 中学ではバスケ部のエースだった。けれど、高校はまた別世界だ。強豪校。全国常連。
(絶対、ここで上に行く)
 そう心に決めて、体育館へ向かう。
 式が始まり、校長の長い話が続く。七斗は半分ぼんやりと前を見ていた。
 そのとき――
「……あ」
 斜め前の席。
 見覚えのある横顔。
 さらりとした黒髪。まっすぐ前を見つめる横顔。
「葉英……?」
 小学生の頃、毎日のように一緒にバスケをしていた女の子。
 許嫁の葉英(はな)。
 名前を呼びそうになった瞬間、葉英がふと振り向いた。
 目が合う。
 一瞬、時間が止まったようだった。
 そして――
 葉英は、小さく微笑んだ。
 あの頃と同じ、優しくて少し自信に満ちた笑顔。
 七斗の胸が強く鳴る。
(本当に、葉英だ)

 入学式が終わり、クラス分けの掲示板の前は人だかりになっていた。
「七斗くん!」
 明るい声が飛ぶ。
 振り向くと、瑠奈が手を振っていた。
「同じクラスだよ!」
「え、マジ?」
 掲示板を見ると、確かに隣同士の番号。
「やったね! 高校でもよろしく!」
 瑠奈は無邪気に笑う。その笑顔は春の太陽みたいにまぶしい。
 そのとき。
「七斗」
 落ち着いた声が背後から届く。
 振り返ると、葉英が立っていた。
「久しぶり」
「……おう」
 急に言葉が詰まる。
「同じ高校になるとは思わなかったね」
「だな」
 少しぎこちない空気。
 けれど、嫌じゃない。
 瑠奈が二人を交互に見つめる。
「知り合い?」
「小学校の頃からの……」
 七斗が言いかけた瞬間、葉英が自然に言った。
「幼なじみ。ずっと一緒にバスケしてたの」
 “幼なじみ”。
 あえて“許嫁”とは言わなかった。
 でも、その言葉の奥にある距離感は、どこか特別だった。
「へえー! そうなんだ!」
 瑠奈は笑いながらも、ほんの少しだけ視線が鋭くなる。
(この子が……)
 七斗の知らない時間を共有している存在。

 教室へ向かう廊下。
 桜の花びらが窓から入り込む。
「七斗、バスケ部入るよね?」
 葉英が隣で歩きながら言う。
「当たり前だろ」
「私も」
 即答だった。
 七斗は少しだけ笑う。
「相変わらずだな」
「七斗こそ。ちゃんと勉強もするんだよ?」
「う……」
 図星。
 そのやり取りを、少し後ろから瑠奈が聞いていた。
(なんか、距離近くない?)
 胸の奥が、もやっとする。
 入学式の日。
 まだ何も始まっていない。
 けれど確実に――
 三人の関係は、静かに動き出していた。