雨があがっても、君のとなりで

「…ん……んん…」


悠真が家を出たあと、蓮の眠りが浅くなっていき、まぶたの裏に懐かしい教室が蘇る。


蓮は小学生の頃の姿に戻っていて、机の上には画用紙とクレヨンが用意されている。


どうやら図画工作の授業らしい。


「はい。じゃあ今日はみんなでお家の人の似顔絵を書いてみましょう」


先生の指示でみんなクレヨンを手に取り、一斉に描き始めた。


蓮もクレヨンを握る。


(お母さんは…かみが長くて、はなが高くて……)


母の顔を思い浮かべながら、ああでもないこうでもない、と何度も何度も書き直す。


「できた!」


先生に見せに行くと、上手だね、お母さんきっと喜ぶね、と笑顔で言ってくれた。


(お母さんも笑ってくれるかな。早く見せたいなあ)


その日、蓮は急いで家に帰った。


ぴしゃぴしゃと雨粒を跳ね飛ばして走った。


玄関のポストには茶色い封筒が溜まり、アルコールとタバコの混ざったような臭いが蓮の鼻をかすめる。


でもそんなことは全く気にならない。


蓮はバタバタとリビングへ駆け込んだ。


母は、ダイニングテーブルのイスに腰掛け、タバコをふかしている。

「お母さん!あのね、今日学校でお絵かきのじゅきょうがあってね」

蓮はキラキラと目を輝かせて母の顔を見た。


———けれど、そんな蓮の姿を、母はちらりとも見ようとしない。

どこか遠くを見つめて、口に含んだタバコの煙を吐き出している。

それでも蓮は諦めずに続ける。

「お母さんの絵をかいたんだよ」

上手に描けた似顔絵を、お母さんに見てもらいたい。

「せんせいにもじょうずたねって言ってもらえてね」

大好きなお母さんの、笑って喜ぶ顔が見たい。

「ねえ、お母さん」

蓮が母の気を引こうと腕を引っ張った。


次の瞬間————


「触るな!」


叫び声とともに、蓮の体は地面に叩きつけられた。

蓮は何が起こったのかわからなかった。

「お母さ……」

呼びかけようとした蓮の声は、重たい空気に打ち消された。


蓮がゆっくりと顔を上げると、母の視線は凍っている。


「うるさい。私は……お前の母さんなんかじゃない」


自信に満ち溢れていた蓮の表情は、だんだんと戸惑いに変わった。


母はポツポツと、言葉を漏らすように続ける。


「……お前さえいなければ、私はあの人と……幸せになれたのに」


「お前のせいで、あの人は私を捨てたんだ」