高校生の修学旅行は二年生のときに行く。だから残念なことに俺は鳴神くんと修学旅行に行けない。
せっかく両思いで付き合うことになったんだし、付き合い始めの恋人同士で旅行なんて絶対楽しいに決まっている。
――鳴神くんと修学旅行に行きたかったなぁ。
福子ばあちゃんの温泉旅行は前から決まっていたので、今日は俺が好きな料理をする予定だった。
熱のせいで(もちろん、熱のせいだけじゃない)今日のお楽しみの料理のことを忘れていたが、夜になって熱も下がり、俺は今日作りたかったメニューを思い出した。
すでに材料は買ってあった。
鶏肉、にんじん、玉ねぎ、じゃがいも、牛乳。
そして、シチュー粉。
家で作るカレーとかシチューって、外で食べるものとは全然別の料理だと思う。シチュー粉の箱の後ろに書いてある手順通り作るのが一番美味しい。企業努力の賜物で、最高の家庭料理だ。
「ハル、本当に夕飯俺が作ったシチューでいいの? 俺の母さん持ってきたおかゆもあるよ」
夕方、俺のことを心配して鳴神くんのお母さんが様子を見に来てくれた。キッチンにはそのとき差し入れてくれたお粥がある。
でも体調も戻ったし、鳴神くんも一緒に食べるならシチューがよかった。お粥は明日の朝食べよう。
「うん、熱下がったし、元気だからなんでも食べられる。鳴神くんのおかげやね」
「それは良かったです。……俺、ハルの看病頑張ったからね」
そう言った鳴神くんは、俺の方を見てちょっと意味深な笑みを浮かべた。
「えっと、つっこんでおいた方がええ?」
「んー看病だよ? 知恵熱には適度な運動かなって」
「あーうん。せやね。運動は大事。うん」
「そうそう」
俺はスウェットの上に押入れに入っていた綿入れを着て、台所のテーブルの椅子に座っていた。キッチンの鍋の前には鳴神くんが立っている。
病人が家に一人だと心配だからと、今夜は鳴神くんがうちにお泊まりしてくれることになった。
鳴神くんが料理している姿を後ろから眺めているのは、ちょっと不思議な気分だった。
ここは福子ばあちゃんの家だけど、今は俺の家でもある。
だから自分のテリトリー内で鳴神くんが料理しているのは、なんだかこう、すごく仲良しな二人って感じがする。
(実際、仲良しだし、もう恋人同士やし)
そういうわけで俺が一人で作るはずだったシチューは、今、鳴神くんが一生懸命作ってくれている。
「布団で寝ててもいいよ。出来たら起こすし」
「家庭科部の部員としては、鳴神くんの料理を見守っていたい」
「シチューとかカレーは、小学校でやったから任せて」
「すごい部員が頼もしい」
「でしょう? 期待してていいよ」
そんなふうに台所で二人で笑い合っていた。
「……林間学校かな」
俺は鳴神くんの背中にポツリと話しかけた。
「ん?」
「今日さ、鳴神くんとお泊まりで修学旅行みたいだなぁって、最初思ってたんやけど。お買い物イベントはしないし、カレーとかシチューなら林間学校かなぁって」
「あー確かに、カレーとか作るのは小学校の林間学校の定番だよね。飯盒炊爨」
「そうそう。ここ山近いし、ピッタリなシチュエーション」
二人で田舎。毎日楽しい。けど、俺たちは、こことは違うどこかに二人で行くことってあるんだろうか?
行ってみたいな。鳴神くんと二人で。きっと楽しい。
「ねぇ。ハル」
「うん」
「俺、毎日ハルと教室に二人っきりで楽しいけど、旅行に行くのだって同じくらい楽しいと思ってる」
「うん。俺もそう思う」
「だからさ、高校卒業したら旅行行こう」
「マジで! 行く行く絶対!」
近い将来の旅行に想いを馳せつつ、ひとまず今日は二人っきりの林間学校イベントを楽しもうと思った。



