友達の兄貴を好きになってしまいました

 卒業式は、大きく晴れていた。

 体育館で校歌を歌って、教室に戻って、翔太郎たちと写真をいっぱい撮って、たもっちゃんが「もうマジ無理、泣くわ……」とぐすぐす言い出して、それを楓が「お前、やめろよ我慢してたのに!」と釣られて泣いて、翔太郎も「ふざけんな俺まで泣くだろ!」って言いながら泣いて、最終的には俺もうるうるときてしまった。四人でだんごみたいに固まって、教室の真ん中で泣いた。

 でも悲しい涙じゃなかった。

 だって、また会えるから。

 たもっちゃんと楓は別の大学だけど、駅が近い。いつでもまた会える。

「またな!」と笑い合って、俺たちは校門の前で別れた。

 じいちゃんとばあちゃんは涙ぐみながら、「大晴、立派になって」と何回も言った。父ちゃんは何も言わなかったけど、家に帰ったら、リビングのテーブルに、ばあちゃんが作った赤飯と、なぜかケーキが置いてあった。

 父ちゃんが「卒業祝い」と短く言って、老眼鏡をかけながらケーキを切り分けた。
 その横顔が、また母ちゃんに似てて、ちょっとだけ泣きそうになる。

 母ちゃん、俺、ちゃんと卒業したよ。

 あとさ、すげぇ好きな人ができたんだ。

 その日の夜、ケーキを食べ終えた俺は、たくさんの下心を抱えて真っ先に蓮司さんの家に突撃した。のだけれども――。

 蓮司さんは無情にも玄関先で、「高校生には手ぇ出さねぇって言ったろ」と冷静に返してきた。

 俺は当然、「卒業しましたけど!? もう晴れて大学生ですけど!?」と食い下がったのだけれど、蓮司さんは「四月までだめだろ」と言い放って俺を追い出した。

 ふざけんなよ、清水蓮司。卒業したら、っつったじゃん。

 ちなみに、蓮司さんはそのまま俺を家まで送り届けてくれた。

 俺に甘いんだか、厳しいんだか……。そんなわけで、家に帰されてしまった俺は、夜中布団の中でじたばたすることになったのだ。




 そして迎えた春休み。

「……待って、緊張してきた」

 俺は今、蓮司さんちのベッドの上で、正座している。

 風呂は先に入らせてもらった。

 蓮司さんに借りたTシャツはちょっと大きくて、蓮司さんの匂いがする。

 膝の上で握りしめた拳が、さっきから震えている気がするが、理由なんてわかりきっている。

 今日は、つまり、その日だからだ。ずっとずっとお預けされていたふたりっきりの夜。

「カチカチに固まってんな、お前」
「……どわっ!!!」

 脱衣所からひょっこり蓮司さんが現われ、からかうように笑っていた。

 風呂上がりの髪をタオルでがしがし拭きながら、こっちに歩いてくる。

 もうほんとやだ……っ、なんでこの人、こんなに色っぽいんだよ。

 濡れた前髪、首元の鎖骨、整った顔面に少しだけ意地悪な微笑み。心臓がぎゅっとなる。

 俺は正座した膝の上で、拳を握り直し、蓮司さんを睨みつけた。

「……笑ってんなよ、清水蓮司ぃ」
「そんな拗ねんなって」

 蓮司さんがベッドに腰掛けて、俺の頬に手を当てた。

「大晴」
「は、……はい」

 顔を覗き込まれて、目が合った。
 時間がほんの少しだけ遅くなった気がした。蓮司さんの瞳の中に、自分の情けない顔が映っているのが見えて、その距離の近さに息が止まる。
 次の瞬間には、唇が重なっていた。

「……っ」

 いつもより、深い。歯列を辿る舌の感触に、頭の芯が痺れて、考えることが何ひとつできなくなる。

「……ん、っ」

 角度を変えられて、また舌が入ってきて……。

 蓮司さんの体温が、唇からゆっくりと俺の中に入り込んでくるみたいだ。

 蓮司さんの手が頬から首筋に降りていって、そのまま肩を撫でた。Tシャツの上から、鎖骨に触れられているのがわかる。

 唇が離れた時、たぶん俺の顔は真っ赤だった。

「……どうする?」

 蓮司さんが、低い声で言った。

「お前が無理そうなら、今日はやめるけど?」

 心臓が爆発しそうだった。
 無理。無理だ。めちゃくちゃ恥ずかしい。だって、初めてだし、相手は蓮司さんだし、もし変な声出たらどうしようとか、もしうまくできなくて引かれたらどうしようとか、でも、俺は——。

「ぜっ、ったい! やめないでください!!!!」

 気づいたら、ベッドの上で叫んでいた。

「……ばか、声でけぇよ」

 蓮司さんが小さく笑った。
 俺はぎゅっと唇を噛んで、また正座のままうつむく。

「あの……」
「ん?」
「お、お手柔らかにお願いします……」

 蓮司さんが頭の上で笑った気配がした。
 俺は赤い顔のまま、頭を下げた。よろしくお願いします、清水蓮司。

「心得てるよ……」

 蓮司さんが、また顔を寄せてくる。
 Tシャツの裾に、蓮司さんの指がかかった——その瞬間。

「あっ、ちょっと待ってください!!」

 俺は反射的に蓮司さんの手を押さえていた。

「あ?」

 蓮司さんはめちゃくちゃ怖い顔をして睨んでくる。

「ちっ、違うんすマジで! 別にやめるってわけじゃ、なくて……! ただ、……あの、その、俺さっき風呂で気づいたんすけど……」
「……なに」
「俺、男に脱がされんの初めてじゃないっすか。……いや、誰にも脱がされたことねぇんですけど」
「……知ってるよ」
「で、なんかこう、……俺の体って、……どうなんすかね? 俺、腹筋もねぇし、ぶっちゃけしょうもない体っていうか……。蓮司さんが好きなのって、もっとこう……男っぽいムッキムキあざす!!みたいな体だったら、どうしようっつうか……」
「……」
「あ、いや、蓮司さんが俺のことちゃんと好きでいてくれるのはわかってるんすよ! それに、今からそれ言われても、鍛えるとか間に合わねぇし、もうこのまま行くしかねぇんすけど! ただ、もし蓮司さんが『うわ、ガキの体じゃん萎え~~~』ってなったら、……その、顔に出さないでもらえると……ありがたいっつうか……のびしろに期待してほしいっつうっか……」

 蓮司さんは、無言で俺を見ていた。
 俺はマジで蓮司さんに見えなくなるくらい小さくなりてぇ~~みたいな気分だった。
 しばらくの沈黙のあと、蓮司さんがふっと息を吐いた。

「お前さ、」
「は、はい」
「あんまゲイの俺、舐めんなよ?」

 ぽかんと蓮司さんを見つめること数秒——。

「……ぷはっ! なんすか、それ! パンチライン強すぎだろ!」

 吹き出して、ベッドの上で笑ってしまった。
 ゲイの蓮司さん舐めんなよって、舐めてないっす。だって俺、蓮司さんがゲイじゃなきゃマジで困るし。

 意味わかんねぇけど、なんかツボって笑い転げる俺の顎を、蓮司さんがそっと持ち上げる。

「ん……」

 またキスされた。今度は、ほんとに優しいやつ。蓮司さんの指先が、まだ笑いの余韻を残している俺の頬を、そっとなぞっていく。

「お前だったら、ぜんぶまとめて好きだから。信じろ」

 蓮司さんの言葉は、いつだって飾り気がない。
 だからその分、まっすぐに、俺のいちばん柔らかいところまで沈んでくる。

「ほんとに?」
「……ああ、ほんと」
「……俺のことぜんぶ好き?」
「好きだよ」
「……俺も……蓮司さん、好き」
「そうかよ。やったな。両想いだぞ、俺たち」

 淡々と蓮司さんが言う。
 俺が誰にも見せたくなかったかっこ悪さも、必死で隠してきた自信のなさも、ぜんぶひっくるめて、この人は黙って受け取ってしまうらしい。

 恐るべし、清水蓮司。

 俺はもう蓮司さんが好きで、好きで、好きで、好きで好きで好きで、その気持ちが胸の中でぐちゃぐちゃに膨らんで、それ以上は何も言葉にできなくて、ぎゅっと蓮司さんに抱きついた。

 蓮司さんの腕が、ゆっくりと俺の背中に回ってくる。

 Tシャツの裾から、また指が滑り込んできた。あばらを一本ずつ確かめるみたいに、俺の輪郭をなぞっていく。

 くすぐったい、と思うより先に、体の奥のほうがじんと熱を持つのがわかった。

 死ぬほど恥ずかしい。

 でも、俺はもうその手を止めない。





「えっ……」

 朝。
 目を覚ましたら、抱っこされていた。

 寝ぼけた頭で、状況を理解するのに数秒かかった。

 俺は、蓮司さんの腕の中にすっぽり収まっている。背中に蓮司さんの胸があって、お腹のあたりに蓮司さんの腕が回っていて、後ろから抱き込まれる形で。

 えっ、いつから、こんな格好で?

 昨日のことが、ぼんやりと頭の中を流れていく。
 蓮司さんの手とか、声とか、息とか、感触とか、ぜんぶ、まだ体中に残ってる感じがする。

 うわ、無理。思い出したら、また顔が熱くなってきた。

「……起きたか、大晴」

 背中のほうから、掠れぎみの低い声がした。俺は少しだけもぞもぞと肩を動かす。

「お、おはようございます……」
「おはよう。で、……体は?」
「……へ、平気っす」

 平気だ。たぶん。腰のあたりがちょっとだるい気がするけど、それは、まあ、その、いろいろあったので。
 蓮司さんがふっと笑った気配がした。

「あ、そうだ」

 蓮司さんが体を起こす。
 今まであった体温がするりと離れてしまって、ちょっとだけ寂しい気持ちになってしまった。

「手、出せ」
「え?」

 寝起きで頭が回っていない俺に、蓮司さんは構わず右手を取った。
 そして、するっと、何かをはめられる。
 右手の薬指に冷たい感触。

「……えっ!?」

 目を落とすと、薬指に、銀色の輪っかが光っていた。

「な、なんすか、これ」
「やるよ」

 蓮司さんは合鍵を渡してきた時と同じ顔をしていた。表情も、声のトーンも、まるで「ついでに思い出したから」みたいな素振りで。さりげなく。

「お前、危なっかしいんだよな……。だから、大学で変な虫がつかねぇように」
「……は?」

 俺は、右手の指輪と蓮司さんの顔を交互に見た。
 もう一度、指輪を見る。
 シンプルな、なんの飾りもない銀のリング。
 ふと、蓮司さんの手を見た。 右手の薬指に、同じものが、はまっていた。

「……お、おそろい!?」

 がばっと体を起こす。

「ああ」

 蓮司さんは何でもないみたいに言って、続けた。

「言っとくけど、返却不可だから」
「……か、返せって言っても、返しませんよ!!」

 俺は、指輪をはめた右手をそっと持ち上げて、目の前に持ってきた。
 朝の光に当てて、角度を変えて、何度も見る。
 マジで、指輪。蓮司さんと、おそろいの。

「へへ~~、ペアリングだぁ……! うれしいーーーーー!!!!」

 にこにこが止まらなくなって、ベッドの上で、にやけきった顔のまま、指輪を眺めていた。
 蓮司さんが、横でじっと俺を見ている。

「……ほんと、お前」
「え? なんすか?」
「……高校卒業まで待ってて正解だったわ」

 なにが? と聞き返す前に。
 ぐいっと、肩を押された。  ベッドに、押し倒される。
「えっ、ちょっ、蓮司さ——」
「お前はキリがねぇ」

 覆いかぶさってきた蓮司さんに、唇を塞がれる。

 熱がぶり返す。

 ていうか、おい、清水蓮司。そっちのほうがキリねぇから。





 四月下旬。
 桜が咲いて、入学式が来て、気づいたら俺は大学生になっていた。
 キャンパスは、想像していたよりずっと広くて、ずっと人が多くて、ずっとキラキラしていた。中庭の銀杏は、まだ若い緑の葉っぱをつけていて、秋になったら本当に黄色く染まるんだろうなぁ、と楽しみに思った。

 俺、ここに、来られたんだ。

 オリエンテーションも、最初の講義も、学食での昼飯も、ぜんぶ初めての景色で、ぜんぶ最高だった。

 ここ数日で、かなり友達ができた。隣の席の経済学部の同期、サークル勧誘でナンパしてきた先輩、講義で隣に座っていた女子。

 講義が終わって、俺はスマホ片手にキャンパスを歩いていた。蓮司さんからのLIMEで、「今日は中央棟のラウンジ」とだけ書いてある。

 ラウンジに着いて、きょろきょろと辺りを見回す。

 いた!

 蓮司さんは、窓際の席でノートパソコンを開いていた。隣に男の人がふたりいて話している。たぶん、蓮司さんのゼミの友達か何か。

「蓮司さーーーん!!」

 俺はラウンジのど真ん中で叫んでから、突進した。
 蓮司さんは顔を上げて、めちゃくちゃ嫌そうな顔をする。

「……うぜぇな」
「ひでぇ、蓮司さん!」
「叫ぶな、ばか」

 言いながら、蓮司さんはノートパソコンを閉じた。隣にいた男の人ふたりが、ぽかんと俺を見ている。

「……お前が、噂の?」

 ひとりが、にやにや笑いながら言った。

「噂っていうと……?」
「蓮司の弟のダチだろ?」
「あっ、そうっす!!」
「海斗とも知り合いなんだろ?」
「あっ、はい! バイト仲間っす。てか、俺、橋本大晴っす! 大きく晴れる、で大晴っす! よろしくおねがいしゃす!」

 反射でいつもの自己紹介をしたら、男の人ふたりが「あはははっ!」と大きく口を開けて笑った。

「マジで陽キャの塊みてぇな奴だな……!」
「蓮司の真逆って感じ」
「……うっせぇな」

 蓮司さんがそっぽを向く。

 蓮司さんは、大学の友達には俺たちのことを話していないみたいだ。

 俺たちが付き合っていると知っているのも、今のところ海斗さんだけ。

 蓮司さんは「いつかは話す」とも言わないし、「ずっと隠すつもり」とも言わない。

 たぶん、まだ蓮司さんの中に明確な答えがないのだろう。

 俺はそれでいいと思っている。蓮司さんが言いたい時に、言いたい相手に言えばいい。俺はその隣で、いつもみたいに「うぇーい」って笑っていられればそれで十分なのだ。

「今度、メシ行こーぜ、大晴」
「うれしいっす! 今度っていつっすか? 今日っすか? 俺、全然いけます! だめっすか?」
「ははっ! お前、かわいいな!」
「蓮司がかわいがるのもわかるわ」
「……もういいから、お前ら早く行けよ」
「はいはい」

 そう言って、ふたりはラウンジから出て行った。

「何にやにやしてんだよ、大晴」
「……えへへ」

 俺はなんだか感動していた。だって今までは「大学の蓮司さん」を知らなかった。だけど、こんなに近くで蓮司さんと一緒にいられる。
 なんか、ヤバい。じわっとくる。

「……蓮司さん、大学って楽しいっすね」
「そりゃあよかったな。勉強もちゃんとやれよ」
「やってますって!」

 蓮司さんが呆れたように笑ったその時、ラウンジの入り口に見慣れた姿が見えた。

 同じ大学で、同じ経済学部一年で、俺の恋人の弟――。

「翔太郎ーー!!!」

 翔太郎は手を振っている俺を見て、それからそばにいる蓮司さんに気づいて苦笑いをしていた。
 軽く手を上げた翔太郎を見て、ほかのみんなも俺に気づく。

「たいせー、こっち来いよ!」
「ねぇ、大晴聞いてよマジでー!」

 新しい友達が俺を呼び、俺はちらっと蓮司さんを見つめた。蓮司さんはなんてことないような表情で、片手をひらりと振る。

「ほら、さっさとみんなんとこ行ってこい」

 付き合ってから、わかったことがある。
 蓮司さんは、心配性だけど、束縛するタイプではないってことだ。
 たとえば、サークルの新歓で、俺が他の同期や先輩と盛り上がっていても、蓮司さんは離れたところで飄々としてこっちを見ている。
 放任せず、だけど距離を保ってちゃんと見守ってくれる、そんな感じで。

「……でもさー、蓮司さん」
「あ?」
「俺がみんなんとこ行って、嫉妬しないんすかぁ」

 わざと拗ねた顔で言ったら、蓮司さんは少しだけ目を細めた。

「まぁ……するけど」
「えっ」
「でも、みんなと一緒に笑ってるお前、かわいいから普通に見てぇし」
「……かっ!?!?!?」

 心臓が止まりそうになった。
 動揺する俺を見て、蓮司さんが、しれっと続ける。

「あと、お前がばかみてぇに笑ってんのに、俺の前ではめっちゃ泣かされてるって、知ってるしなぁ」
「……あ、悪趣味~~~!」

 思わず声が裏返った。

 やっぱ、清水蓮司はやばい。

 俺がアワアワしているのを見て、蓮司さんはほんの少しだけ口角を上げている。完全に楽しんでる顔だ。
 無意識に、右手の薬指に触れた。つけ始めて数週間。まだちょっとだけ慣れない。蓮司さんとおそろいの指輪。

 俺はもう真っ赤な顔で、「行ってきますぅ……!」と逃げるようにみんなのところに行った。

「ねぇ、大晴、あの格好いい人誰? 知り合い?」

 みんなのところに行った途端、友達の女の子がにやにやしながら聞いてきた。指の先には蓮司さんがいる。

「えっ!? えっと、その……」
「……俺の兄貴だよ」

 フォローするように答えてくれたのは、隣にいた翔太郎だ。

「えっ、翔太郎の!? 紹介してよ!」

 やっぱそうなるよなぁ……。わかる、めっちゃわかる!!

「紹介しねぇよ」
「えー、なんでー!」
「気持ち悪ぃくらい溺愛してる恋人いるから。紹介しても無駄」

 女子が「えー、マジか」とがっかりした顔をする。

「まぁ、でも納得。かっこいいもんね……」
「あははは……」

 俺は愛想笑いするしかなかった。
 そうしてひとしきりみんなと雑談したあと、俺はちらっと蓮司さんのほうを振り返った。

 蓮司さんは、相変わらず本に目を落としていた。

 だけど、目線だけこちらを向いて、互いに目が合った。
 蓮司さんがかすかに口角を上げて、また視線を本に戻す。

「うぅぅぅ……」
「どうした、大晴」

 俺は心臓のあたりを服の上から押さえて、「なんでもないぃ~~」と身もだえた。

「なぁなぁ翔太郎……」

 みんなの喧騒に紛れるように、こっそり翔太郎に話しかける。

「んぁ?」
「お前の兄ちゃんメロすぎ。無理、マジで好き。……大好き」
「……だからさぁ、俺の前で惚気んの、やめてもらえる?」

 翔太郎がめちゃくちゃ嫌そうな顔をする。

「えー、やだ。……へへっ、つうか、見て、これ」

 俺は笑いながら翔太郎の肩を抱き寄せて、右手をすっと持ち上げてみせた。

 窓から差し込む太陽の光に、銀色の輪っかがキラッと光る。
 ふたりおそろいの、大切な大切な指輪。

「大晴くんさ、言わしてもらっていい?」
「なに?」
「兄貴とダチが付き合ってんの、マッッッジで最悪!!!!」
「あははっ!」

 俺の大大大好きな恋人――の弟が、ますます深く眉間にしわを刻んでいる。俺は翔太郎の肩をよしよしと叩きながら「どんまい!」と大きく声を上げた。


おわり