友達の兄貴を好きになってしまいました

 どうやら俺はゲーセンのバイトに向いているらしい。

 まあ、そうなるよな、と自分でも思う。基本、人と話すのが好きだし、体を動かすのも好きだし、なんかわいわいしてる場所が好きだから。初日こそ機械の操作とか両替機の扱い方とか覚えることが多くてあっぷあっぷだったけど、一週間もしたらもうだいたいのことはできるようになっていた。

「橋本くん、覚え早いね」

 店長にそう言われて、「店長、あざっす!」とにかっと笑ったら、「今日も大きく晴れてるねぇ!」と大笑いされた。よくわかんねぇけど、褒められたってことでうれしい。

 仕事は楽しい。勉強より楽しい。

 ゲーセン特有の、うるさいくらいの電子音とか、ピカピカした光とか、休日は急に「うぉっ!」って感じで混むのとか、そういう全部が好きだった。お客さんと話すのも、メダルゲームに命を賭けてるおじいちゃんとか、プリクラ撮りまくってる女子中学生とか、クレーンゲームやりながらイチャイチャしてるカップルとか、みんなおもしろかった。

 クレーム結構あるからね、と店長に脅されていたけど、今のところクレームらしいクレームには当たっていない。
 蓮司さんにドヤ顔でそう言ったら、「お前、クレームをクレームだと感じる能力もねぇんじゃねぇの」とドン引きされた。「ちょっと何言ってるかわかんないっすね!」と笑ったら、また蓮司さんは黙り込んでどっかに行ってしまった。

 で、もう一個、楽しいことができた。

「たいせい~、お疲れー!」

 バイトの先輩の早川海斗さんだ。

 蓮司さんのバイト仲間でもあり、同じ大学で同じ二十歳の二年生。

 バイト二日目に「お前だろ? 大きく晴れて大晴って! 俺は、早川海斗、よろしく!」とガッと手を差し出してきた時から、ああこれ仲良くなれるやつだ、と思った。翔太郎とかたもっちゃんと同じ匂いがする。

 海斗さんは俺より少し背が高くて、ウェーブした髪の毛に日焼けした肌で、笑うと白い歯が見えて、いわゆる大学のキラキラした感じの人だ。

 蓮司さんの友人とは思えないほど、めちゃくちゃ陽キャなひとだった。同じ大学の同じ学年だと後から聞いて、人間って正反対でも繋がれるんだなと、なんか感心した。

 海斗さんもイケるんだったら、俺もワンチャンありえるんじゃね?

 そもそも蓮司さんは大学でどんな生活してるんだろうなぁと考えていたら、海斗さんがガシッと俺の肩を抱き寄せてくる。

「お前さ、俺らとは仲良くなったけど、蓮司とはまだ距離あるよな」

 そう言われた。

 俺は「えっ」と横を見る。

「距離、ありますかね?」
「あるじゃん。蓮司、お前のこと完全にスルーしてるし」
「いや、あれがデフォルトなんで! 蓮司さんはみんなにあんな感じなんで! ていうか、仕事はめっちゃ丁寧に教えてくれてますからね!」
「まあ、そうだけど」

 海斗さんが肩をすくめる。

「お前は特になんか、蓮司自身が距離を取ってる感じするわ」
「えっ、マジすか」
「知らんけどさぁ」

 知らんけどじゃないんですよ、と思いながら、でも思い当たるふしは山ほどあった。初対面でしゃべりすぎたし、部屋に強引に入ったし、毎日転がり込んでしゃべり続けてたし。まあ、嫌われても仕方ないか……と思いかけて、ちょっと待てよ、となった。

「でも! この前、蓮司さんがブランケットかけてくれたんで!」

 海斗さんが「あ?」と俺の顔を覗き込む。

「ブランケット?」
「そうです! 翔太郎の家で俺が寝ちゃった時に、夏用のブランケットかけてくれてて」
「……それ、マジで蓮司が? えー、想像つかねぇな」
「ほんとに蓮司さんしかいなかったんすよ! 幽霊じゃなきゃ、蓮司さんしかいねぇからマジで! ……待って、幽霊……の可能性あります……?」

 海斗さんはしばらく俺を見ていたあと、急に笑い出した。

「なに笑ってんすか」
「いや、お前おもしろいなぁ……!」

 そのまま海斗さんはひとしきり笑って、俺の頭をガシガシと撫でた。

「わかった、ちょっと考えといてやるよ」
「え、何をですか?」
「蓮司と仲良くなる方法」
「うっわ!!!! うれしい!!!! あざす!!!!」

 俺はその後、どうしても気になって、蓮司さんを探してゲーセンの端っこのほうまで歩いていった。蓮司さんは両替機のメンテナンスをしていた。

「蓮司さん!」
「……なんだよ」
「この前、俺が寝てた時にブランケットかけてくれましたよね?」

 蓮司さんは両替機から目を逸らさずに言った。

「俺じゃねぇよ。知らねぇ」
「え……。う、嘘だぁ! ぜったい蓮司さんだろ! だって蓮司さんしかいなかったし!」
「……夢でも見たんだろ、お前のことだから」
「いや、待ってくださいよ。蓮司さんっ!」
「……ばーか」

 それだけ言って、蓮司さんはまた機械に向き直った。
 俺は「ちぇ」と唇を尖らせて、持ち場に戻った。「ばーか」ってことは蓮司さんだったんだろ、と思った。「ばーか」って言う人は大体図星なんだと俺は知っている。

 その日、俺が知らない間に、海斗さんが蓮司さんのところに行ったらしかった。

「大晴、蓮司ともっと仲良くなりたいってよ」
「……うぜぇな」
「でも蓮司だって悪い気しないんじゃないの? あいつ、いい子だろ」
「いい子っていうか、ただのばかだろ」

 という会話があったことを、後で海斗さんに教えてもらった。
 そんなことを言ってても、仕事中に俺が困ってたら、ちゃんと助けてくれるのを知ってるんだからな、清水蓮司。



 バイトに入って二週間が経った頃、ゲーセンに女子高生の集団が来た。

 別に珍しくはない。でも今日はなんか多かった。五、六人いて、みんなして同じ方向を見てにやにやしていた。何を見てるんだろうと思って視線を追ったら、蓮司さんだった。

 蓮司さんはクレーンゲームの品出しをしていた。いつも通り無表情で、無言で、ただ手を動かしている。

 女子高生たちはわいわいと「ほら、あれだよ、言ってた人!」「やば、めっちゃかっこよくない?」「声かけてみようよ」「えーやだ」「じゃあうちが!」みたいなことを言っていた。

 めっちゃモテてんじゃん……。

 なんか変な気持ちになった。

 べつに嫉妬とかじゃない。友達の兄貴がモテてたって俺には関係ない。でも、なんか、変な感じがした。うまく言葉にできないけど、なんか、変な感じ。

 女子高生のひとりが「あのー!」と蓮司さんに声をかけた。
 俺はなんとなく手を止めて、見てしまった。塩対応するんだろうなぁ、と思いながら。
 でも蓮司さんは、ゆっくり振り向いて「何かお困りですか?」と笑った。

 マジ?

 敬語で、しかも声のトーンが、普段より半音くらい柔らかい。

 女子高生が「このクレーンゲーム、全然とれなくて……」と言ったら、蓮司さんはちょっとだけ考えてから「アームの位置、ここで一回止めてみてください」と機械のガラスをとんとんと叩いた。

 女子高生がはにかみながら、「え、ここですか?」ともう一回チャレンジする。ドンピシャでアームがぬいぐるみを捕まえて落ちてきた。

「え! マジでとれた!」

 女子高生が跳び上がって、仲間のほうを振り返る。

「見た!? とれたんだけど!!」

 みんなでひとしきり盛り上がってから、女子高生が蓮司さんのほうを向いた。

「ありがとうございます! めっちゃ嬉しいです!」

 蓮司さんは「よかったね」と少しだけ口角を上げて、また作業に戻っていった。

 その女子高生たちが俺の近くを通り過ぎる時に「なにあの人、好きになったかも……」「わかる、ぜったいメロ男」みたいなことを言っていた。

 えー……。

「あのメロ男、客には意外と優しいんだよなぁ」

 いつの間にか隣に来ていた海斗さんが、おかしそうに言った。

「俺たちにはアレだけど」

 海斗さんが笑う。

「まぁ、かわいい子だったしな~」

 は?
 俺にも優しくしろよ、清水蓮司。



 その日のバイト終わり。

 俺は更衣室に向かいながら、今日の蓮司さんのことを考えていた。もしも俺が女の子だったら、俺にも優しくしてくれたかなぁ——なんて思っていたら、更衣室のドアの前で足が止まる。

 蓮司さんと、海斗さんだ。

「……あの子、お前のタイプだろ」

 海斗さんの声だった。

「……」

 蓮司さんは何も言わなかった。

「やっぱそうじゃん! だから距離取ってんだろ!」

 タイプの子。

 さっきの女子高生かもしれない。それともバイトに来ている別の誰かか? もしかして大学の人かもしれない。蓮司さん、タイプの子がいるんだ。いや、当たり前か。二十歳だし。大学生だし。あんなにきれいな顔してたら色々あるよな。

 でも、なんか。

 すげぇムカつく。

「まだ言ってねぇの? お前がゲ――」

 俺は気合を入れて更衣室のドアを開けた。

「タイプの子ってどんなんすか!?」

 海斗さんが「うわっ!」と飛び上がる勢いで叫び。蓮司さんは俺を見て、無表情のまま固まった。

「誰っすか!? 女子高生っすか!? それとも大学の人!? 教えてくださいよ! 俺、蓮司さんと仲良くなりたいっす! つうかずりぃよ、その子~~! 蓮司さんにタイプって言われてんの! 俺より先にぜったいに仲良くならないでくださいよ〜!」

 ぎょっとしている蓮司さんと、「あはははっ!」と笑い崩れた海斗さん。

「なに笑ってんすか海斗さん! 俺は本気ですって! で、蓮司さん、誰なんすか! 教えてくれてもよくないですか! 仲良くなりたいだけなんですよ俺は! べつに邪魔するとかじゃなくて! いや、ちょっとはもやもやしますけど!」

 もやもやするのはなんでだろう、と思いながらも口は止まらなかった。

 蓮司さんは俺を一回だけ見て、さっと鞄を手に取った。

「帰るわ。お疲れ」
「あっ、ちょ、待ってくださいよ! 蓮司さん!」

 結局、蓮司さんは、タイプの子のことを教えてくれなかった。



 蓮司さんは先日、ひとり暮らしを始めた。

 翔太郎の家から歩いて十分くらいのアパートで、なんと俺の家の通り道だ。

 それを知った時、俺はめちゃくちゃ嬉しかった。
 だってバイト帰りは一緒に帰れるし。
 
 その日のバイト帰り。俺は蓮司さんの隣を歩きながら、「一緒に帰れるの嬉しいっすね」とにやにやしながら言った。
 蓮司さんはしばらく……ていうか、ずっと黙っていた。

「今日、蓮司さんの家に遊びに行っていいっすか?」
「……」
「あ、いいってこと――」
「だめに決まってんだろ」
「えー? いいじゃないですか、ちょっとだけ。俺も蓮司さんの家の前まで行くんですから」
「……わざとあそこにしたわけじゃねぇからな」
「えぇ? ほんとにぃ? 俺と一緒に帰りたいから、このあたりにしたんじゃないっすかぁ?」

 思い切り睨まれた。俺は「いや、わかってますって!」と慌てて言った。

 夜道を並んで歩きながら、蓮司さんは相変わらず無口で、俺はいつも通りしゃべりまくった。今日の仕事のこととか、女子高生が蓮司さんに声かけてたところを見ていたこととか。その後、「メロ男」って言ってたこととか。

「蓮司さんってああいう子たちが好きなんすか?」

 ふと聞いたら、蓮司さんが俺を見た。

「なんで?」
「いや、なんとなく。モテてんなぁと思って」

 信号が赤になったところで立ち止まって、蓮司さんの横顔を見た。街灯に照らされた色素の薄い肌が、夜だとなんかもっときれいに見えた。

「つうか蓮司さんのタイプの子、教えてもらってない……」
「タイプタイプうるせぇなぁ」
「教えてくれたっていいじゃないですか……」
「俺は好きになりたくねぇんだよ。タイプだってわかってるから、近づきたくもねぇの。お前と違って、大人には色々あるんだよ」
「あははっ! さっぱり言ってることがわかんないっすね!」

 あっけらかんと言った俺をじっと見て、蓮司さんは「よかったよ、お前がばかで」と鼻で笑った。
 わかんねぇ。だって、好きならぜったい近づきたいじゃん。
 信号が青になって、ふたりで渡る。清水蓮司の考えていることはやっぱよくわかんねぇわ。だから、おもしろいんだけど。



 数日後、海斗さんからLINEが来た。

『大学のやつらとみんなで遊ぶんだけどお前も来る?』

『俺が行っていいんすか?』と返したら、

『仲良くなりたいんだろ? 蓮司も来るぞ』

 そんなメッセージがきた。
 俺はすぐさま「行きます!!!!」と返した。

 待ち合わせは駅前の焼き肉屋で、土曜日の夕方だった。俺はちょっとだけ緊張した。大学生の中に一人で入っていくのは、流石にちょっとだけ気まずい。でも蓮司さんと仲良くなれるなら問題なし、と思って店に入った。

 座敷に通されると、すでに何人かいた。

 海斗さんと、人がよさそうな男子大学生がひとりいた。そして、かわいい女子大生がふたりいた。人がよさそうな男子大学生と女子大生は三年生だと自己紹介してくれた。三人とも二十一歳で、蓮司さんと海斗さんの先輩らしかった。

「橋本大晴です! 高校二年です! よろしくお願いします!」

「かわいい!」と女子大生のひとりが言った。

「え、ありがとうございます! 俺、かわいいっすか? ぜってぇ先輩たちのほうがかわいいですよ」

 それでたちまち仲良くなった。

 先輩たちに「高校生なの? 若い!」とか「大晴くんって呼んでいい?」とか言われながら、俺は蓮司さんのことを根掘り葉掘り聞いた。普段どんな感じなのか、大学でも無口なのか、友達は何人いるのか、彼女はいるのか。

「清水くん、大学でも無口だよ〜」と先輩のひとりが笑った。

「でも頭いいから、みんなに頼られてるよね?」
「本人めっちゃ嫌そうだけど」
「わかります!」
「あと、意外と後輩の面倒見がいいんだよ」
「それもわかります! この前も俺が仕事わかんなかったとき、ちゃんと教えてくれてビビりました」
「でしょ〜?」

「あっ、そうだ、蓮司の高校の時の写真あるよ」

 そう言って先輩のひとりがスマホを取り出した。

「うちのサークルに同期がいてさ、一年の時のやつ」
「え!!! 見せてください!!!!!!!!!!!!」

 差し出されたスマホをのぞき込んで、「うわ」と声が出た。
 制服姿の蓮司さんだった。今より少し幼い顔をしていて、周りの男子たちと肩を並べて立っているのに、なんかひとりだけ馴染んでいなかった。真顔で、やっぱりどこかヴィランっぽい。

「かっけぇ……今とあんまり変わんないですね……」
「でしょ〜。昔からずっとこんな感じらしいよ」

 先輩が笑う。

「でも、ちょっと幼い感じもしてかわいくない?」
「かわいいっす。それ、送ってもらえますか?」
「めっちゃ好きじゃん、蓮司のこと。ははっ、いいよ〜」

 上機嫌で画像を受け取って、保存した。よし。

 みんなはどんどんお酒を飲んでいって、いい感じに賑やかになっていた。俺はジュースだったけど、場の空気がふわふわしていて楽しかった。俺もはやく蓮司さんと一緒に飲み会してぇなぁとか思う。つうか、蓮司さん遅くね?

「大晴くんは、彼女いるの?」
「あー……それがいないんすよ。絶賛募集中なんで」
「じゃあ、うちが立候補しようかなぁ」

 先輩のひとりが冗談を言い、俺は軽いノリで「マジっすか?」と返した。その時だ。
 笑い声が、すっと止んだ。先輩たちの視線が俺の背後に向いて、海斗さんが微妙な顔をした。なんだ、と思って振り返る。
「何やってんの、お前」
 ひどく低い声がした。
 俺は振り返って、固まった。
 蓮司さんだった。
 いつもの無表情なんだけど、なんか、いつもよりもっと温度が低い気がした。俺を見る目が、めちゃくちゃ怖い。

「あっ、蓮司さん! 来るの遅かったっすね! ここ、隣に座ってくださいよ、俺、先輩たちとめっちゃ仲良くなりましたよ! 蓮司さんのこと色々聞いて——」
「来い」

 蓮司さんが一言だけ言った。
 俺だよな? うん、俺だよね?

「……はい」と震え上がりながら立ち上がった。

 海斗さんが「蓮司、ちょい待てって——」と言いかけたけど、蓮司さんは「こいつ送ってから、戻る」そう言ってもう廊下に向かって歩き出していた。

 俺はあわあわしながらも、先輩たちに「めっちゃ楽しかったっす、じゃあ失礼しまーす!」と言って席を立った。
 出口に向かうと、蓮司さんは店の前に立って俺を待っていた。怖い顔をして腕を組んでいる。

「橋本、お前なんでいんの?」

 蓮司さんに名字で呼ばれたのは、これが初めてだった。

「あ、名字覚えててくれたんすか――!?」
「だから、なんでいんのって聞いてんの」

 有無を言わさないセリフに、俺はまた少しだけ縮み上がった。

「か、……海斗さんに誘ってもらいました。蓮司さんと仲良くなりてぇって相談したら……誘ってくれて……みたいな?」

 蓮司さんは俺を殺す勢いでじっと見つめてくる。

「あの、怒ってます?」
「……高校生が大学生の飲み会に来てんじゃねぇよ」
「いや、俺ジュースなんで! 飲んでないっす!」
「そういう問題じゃねぇだろが。お前さ、マジでなんかあったらどうするつもりだったんだよ」
「なんかって……でも、先輩たち、めっちゃいい人たちで……!」

 もどかしそうなため息を吐き、蓮司さんが口を開く。

「もういい……行くぞ」
「え? どこに?」
「お前の家だよ、ばかが」

 それだけ言って、さっさと歩いていく。俺はその背中を追いかけながら、首を傾げた。
 清水蓮司、お前のことがわかんねぇ。
 家まで送ってもらったけれど、蓮司さんは一言もしゃべらなかった。
 玄関まで着くと、蓮司さんは俺を見た。なんか、すごく、ほんとにめちゃくちゃ——疲れたような顔をしていた。

「……橋本」
「はい」
「お前、なんで俺の周りうろつくわけ?」

 なんで。
 俺は口を開きかけて、閉じた。
 いつもなら言葉がすぐ出てくるのに、出てこなかった。
 なんでだろう。翔太郎の家で転がり込んで、ぺらぺらしゃべって、ブランケットかけてもらって、蓮司さん追いかけてゲーセンで働いて、仲良くなりたくて飲み会にまで押しかけて、めっちゃ怒られて。なんで蓮司さんともっと仲良くなりたいんだろう。蓮司さんのそばにいたいと思うんだろう。

「わ、わかんないっす。すみません。でも、せっかく蓮司さんが聞いてくれたのに、答えないとかちょっと自分的にありえないんで、時間もらえますか? 必ず、答え用意するんで、そりゃあもちろん、ぜったいに!」

 誓いながらそう言うと、蓮司さんがどうしようもないと言いたげにため息をついた。

「ばかな奴ほどなんとやら……」
「え?」

 蓮司さんがほんの少しだけ笑う。

「……じゃあな、大晴。また明日」
「あ、はい! また明日……!」

 ていうか、えっ!?

「い、今! 大晴って呼んでくれました!? えっ、ちょっ、蓮司さん!?」

 蓮司さんは俺の叫び声をあっさりシカトして行ってしまった。

 名前を呼ばれただけなのに、なんだよこれ、めちゃくちゃ心臓がやばい。

 おい、嘘だろ、清水蓮司。大晴って、もっかい呼んでくださいよ。