今日も、明日も。

「お前なぁ。相手に好意もないのに付き合ったりするのは女の子に失礼だろうが。俺は寂しいとか全然ないから、恋愛や結婚は今のところは考えてねえから」
「んだよ、負け惜しみかぁ?」
「そんなんじゃねえっての」
軽く笑いながら彼は四角い茶色のテーブルを布巾で拭き始める。相手と一緒になってバカ騒ぎするわけではなく、下世話な話題にノリで茶化して返すわけでもない。
嫌な雰囲気にならないよう上手く躱すところに尊敬のようなものを感じると同時に、誠実で他人を大切にできる彼だから矢張り惹かれるのだと改めて実感したのだった。

「まさかあの時の西宮との会話を、杏奈ちゃんに聞かれていたとは……」
「ずいぶん親しく話されていましたが、あの方はお知り合いですか?」
「ああ。高校時代からの友人だよ。あいつはもう結婚してるから変な気遣いばっかしてきやがるんだ」
彼が額に片手をあてて小さく息を吐き出しながら言う。それを見て私が苦笑いを浮かべると、彼は一瞬だけ真顔になり、私を見た。
そしていつも通り柔らかで優しげな栗色の瞳で、穏やかな陽だまりのような眼差しをこちらに向ける。
「まぁ今度、西宮に会ったらちゃんと伝えるよ」
「えっ……」
優斗さんと視線がかち合う。胸の中をじんわり温かいものが広がっていくとともに、心臓の鼓動がゆっくり加速していく。
「もう結婚前提の相手が見つかった、ってさ」
彼は優しく微笑むとゆったりとした足取りで私に近づき、正面から抱きしめた。それに応えるように両手を優斗さんの背中に回して抱きしめ返す。頬がだんだん熱くなっていく。
黒のダウンジャケットに包まれた彼の肩口に顔を埋めると、お日様のような暖かいぽかぽかした匂いがして、切なさと安心感に身体が充たされていった。

おわり