今日も、明日も。

高校を卒業してからもう二度と、その名を呼ぶことはないと思っていた。高校時代、先生の苗字を呼ぶだけで胸と顔が熱くなっていった。何人かいる教師の中の、たった一人の苗字というだけなのに、まるで宝物のように感じていた。
懐かしさと戸惑い、そして先生に片思いをしていたあの頃みたいに心臓の鼓動が早くなっていく。まるで高校時代に止まってしまった時計の針が再び動き出したように。
「杏奈ちゃん、そっちはなにか良い商品見つけた……って、」
優斗さんの声が背後から聞こえたが、どこか遠く感じた。それでも私は振り向いて彼を見た。
「あ、優斗さん……」
「後ろにいる男性は、杏奈ちゃんの知り合いか?」
声は穏やかで柔らかい物言いだが、表情は普段と違って固く真面目な面持ちで、こちらをじっと見下ろしている。
視線は私というより背後にいる春川先生に真っ直ぐ注がれている。
「あ、えっと。こちらは私が高校時代の担任教師で、」
私は慌てて立ち上がりながら、急いで口を開いた。べつに先生と二人きりで密会したわけでもないし、優斗さんへの想いが消えたわけでも心変わりをしたわけでもない。だけど罪悪感のようなものが胸に広がる。
「春川大知先生は私が高校の時に、とてもお世話になった方です。先生、こちらは、」
「杏奈さんはたしかひとりっ子だったよね。いつの間にこんな大きなお兄さんが……」
私の言葉を遮って言ったわりには天然な春川先生の言葉に、勝手に頬が緩んで思わず笑ってしまいそうになる。