2024年10月7日 曇り 気温18度
水無月市に到着したのは午後三時過ぎだった。駅を降りると、予想していたよりも静かな町が広がっていて、駅前のロータリーには古びたタクシーが二台停まっているだけで、人の気配は薄い。バスの本数も一日に数本しかないらしく、結局、駅前の観光案内所で電動自転車を借りることにした。
目的地は旧水無集落。かつて人形送りの風習が盛んだったこの地域も、今では過疎化が進み、住民のほとんどが町の中心部へ移住してしまったという。修士論文のテーマは「消えゆく民俗儀礼の記録と保存」で、特に水無月市の人形送りについて詳しく調査するつもりだった。
自転車を漕ぎながら、指導教官の言葉を思い出していた。
「柊君、フィールドワークは記録が命だ。観察したことは全て、できる限り詳細にノートへ残すように」
几帳面な性格で、物事を記録することに喜びを感じる方だった。だからこそ民俗学を選んだのだし、この調査にも期待を抱いていた。
旧水無集落までの道は舗装こそされているものの、両脇には雑草が生い茂り、手入れされていない様子が窺える。途中、廃屋が点在していて、その多くは窓ガラスが割れ、壁が崩れかけていた。人の気配がまるで感じられない風景の中を進んでいくと、かつてはここにも人々の生活があったのだと思うと、胸が締め付けられるような気持ちになる。
集落の入口には古い木製の看板があり、「旧水無集落」と書かれていた。文字は風雨に晒されて薄くなり、読み取るのに少し時間がかかる。自転車を降り、看板の前で一枚写真を撮った。記録のためだ。この看板もいつか朽ち果てるだろうから、今のうちに残しておかなければならない。
集落の中心部には、まだ数軒の民家が残っていた。煙突から煙が上がっている家もあり、人が住んでいることがわかる。事前に連絡を取っていた古老、タケさんの家を訪ねることにした。タケさんは今年で八十二歳になるが、この土地で生まれ育ち、人形送りの儀式についても詳しいと聞いていた。
タケさんの家は集落の奥にあった。古い日本家屋で、瓦屋根が少し歪んでいるものの、庭は綺麗に手入れされていて、季節外れの菊が咲いている。玄関先で声をかけると、腰の曲がった老人が奥から現れて、出迎えてくれた。
「あんた、大学の人かね」
タケさんは顔をじっと見つめながら言う。声は掠れていたが、目には鋭い光があって、こちらの内面を見透かすような視線だった。
「はい、柊と申します。お電話でお話しさせていただいた者です」
「ああ、そうかそうか。まあ上がりなさい。冷えるだろう」
タケさんは居間に通してくれた。畳の部屋には古い仏壇があり、その隣には白黒写真が何枚も飾られていて、どれも昔の集落の様子を写したものらしく、大勢の人々が写っている。タケさんは座布団を勧めると、自分も向かい側にゆっくりと腰を下ろした。
「人形送りのこと、調べに来たんだってな」
「はい。できれば昔の風習について、詳しくお話を伺いたいんです」
タケさんは少し考え込むような仕草を見せた。窓の外を眺めながら、遠い記憶を辿るように目を細めて、それから、ゆっくりと話し始める。
「昔はな、この辺りじゃ誰もが人形送りをやったもんじゃ。春と秋、年に二回。自分の厄を人形に移して、川に流すんだ」
ノートを取り出し、ペンを走らせる。タケさんの話す内容を一言一句、漏らさず記録しようと思った。老人の言葉には独特のリズムがあり、まるで昔話を聞いているような心地よさがあった。
「人形はどうやって作るんですか」
「木を削って作る。最初はのっぺらぼうでいいんだ。顔なんて彫らなくてもいい。大事なのは、自分の厄を込めることだからな」
「厄を込める、というのは具体的にどういうことですか」
「病気になりたくないとか、不幸になりたくないとか、そういう思いを人形に吹き込むんだ。そうすると、人形がその厄を引き受けてくれる」
タケさんは淡々と説明してくれたが、その言葉には妙な重みがあった。まるで自分が実際に経験したことを語っているかのような、確信に満ちた口調だった。
「それで、人形を川に流すわけですね」
「ああ。水無川に流すんだ。川の流れに乗せて、遠くへやる。そうすれば厄も一緒に流れていく。海まで辿り着けば、もう戻ってこない」
「流した人形は、どうなるんですか」
質問に、タケさんは少し表情を曇らせた。皺の刻まれた顔に、一瞬、何か暗い影が差したように見える。
「戻ってこない。二度と戻ってこないんだ。それが人形送りの掟だ」
「掟、ですか」
「そうだ。人形は流したら、絶対に探しちゃいけない。写真も撮っちゃいけない。もし記録したら……」
タケさんはそこで言葉を切った。続きを促すように、少し身を乗り出す。
「もし記録したら、どうなるんですか」
「道を教えることになる」
「道を、教える?」
「人形が戻ってくる道をな」
声は低く、重かった。タケさんは真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。むしろ、何か深刻な警告を発しているような、そんな迫力すら感じられた。
「でも、それは迷信ですよね」
少し笑いながら言った。科学的に考えれば、人形が戻ってくるなんてありえない。川に流されたものが上流へ戻ることなど物理的に不可能だ。
「迷信だと思うかね」
タケさんはじっと見つめてくる。その目には、何か言いたげなものがあって、哀れむような、それでいて諦めたような光が宿っていた。
「まあ、そう思うなら構わん。だが、覚えておきなさい。流した人形の写真は、絶対に撮っちゃいかん。記録しちゃいかん。それだけは守ってくれ」
「はい、わかりました」
ノートに書き留める。
「流した人形の写真を撮ってはいけない——地域住民の強い禁忌。科学的根拠はないが、信仰心は根強い」
その後、タケさんは人形送りの具体的な手順や、儀式が行われていた場所について教えてくれた。川の中流にある浅瀬が、かつて多くの人々が人形を流した場所だという。春の彼岸と秋の彼岸に、家族総出で人形を作り、それぞれの願いを込めて流したのだと、タケさんは遠い目をして語った。
「あの頃は、川が人形で溢れておった。何十体も、何百体も。みんな川を流れていって、やがて見えなくなる。それを見送るのが、この集落の春と秋の風物詩じゃった」
「今は、もう誰も流さないんですか」
「ああ。若い者は都会へ出ていったし、残った者も高齢でな。儀式をする者はおらん。わしも、もう何十年も流しておらん」
タケさんの声には、寂しさが滲んでいた。失われていく文化への哀惜が、言葉の端々に感じられる。
家を出る際、タケさんは玄関先まで見送ってくれた。夕暮れが近づき、空は薄い橙色に染まり始めていた。
「気をつけてな。あんた、まだ若いんだ。無理はしちゃいかん」
「ありがとうございます」
頭を下げて、自転車に跨る。タケさんは見えなくなるまで、玄関先に立っていた。その姿を振り返りながら、何か言い知れぬ不安を感じていた。タケさんの警告が、妙に胸に引っかかっていたのだ。
宿に戻ったのは夕方六時頃だった。泊まっているのは、集落からほど近い民宿で、夫婦で切り盛りしている小さな宿だった。部屋に入ると、すぐにノートを開き、今日の調査内容を整理し始める。
タケさんから聞いた話を丁寧に書き写しながら、人形送りという儀式の本質について考えていた。厄を人形に移して流す。それは一種の身代わり信仰であり、日本各地に似たような風習が存在する。しかし、「写真を撮ってはいけない」という禁忌は興味深かった。なぜ記録してはいけないのか。記録することで、人形の存在が固定されるからだろうか。それとも、記録という行為そのものに何か意味があるのだろうか。
そこまで書いて、ペンを置いた。窓の外はすっかり暗くなり、虫の鳴き声だけが聞こえている。遠くで水の流れる音も聞こえる気がして、窓を開けて外を眺めた。闇の中に、水無川の流れが見えた。
2024年10月8日 晴れ 気温21度
翌朝、早めに宿を出て、水無川の下流へ向かった。タケさんが教えてくれた浅瀬は中流域にあるが、まずは川全体の様子を把握しておきたかった。下流から上流へと辿っていけば、人形が流される経路を理解できるだろう。
水無川は思っていたよりも穏やかな流れだった。川幅は十メートルほどで、両岸には葦が生い茂っている。水は透明度が高く、川底の石がはっきりと見えた。川沿いの小道を自転車で進みながら、時折立ち止まって写真を撮る。川の流れ、岸辺の様子、周囲の風景。全てが記録の対象だった。
下流域を調査していると、川岸に何か引っかかっているのが見えた。最初は流木かと思ったが、近づいてみると、それは人形だった。
自転車を降り、川岸へ降りる。足元の草を掻き分けながら人形に近づくと、それが木彫りであることがわかった。高さは三十センチほどで、全体的に風化が進んでいて、木の表面は灰色がかっている。顔の部分は特に摩耗が激しく、目鼻立ちはほとんど判別できなかった。のっぺらぼうと言ってもいいくらいだ。
人形を手に取る。思ったよりも軽く、表面はざらざらしていた。長い年月、川の水に晒されてきたのだろう。背中を確認すると、かすれた文字が彫られていた。
「流サレシモノ」
流された者。流されたもの。
人形送りで流された人形に違いなかった。胸が高鳴るのを感じる。これは貴重な資料だ。実際に儀式で使われた人形を発見できるとは思っていなかった。タケさんの話では、流された人形は海まで流れていくはずだが、この人形は途中で岸に引っかかったのだろう。
人形を様々な角度から観察する。木の種類は桜だろうか。彫りは素朴で、職人の手によるものではなく、おそらく一般の人が自分で削ったものだと思われる。彫刻刀の跡が不揃いで、手作り感が強い。人形の手足は簡素な作りで、胴体も円柱に近い形状だ。儀式の道具として、最低限の形を整えただけなのだろう。
そして、写真を撮った。
正面から一枚、側面から一枚、背中の文字を一枚。さらに、人形を手に持った状態で一枚。記録として残すべきだと思ったからだ。科学的な調査において、写真記録は不可欠だ。タケさんの警告は頭にあったが、それは迷信に過ぎない。記録を残すことが、使命なのだから。
撮影を終えた後、GPSで現在地を記録する。北緯三十五度十二分四十三秒、東経百三十六度五十四分十八秒。川岸の詳細な位置も、後で地図に書き込むつもりだ。正確な位置情報は、調査の基本中の基本だ。
人形をどうするか少し迷ったが、結局、元の場所に戻すことにした。持ち帰るべきか悩んだが、やはり現地に残しておく方が適切だろう。文化財保護の観点からも、むやみに動かすべきではない。人形を川岸の草むらに置き、もう一度写真を撮ってから、その場を離れた。
宿に戻る道すがら、妙な感覚に襲われた。人形を撮影したことを、なぜか後悔している。理由はわからない。ただ、タケさんの言葉が頭の中で繰り返されていた。
「写真を撮ると、道を教えることになる」
しかし、それは迷信だ。自分に言い聞かせる。科学的に考えれば、写真を撮ったからといって何かが起こるわけがない。それでも、胸の奥に引っかかる違和感は消えなかった。まるで、何か大きな過ちを犯してしまったような、そんな重苦しい感覚だった。
その夜、ノートに記録を残した。
「本日、水無川下流域にて、人形送りで使用されたと思われる木彫りの人形を発見。背中に『流サレシモノ』の文字。風化が著しく、顔の判別は困難。記録のため写真撮影を実施。GPS座標も記録済み。しかし、なぜか撮影したことを後悔している。タケさんの警告が頭から離れない。科学的根拠のない不安だとはわかっているが……」
そこでペンを止めた。窓の外から、水の流れる音が聞こえる気がする。それは川の音なのか、それとも雨が降り始めたのか。しかし空を見ると、星が見えていた。
2024年10月9日 曇り 気温19度
翌朝、再び同じ場所を訪れた。人形がまだそこにあるか確認したかったのと、もう少し詳しく周辺を調査したかったからだ。
しかし、川岸に着くと、人形がなくなっていた。
草むらを丁寧に探したが、どこにも見当たらない。昨日置いた場所を何度も確認したが、人形の姿はなかった。誰かが拾ったのだろうか。それとも、増水して流されたのだろうか。昨夜は雨が降った様子もないし、川の水位も変わっていないように見える。
少し困惑しながら、川沿いを歩き始めた。もしかしたら、少し流されて別の場所に引っかかっているかもしれない。下流方向を探したが、人形は見つからなかった。川岸を三百メートルほど下ったが、人形らしきものは何も見当たらない。
ふと思いついて、上流方向を探してみることにした。流れに逆らって移動することはありえないが、念のため確認しておきたかった。もしかしたら、誰かが拾って上流に運んだのかもしれない。
川沿いの道を上流へ進むこと約五百メートル。中流域の浅瀬に差し掛かったところで、人形を発見した。
同じ人形だった。背中の「流サレシモノ」という文字で、間違いないと確認できる。しかし、位置が明らかにおかしい。昨日、人形は下流にあった。それが今日は上流にある。
GPSで位置を確認した。北緯三十五度十三分十二秒、東経百三十六度五十四分五十秒。昨日の地点から、約一キロメートル上流だ。
川の流れに逆らって、人形が移動した?
そんなことはありえない。物理的に不可能だ。誰かが移動させたのだろう。地元の住民か、あるいは他の調査者か。しかし、この過疎地域に、わざわざ人形を移動させるような人間がいるとは思えない。タケさんに聞いた限りでは、この辺りで人形送りに関心を持っている人間は、もうほとんどいないはずだ。
人形を手に取る。昨日と同じ、軽くてざらざらした感触。しかし、何かが違う気がした。顔の部分を凝視すると、昨日よりも輪郭がはっきりしているように見える。風化でぼやけていた部分が、少し整っているような……。
いや、気のせいだろう。一日でそんなことが起こるわけがない。記憶違いか、思い込みに違いない。昨日は暗かったから、よく見えていなかっただけかもしれない。
それでも、再び写真を撮った。記録のためだ。変化を追跡するためには、継続的な撮影が必要だ。正面から一枚、側面から一枚、背中から一枚。そして、昨日と同じように、GPS座標も記録する。記録を比較すれば、何が起こっているのか、いずれわかるはずだ。
人形を元の場所に置いて、宿へ戻った。しかし、頭の中では疑問が渦巻いている。人形が上流へ移動した理由。顔の輪郭が整って見えた理由。どちらも説明がつかない。誰かが悪戯をしているのか。それとも、本当に何か不可解な現象が起きているのか。
その夜、ノートに記録を残した。
「人形が移動している。昨日の地点から約一キロメートル上流で再発見。流れに逆らって移動することは物理的にありえないため、誰かが動かした可能性が高い。しかし、この地域でそのような行動を取る人間がいるとは考えにくい。また、人形の顔が昨日よりも整って見える。風化の進行とは逆の現象。要継続観察」
ペンを置いて、窓の外を見る。月が雲に隠れて、外は真っ暗だった。遠くで、また水の流れる音がする。今度は確かに聞こえる。川の音だ。
2024年10月10日 晴れ 気温22度
三日目。朝一番で川へ向かった。人形がどこにあるのか、確認しなければならない。もし今日も移動していたら、それは偶然ではない。何か意図的な力が働いているということだ。
中流域の浅瀬を訪れたが、人形はそこにはなかった。予感めいたものを感じながら、さらに上流へ進む。予感は、嫌な予感だった。
そして、予感は的中した。
人形は、さらに上流で見つかった。中流域から約八百メートル上流、川が少し曲がっている地点の岸辺に、人形は横たわっていた。まるで、誰かがそこに寝かせたかのように。
GPS座標を確認する。北緯三十五度十三分五十秒、東経百三十六度五十五分二十秒。
三日間で、人形は下流から約二キロメートル、上流へ移動していた。
人形を拾い上げる。手に取った瞬間、妙な温もりを感じた。木は通常、冷たい。特に朝の冷え込んだ空気の中では、もっと冷たいはずだ。しかし、この人形は微かに温かかった。まるで、誰かが握っていたかのような温もり。生き物の体温に近い温度。
そして、顔を見た瞬間、息を呑んだ。
顔が、明らかに整っていた。
一日目は風化でのっぺらぼうだった。二日目は少し輪郭がはっきりしていた。そして今日、三日目。目の窪み、鼻の隆起、口の線。それらが、はっきりと形作られていた。彫刻刀で新たに彫られたかのように、鮮明な顔立ちになっている。
これは、気のせいではない。
人形の顔が、日ごとに整っていっている。
手が震えるのを感じた。何が起こっているのか、わからない。誰かが細工しているのか。それとも、目がおかしいのか。しかし、写真を見返せばわかるはずだ。昨日も一昨日も、写真を撮っている。記録は残っている。
カメラを取り出して、人形を撮影した。正面、側面、背中。そして、顔のアップを何枚も。記録を残さなければ。変化を追跡しなければ。これは重要な発見かもしれない。未知の現象かもしれない。
撮影を終えた後、人形をじっと見つめた。この人形は、何なのだろう。本当に、ただの木彫りなのだろうか。それとも、何か別の存在なのだろうか。
宿に戻って、すぐにパソコンで写真を確認した。一日目、二日目、三日目の写真を並べて比較する。画面を凝視しながら、震えが止まらなかった。
変化は、明らかだった。
一日目の人形は、顔がほとんど判別できない。二日目は、輪郭が少しはっきりしている。そして三日目は、明確に目鼻口が形作られている。これは現実に起こっている。記録として残っている。
これは、現実に起こっていることだ。
ノートに記録を残した。しかし、手が震えて、文字が乱れる。ペンを握る手に力が入らない。
「人形が、川を遡上している。三日間で約二キロメートル、上流へ移動。物理的に説明できない現象。さらに、人形の顔が日ごとに整っていく。風化とは逆の変化。誰かが細工しているのか。それとも……。撮影を続けるべきか迷う。タケさんの警告が、今になって重くのしかかる」
その夜、眠れなかった。窓の外から、水の流れる音が聞こえる。いや、水音だけではない。何か、木がこすれるような音も混ざっている気がした。カタカタと、規則的な音。まるで、何かが歩いているような。
2024年10月11日 雨 気温17度
四日目の朝、部屋の前に人形が置かれているのを発見した。
部屋のドアを開けた瞬間、目に入った。廊下の真ん中に、まっすぐ立てられた人形。こちらに向かって、顔を向けている。まるで、待っていたかのように。
声も出せずに立ち尽くした。心臓が激しく打っている。喉が渇いて、呼吸が浅くなる。これは、夢ではない。現実だ。目の前に、確かに人形がある。
誰が置いたのか。
廊下を見回したが、誰もいない。静まり返った廊下には、人形だけがいた。朝の光が窓から差し込んで、人形の影が長く伸びている。
恐る恐る人形に近づいた。間違いない。これは、川で見つけた人形だ。背中の「流サレシモノ」という文字で確認できる。しかし、なぜここにあるのか。誰が、わざわざ川から運んできて、部屋の前に置いたのか。
人形を拾い上げる。そして、驚愕した。
人形が、温かい。
昨日感じた微かな温もりではない。明確な、生き物のような温もりだ。まるで人肌のような温度。そして、表面も少し柔らかい気がした。木彫りのはずなのに、まるで生きているかのような感触。握ると、わずかに弾力がある。
慌てて女将さんに尋ねた。階段を駆け下りて、台所で朝食の準備をしていた女将さんに声をかける。
「すみません、今朝、部屋の前に人形が置かれていたんですが、どなたか来ませんでしたか」
女将さんは首を傾げた。包丁を持ったまま、不思議そうな顔でこちらを見る。
「人形? いいえ、誰も来てませんよ。お客さんも今はあなただけですし」
「でも、確かに置いてあったんです」
「それは不思議ですねえ。でも、本当に誰も見てませんよ。朝からずっと台所にいましたけど、誰も通ってませんでした」
女将さんは困惑した様子だったが、それ以上は何も言わなかった。部屋に戻り、人形を机の上に置く。
防犯カメラはないかと思い、女将さんに再度尋ねたが、この宿にはそのような設備はないという。つまり、誰が人形を置いたのか、確認する術はない。宿の中に、私以外の人間がいた痕跡もない。
人形を凝視した。顔が、さらに整っていた。目の窪みは深くなり、鼻筋は通り、口元には微かな曲線がある。まるで、生きている人間の顔に近づいているかのようだった。木の質感も、昨日とは違う気がする。滑らかで、温かい。
そして、恐ろしいことに気づいた。
この顔、どこかで見たことがある。
いや、まさか。
鏡を見る。自分の顔を確認する。それから、人形の顔を見る。何度も見比べる。
似ている。
人形の顔が、私に似ている。
いや、違う。私が、人形に似てきているのかもしれない。鏡に映る自分の顔を見ると、表情が妙に硬い気がした。笑おうとしても、顔の筋肉がうまく動かない。引きつった笑みしか作れない。まるで、顔が木でできているかのように。
恐怖を感じた。しかし同時に、研究者としての好奇心も湧いてくる。これは貴重な現象だ。記録を続けるべきだ。人形の写真を撮り、ノートに詳細を書き留めた。撮影角度、光の当たり方、全てを記録する。
その夜、悪夢を見た。
人形が、名前を呼んでいる。
「マコト」
掠れた声。木がこすれるような音。乾いた音。
「マコト」
もっと近くで。耳元で。
「マコト」
囁くような声。冷たい息がかかる。
目を覚ました。全身が汗でびっしょりだった。時計を見ると、午前三時三十三分。窓の外は真っ暗で、雨音だけが聞こえていた。激しい雨が、窓を叩いている。
ふと、枕元を見ると、人形が移動していた。
机の上に置いたはずの人形が、枕元に立てられていた。顔を見つめるように。暗闇の中で、人形の目が光っているような気がした。
悲鳴を上げそうになったが、声が出なかった。ただ、震えながら人形を見つめることしかできなかった。雨音だけが、部屋に響いていた。
2024年10月12日 晴れ 気温20度
五日目。もう、この調査を続けるべきか迷っていた。
ノートを開くと、筆跡が乱れていた。昨夜書いた記録は、同じ文章が何度も繰り返されている。ページ全体に、同じ言葉が書き連ねられていた。
「私はここにいる」
「私はここにいる」
「私はここにいる」
こんなことを書いた覚えがない。しかし、確かに私の筆跡だ。いつ書いたのだろう。夢の中だろうか。それとも、目覚めている時に、無意識に書いたのだろうか。
鏡を見ると、顔がさらに硬くなっていた。表情が作れない。笑おうとしても、泣こうとしても、顔が動かない。まるで木彫りの人形のように。皮膚も、少し硬くなっている気がする。触ると、ざらざらしている。
人形を見た。人形の顔は、もう私とほとんど同じだった。目の形、鼻の形、口の形。全てが私に酷似している。まるで、鏡に映した自分を見ているかのようだった。
いや、違う。
私が、人形に似てきているのだ。
恐怖に駆られた。このままでは、私は人形になってしまう。いや、人形と入れ替わってしまうのかもしれない。タケさんの言葉が、頭の中で響く。
「道を教えることになる」
人形に道を教えてしまったのだ。写真を撮ることで、記録することで。
ノートに書いた。手が震えて、文字がうまく書けない。ペンを握る力も弱くなっている。
「人形の顔が、だんだん私に似てきている」
「いや、違う」
「私が、人形に似てきている」
「鏡を見るたび、自分の顔が木彫りになっていく気がする」
「皮膚が硬くなっている」
「表情が作れない」
何をすればいいのか、わからなかった。人形を捨てるべきか。川に戻すべきか。しかし、人形はきっと戻ってくる。もう、逃れられない。道を教えてしまった。記録してしまった。
窓の外を見ると、川が見えた。水無川。人形が流されるはずだった川。そして今、人形は戻ってきている。私のもとへ。
2024年10月13日
六日目のノートは、ほとんど空白だった。
ページをめくっても、何も書かれていない。ただ、最後のページに、乱れた筆跡で一文だけ。まるで、力尽きた人間が最後に絞り出した言葉のように。
「帰らなければ」
そして、そのページには写真が貼られていた。
川のほとりに立つ私。手には人形を抱えている。しかし、この写真を撮ったのは誰だろう。一人で調査をしていたはずだ。日付を見ると、調査開始前の日付になっていた。
いつこの写真を撮ったのだろう。
いや、そもそも、いつから人形を持っていたのだろう。
ノートの最後のページには、タケさんからの伝言メモが挟まれていた。いつ届いたのか、記憶にない。紙は古く、黄ばんでいた。
「写真を撮ったそうじゃな。お前さん、自分で道を教えてしまったんじゃ。もう手遅れかもしれん」
2024年10月14日
七日目。
宿の女将さんが、部屋を訪ねてきた。
「柊さん、もう三日も部屋から出てきませんけど、大丈夫ですか」
ドアをノックする音。しかし、返事はない。何度ノックしても、中から応答がない。
女将さんは不安になり、合鍵を使って部屋を開けた。
部屋には、誰もいなかった。
ベッドは綺麗に整えられ、机の上には開かれたノート。そして、木彫りの人形が一体、窓際に立てられていた。人形は外を向いて、川の方を見つめている。
人形の顔は、柊真によく似ていた。
女将さんは警察に連絡した。警察が来て、部屋を調べたが、柊真の行方はわからなかった。荷物はそのまま残されていて、財布も携帯電話も部屋にあった。まるで、突然消えてしまったかのように。
唯一の手がかりは、机の上のノートだった。調査記録が書かれていたが、後半は乱れた文字ばかりで、内容も支離滅裂だった。
そして、窓際に立てられていた人形。
警察は人形を証拠品として押収したが、特に異常は見つからなかった。ただの木彫りの人形だった。
しかし、人形を調べた警察官は、後にこう証言している。
「あの人形、妙に温かかったんです。まるで、生きているみたいに」
【添付資料】
調査写真アーカイブ
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https://observation-record-c14.example.com/doll01
※QRコードの一部が水で滲んでいます
※この人形を見た者は、帰り道を教えたことになります
[コード下部に、手書きの走り書き]
「撮るな」
【アクセス記録】
初回アクセス時表示内容:
人形送り記録システム - C-14
観測対象:流サレシモノ
撮影地点:水無川下流域
撮影日時:2024年10月8日 10:42
GPS座標:北緯35°12'43" 東経136°54'18"
[画像:木彫りの人形。顔はぼやけている]
※この記録を閲覧したことで、あなたは観測者として登録されました
観測者ID:[自動生成番号]
2回目アクセス時表示内容:
人形送り記録システム - C-14
観測対象:流サレシモノ
撮影地点:水無川中流域
撮影日時:2024年10月9日 09:15
GPS座標:北緯35°13'12" 東経136°54'50"
[画像:同じ人形。顔の輪郭が少し鮮明になっている]
※観測回数:2回
※帰還進行度:20%
3回目アクセス時表示内容:
人形送り記録システム - C-14
観測対象:流サレシモノ
撮影地点:水無川上流域
撮影日時:2024年10月10日 08:33
GPS座標:北緯35°13'50" 東経136°55'20"
[画像:人形の顔がはっきりと見える。目鼻口が形作られている]
※観測回数:3回
※帰還進行度:50%
4回目以降アクセス時表示内容:
人形送り記録システム - C-14
観測対象:戻ル者
最終確認地点:[あなたの現在地]
最終確認日時:[リアルタイム表示]
[画像:人形の顔が閲覧者に似てくる]
※観測回数:[カウント数]
※帰還進行度:[数値が増加]
警告:
観測を継続することで、帰還プロセスが加速します
あなたが記録した人形は、記録を辿ってあなたのもとへ向かっています
あなたはいつ、人形を流しましたか?
覚えていないなら、それは儀式が成功した証拠です
しかし、記録は残っています
あなたの過去の写真を確認してください
そこには、あなたが抱えている人形が写っているはずです
その人形の顔は——
10回目以降アクセス時表示内容:
[画像が完全に閲覧者の顔と同じになる]
システムメッセージ:
観測完了
帰還進行度:100%
人形は既に、あなたの背後にいます
[記録を削除する] ←ボタン(クリックしても無効)
エラー:この記録は削除できません
理由:観測主体が既に帰還プロセスに入っています
削除を試みることで、帰還速度が加速します
最終警告:
この画面を閉じても、観測は終了しません
あなたは既に、記録の一部です
記録を辿って、人形は帰還します
水無月市に到着したのは午後三時過ぎだった。駅を降りると、予想していたよりも静かな町が広がっていて、駅前のロータリーには古びたタクシーが二台停まっているだけで、人の気配は薄い。バスの本数も一日に数本しかないらしく、結局、駅前の観光案内所で電動自転車を借りることにした。
目的地は旧水無集落。かつて人形送りの風習が盛んだったこの地域も、今では過疎化が進み、住民のほとんどが町の中心部へ移住してしまったという。修士論文のテーマは「消えゆく民俗儀礼の記録と保存」で、特に水無月市の人形送りについて詳しく調査するつもりだった。
自転車を漕ぎながら、指導教官の言葉を思い出していた。
「柊君、フィールドワークは記録が命だ。観察したことは全て、できる限り詳細にノートへ残すように」
几帳面な性格で、物事を記録することに喜びを感じる方だった。だからこそ民俗学を選んだのだし、この調査にも期待を抱いていた。
旧水無集落までの道は舗装こそされているものの、両脇には雑草が生い茂り、手入れされていない様子が窺える。途中、廃屋が点在していて、その多くは窓ガラスが割れ、壁が崩れかけていた。人の気配がまるで感じられない風景の中を進んでいくと、かつてはここにも人々の生活があったのだと思うと、胸が締め付けられるような気持ちになる。
集落の入口には古い木製の看板があり、「旧水無集落」と書かれていた。文字は風雨に晒されて薄くなり、読み取るのに少し時間がかかる。自転車を降り、看板の前で一枚写真を撮った。記録のためだ。この看板もいつか朽ち果てるだろうから、今のうちに残しておかなければならない。
集落の中心部には、まだ数軒の民家が残っていた。煙突から煙が上がっている家もあり、人が住んでいることがわかる。事前に連絡を取っていた古老、タケさんの家を訪ねることにした。タケさんは今年で八十二歳になるが、この土地で生まれ育ち、人形送りの儀式についても詳しいと聞いていた。
タケさんの家は集落の奥にあった。古い日本家屋で、瓦屋根が少し歪んでいるものの、庭は綺麗に手入れされていて、季節外れの菊が咲いている。玄関先で声をかけると、腰の曲がった老人が奥から現れて、出迎えてくれた。
「あんた、大学の人かね」
タケさんは顔をじっと見つめながら言う。声は掠れていたが、目には鋭い光があって、こちらの内面を見透かすような視線だった。
「はい、柊と申します。お電話でお話しさせていただいた者です」
「ああ、そうかそうか。まあ上がりなさい。冷えるだろう」
タケさんは居間に通してくれた。畳の部屋には古い仏壇があり、その隣には白黒写真が何枚も飾られていて、どれも昔の集落の様子を写したものらしく、大勢の人々が写っている。タケさんは座布団を勧めると、自分も向かい側にゆっくりと腰を下ろした。
「人形送りのこと、調べに来たんだってな」
「はい。できれば昔の風習について、詳しくお話を伺いたいんです」
タケさんは少し考え込むような仕草を見せた。窓の外を眺めながら、遠い記憶を辿るように目を細めて、それから、ゆっくりと話し始める。
「昔はな、この辺りじゃ誰もが人形送りをやったもんじゃ。春と秋、年に二回。自分の厄を人形に移して、川に流すんだ」
ノートを取り出し、ペンを走らせる。タケさんの話す内容を一言一句、漏らさず記録しようと思った。老人の言葉には独特のリズムがあり、まるで昔話を聞いているような心地よさがあった。
「人形はどうやって作るんですか」
「木を削って作る。最初はのっぺらぼうでいいんだ。顔なんて彫らなくてもいい。大事なのは、自分の厄を込めることだからな」
「厄を込める、というのは具体的にどういうことですか」
「病気になりたくないとか、不幸になりたくないとか、そういう思いを人形に吹き込むんだ。そうすると、人形がその厄を引き受けてくれる」
タケさんは淡々と説明してくれたが、その言葉には妙な重みがあった。まるで自分が実際に経験したことを語っているかのような、確信に満ちた口調だった。
「それで、人形を川に流すわけですね」
「ああ。水無川に流すんだ。川の流れに乗せて、遠くへやる。そうすれば厄も一緒に流れていく。海まで辿り着けば、もう戻ってこない」
「流した人形は、どうなるんですか」
質問に、タケさんは少し表情を曇らせた。皺の刻まれた顔に、一瞬、何か暗い影が差したように見える。
「戻ってこない。二度と戻ってこないんだ。それが人形送りの掟だ」
「掟、ですか」
「そうだ。人形は流したら、絶対に探しちゃいけない。写真も撮っちゃいけない。もし記録したら……」
タケさんはそこで言葉を切った。続きを促すように、少し身を乗り出す。
「もし記録したら、どうなるんですか」
「道を教えることになる」
「道を、教える?」
「人形が戻ってくる道をな」
声は低く、重かった。タケさんは真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。むしろ、何か深刻な警告を発しているような、そんな迫力すら感じられた。
「でも、それは迷信ですよね」
少し笑いながら言った。科学的に考えれば、人形が戻ってくるなんてありえない。川に流されたものが上流へ戻ることなど物理的に不可能だ。
「迷信だと思うかね」
タケさんはじっと見つめてくる。その目には、何か言いたげなものがあって、哀れむような、それでいて諦めたような光が宿っていた。
「まあ、そう思うなら構わん。だが、覚えておきなさい。流した人形の写真は、絶対に撮っちゃいかん。記録しちゃいかん。それだけは守ってくれ」
「はい、わかりました」
ノートに書き留める。
「流した人形の写真を撮ってはいけない——地域住民の強い禁忌。科学的根拠はないが、信仰心は根強い」
その後、タケさんは人形送りの具体的な手順や、儀式が行われていた場所について教えてくれた。川の中流にある浅瀬が、かつて多くの人々が人形を流した場所だという。春の彼岸と秋の彼岸に、家族総出で人形を作り、それぞれの願いを込めて流したのだと、タケさんは遠い目をして語った。
「あの頃は、川が人形で溢れておった。何十体も、何百体も。みんな川を流れていって、やがて見えなくなる。それを見送るのが、この集落の春と秋の風物詩じゃった」
「今は、もう誰も流さないんですか」
「ああ。若い者は都会へ出ていったし、残った者も高齢でな。儀式をする者はおらん。わしも、もう何十年も流しておらん」
タケさんの声には、寂しさが滲んでいた。失われていく文化への哀惜が、言葉の端々に感じられる。
家を出る際、タケさんは玄関先まで見送ってくれた。夕暮れが近づき、空は薄い橙色に染まり始めていた。
「気をつけてな。あんた、まだ若いんだ。無理はしちゃいかん」
「ありがとうございます」
頭を下げて、自転車に跨る。タケさんは見えなくなるまで、玄関先に立っていた。その姿を振り返りながら、何か言い知れぬ不安を感じていた。タケさんの警告が、妙に胸に引っかかっていたのだ。
宿に戻ったのは夕方六時頃だった。泊まっているのは、集落からほど近い民宿で、夫婦で切り盛りしている小さな宿だった。部屋に入ると、すぐにノートを開き、今日の調査内容を整理し始める。
タケさんから聞いた話を丁寧に書き写しながら、人形送りという儀式の本質について考えていた。厄を人形に移して流す。それは一種の身代わり信仰であり、日本各地に似たような風習が存在する。しかし、「写真を撮ってはいけない」という禁忌は興味深かった。なぜ記録してはいけないのか。記録することで、人形の存在が固定されるからだろうか。それとも、記録という行為そのものに何か意味があるのだろうか。
そこまで書いて、ペンを置いた。窓の外はすっかり暗くなり、虫の鳴き声だけが聞こえている。遠くで水の流れる音も聞こえる気がして、窓を開けて外を眺めた。闇の中に、水無川の流れが見えた。
2024年10月8日 晴れ 気温21度
翌朝、早めに宿を出て、水無川の下流へ向かった。タケさんが教えてくれた浅瀬は中流域にあるが、まずは川全体の様子を把握しておきたかった。下流から上流へと辿っていけば、人形が流される経路を理解できるだろう。
水無川は思っていたよりも穏やかな流れだった。川幅は十メートルほどで、両岸には葦が生い茂っている。水は透明度が高く、川底の石がはっきりと見えた。川沿いの小道を自転車で進みながら、時折立ち止まって写真を撮る。川の流れ、岸辺の様子、周囲の風景。全てが記録の対象だった。
下流域を調査していると、川岸に何か引っかかっているのが見えた。最初は流木かと思ったが、近づいてみると、それは人形だった。
自転車を降り、川岸へ降りる。足元の草を掻き分けながら人形に近づくと、それが木彫りであることがわかった。高さは三十センチほどで、全体的に風化が進んでいて、木の表面は灰色がかっている。顔の部分は特に摩耗が激しく、目鼻立ちはほとんど判別できなかった。のっぺらぼうと言ってもいいくらいだ。
人形を手に取る。思ったよりも軽く、表面はざらざらしていた。長い年月、川の水に晒されてきたのだろう。背中を確認すると、かすれた文字が彫られていた。
「流サレシモノ」
流された者。流されたもの。
人形送りで流された人形に違いなかった。胸が高鳴るのを感じる。これは貴重な資料だ。実際に儀式で使われた人形を発見できるとは思っていなかった。タケさんの話では、流された人形は海まで流れていくはずだが、この人形は途中で岸に引っかかったのだろう。
人形を様々な角度から観察する。木の種類は桜だろうか。彫りは素朴で、職人の手によるものではなく、おそらく一般の人が自分で削ったものだと思われる。彫刻刀の跡が不揃いで、手作り感が強い。人形の手足は簡素な作りで、胴体も円柱に近い形状だ。儀式の道具として、最低限の形を整えただけなのだろう。
そして、写真を撮った。
正面から一枚、側面から一枚、背中の文字を一枚。さらに、人形を手に持った状態で一枚。記録として残すべきだと思ったからだ。科学的な調査において、写真記録は不可欠だ。タケさんの警告は頭にあったが、それは迷信に過ぎない。記録を残すことが、使命なのだから。
撮影を終えた後、GPSで現在地を記録する。北緯三十五度十二分四十三秒、東経百三十六度五十四分十八秒。川岸の詳細な位置も、後で地図に書き込むつもりだ。正確な位置情報は、調査の基本中の基本だ。
人形をどうするか少し迷ったが、結局、元の場所に戻すことにした。持ち帰るべきか悩んだが、やはり現地に残しておく方が適切だろう。文化財保護の観点からも、むやみに動かすべきではない。人形を川岸の草むらに置き、もう一度写真を撮ってから、その場を離れた。
宿に戻る道すがら、妙な感覚に襲われた。人形を撮影したことを、なぜか後悔している。理由はわからない。ただ、タケさんの言葉が頭の中で繰り返されていた。
「写真を撮ると、道を教えることになる」
しかし、それは迷信だ。自分に言い聞かせる。科学的に考えれば、写真を撮ったからといって何かが起こるわけがない。それでも、胸の奥に引っかかる違和感は消えなかった。まるで、何か大きな過ちを犯してしまったような、そんな重苦しい感覚だった。
その夜、ノートに記録を残した。
「本日、水無川下流域にて、人形送りで使用されたと思われる木彫りの人形を発見。背中に『流サレシモノ』の文字。風化が著しく、顔の判別は困難。記録のため写真撮影を実施。GPS座標も記録済み。しかし、なぜか撮影したことを後悔している。タケさんの警告が頭から離れない。科学的根拠のない不安だとはわかっているが……」
そこでペンを止めた。窓の外から、水の流れる音が聞こえる気がする。それは川の音なのか、それとも雨が降り始めたのか。しかし空を見ると、星が見えていた。
2024年10月9日 曇り 気温19度
翌朝、再び同じ場所を訪れた。人形がまだそこにあるか確認したかったのと、もう少し詳しく周辺を調査したかったからだ。
しかし、川岸に着くと、人形がなくなっていた。
草むらを丁寧に探したが、どこにも見当たらない。昨日置いた場所を何度も確認したが、人形の姿はなかった。誰かが拾ったのだろうか。それとも、増水して流されたのだろうか。昨夜は雨が降った様子もないし、川の水位も変わっていないように見える。
少し困惑しながら、川沿いを歩き始めた。もしかしたら、少し流されて別の場所に引っかかっているかもしれない。下流方向を探したが、人形は見つからなかった。川岸を三百メートルほど下ったが、人形らしきものは何も見当たらない。
ふと思いついて、上流方向を探してみることにした。流れに逆らって移動することはありえないが、念のため確認しておきたかった。もしかしたら、誰かが拾って上流に運んだのかもしれない。
川沿いの道を上流へ進むこと約五百メートル。中流域の浅瀬に差し掛かったところで、人形を発見した。
同じ人形だった。背中の「流サレシモノ」という文字で、間違いないと確認できる。しかし、位置が明らかにおかしい。昨日、人形は下流にあった。それが今日は上流にある。
GPSで位置を確認した。北緯三十五度十三分十二秒、東経百三十六度五十四分五十秒。昨日の地点から、約一キロメートル上流だ。
川の流れに逆らって、人形が移動した?
そんなことはありえない。物理的に不可能だ。誰かが移動させたのだろう。地元の住民か、あるいは他の調査者か。しかし、この過疎地域に、わざわざ人形を移動させるような人間がいるとは思えない。タケさんに聞いた限りでは、この辺りで人形送りに関心を持っている人間は、もうほとんどいないはずだ。
人形を手に取る。昨日と同じ、軽くてざらざらした感触。しかし、何かが違う気がした。顔の部分を凝視すると、昨日よりも輪郭がはっきりしているように見える。風化でぼやけていた部分が、少し整っているような……。
いや、気のせいだろう。一日でそんなことが起こるわけがない。記憶違いか、思い込みに違いない。昨日は暗かったから、よく見えていなかっただけかもしれない。
それでも、再び写真を撮った。記録のためだ。変化を追跡するためには、継続的な撮影が必要だ。正面から一枚、側面から一枚、背中から一枚。そして、昨日と同じように、GPS座標も記録する。記録を比較すれば、何が起こっているのか、いずれわかるはずだ。
人形を元の場所に置いて、宿へ戻った。しかし、頭の中では疑問が渦巻いている。人形が上流へ移動した理由。顔の輪郭が整って見えた理由。どちらも説明がつかない。誰かが悪戯をしているのか。それとも、本当に何か不可解な現象が起きているのか。
その夜、ノートに記録を残した。
「人形が移動している。昨日の地点から約一キロメートル上流で再発見。流れに逆らって移動することは物理的にありえないため、誰かが動かした可能性が高い。しかし、この地域でそのような行動を取る人間がいるとは考えにくい。また、人形の顔が昨日よりも整って見える。風化の進行とは逆の現象。要継続観察」
ペンを置いて、窓の外を見る。月が雲に隠れて、外は真っ暗だった。遠くで、また水の流れる音がする。今度は確かに聞こえる。川の音だ。
2024年10月10日 晴れ 気温22度
三日目。朝一番で川へ向かった。人形がどこにあるのか、確認しなければならない。もし今日も移動していたら、それは偶然ではない。何か意図的な力が働いているということだ。
中流域の浅瀬を訪れたが、人形はそこにはなかった。予感めいたものを感じながら、さらに上流へ進む。予感は、嫌な予感だった。
そして、予感は的中した。
人形は、さらに上流で見つかった。中流域から約八百メートル上流、川が少し曲がっている地点の岸辺に、人形は横たわっていた。まるで、誰かがそこに寝かせたかのように。
GPS座標を確認する。北緯三十五度十三分五十秒、東経百三十六度五十五分二十秒。
三日間で、人形は下流から約二キロメートル、上流へ移動していた。
人形を拾い上げる。手に取った瞬間、妙な温もりを感じた。木は通常、冷たい。特に朝の冷え込んだ空気の中では、もっと冷たいはずだ。しかし、この人形は微かに温かかった。まるで、誰かが握っていたかのような温もり。生き物の体温に近い温度。
そして、顔を見た瞬間、息を呑んだ。
顔が、明らかに整っていた。
一日目は風化でのっぺらぼうだった。二日目は少し輪郭がはっきりしていた。そして今日、三日目。目の窪み、鼻の隆起、口の線。それらが、はっきりと形作られていた。彫刻刀で新たに彫られたかのように、鮮明な顔立ちになっている。
これは、気のせいではない。
人形の顔が、日ごとに整っていっている。
手が震えるのを感じた。何が起こっているのか、わからない。誰かが細工しているのか。それとも、目がおかしいのか。しかし、写真を見返せばわかるはずだ。昨日も一昨日も、写真を撮っている。記録は残っている。
カメラを取り出して、人形を撮影した。正面、側面、背中。そして、顔のアップを何枚も。記録を残さなければ。変化を追跡しなければ。これは重要な発見かもしれない。未知の現象かもしれない。
撮影を終えた後、人形をじっと見つめた。この人形は、何なのだろう。本当に、ただの木彫りなのだろうか。それとも、何か別の存在なのだろうか。
宿に戻って、すぐにパソコンで写真を確認した。一日目、二日目、三日目の写真を並べて比較する。画面を凝視しながら、震えが止まらなかった。
変化は、明らかだった。
一日目の人形は、顔がほとんど判別できない。二日目は、輪郭が少しはっきりしている。そして三日目は、明確に目鼻口が形作られている。これは現実に起こっている。記録として残っている。
これは、現実に起こっていることだ。
ノートに記録を残した。しかし、手が震えて、文字が乱れる。ペンを握る手に力が入らない。
「人形が、川を遡上している。三日間で約二キロメートル、上流へ移動。物理的に説明できない現象。さらに、人形の顔が日ごとに整っていく。風化とは逆の変化。誰かが細工しているのか。それとも……。撮影を続けるべきか迷う。タケさんの警告が、今になって重くのしかかる」
その夜、眠れなかった。窓の外から、水の流れる音が聞こえる。いや、水音だけではない。何か、木がこすれるような音も混ざっている気がした。カタカタと、規則的な音。まるで、何かが歩いているような。
2024年10月11日 雨 気温17度
四日目の朝、部屋の前に人形が置かれているのを発見した。
部屋のドアを開けた瞬間、目に入った。廊下の真ん中に、まっすぐ立てられた人形。こちらに向かって、顔を向けている。まるで、待っていたかのように。
声も出せずに立ち尽くした。心臓が激しく打っている。喉が渇いて、呼吸が浅くなる。これは、夢ではない。現実だ。目の前に、確かに人形がある。
誰が置いたのか。
廊下を見回したが、誰もいない。静まり返った廊下には、人形だけがいた。朝の光が窓から差し込んで、人形の影が長く伸びている。
恐る恐る人形に近づいた。間違いない。これは、川で見つけた人形だ。背中の「流サレシモノ」という文字で確認できる。しかし、なぜここにあるのか。誰が、わざわざ川から運んできて、部屋の前に置いたのか。
人形を拾い上げる。そして、驚愕した。
人形が、温かい。
昨日感じた微かな温もりではない。明確な、生き物のような温もりだ。まるで人肌のような温度。そして、表面も少し柔らかい気がした。木彫りのはずなのに、まるで生きているかのような感触。握ると、わずかに弾力がある。
慌てて女将さんに尋ねた。階段を駆け下りて、台所で朝食の準備をしていた女将さんに声をかける。
「すみません、今朝、部屋の前に人形が置かれていたんですが、どなたか来ませんでしたか」
女将さんは首を傾げた。包丁を持ったまま、不思議そうな顔でこちらを見る。
「人形? いいえ、誰も来てませんよ。お客さんも今はあなただけですし」
「でも、確かに置いてあったんです」
「それは不思議ですねえ。でも、本当に誰も見てませんよ。朝からずっと台所にいましたけど、誰も通ってませんでした」
女将さんは困惑した様子だったが、それ以上は何も言わなかった。部屋に戻り、人形を机の上に置く。
防犯カメラはないかと思い、女将さんに再度尋ねたが、この宿にはそのような設備はないという。つまり、誰が人形を置いたのか、確認する術はない。宿の中に、私以外の人間がいた痕跡もない。
人形を凝視した。顔が、さらに整っていた。目の窪みは深くなり、鼻筋は通り、口元には微かな曲線がある。まるで、生きている人間の顔に近づいているかのようだった。木の質感も、昨日とは違う気がする。滑らかで、温かい。
そして、恐ろしいことに気づいた。
この顔、どこかで見たことがある。
いや、まさか。
鏡を見る。自分の顔を確認する。それから、人形の顔を見る。何度も見比べる。
似ている。
人形の顔が、私に似ている。
いや、違う。私が、人形に似てきているのかもしれない。鏡に映る自分の顔を見ると、表情が妙に硬い気がした。笑おうとしても、顔の筋肉がうまく動かない。引きつった笑みしか作れない。まるで、顔が木でできているかのように。
恐怖を感じた。しかし同時に、研究者としての好奇心も湧いてくる。これは貴重な現象だ。記録を続けるべきだ。人形の写真を撮り、ノートに詳細を書き留めた。撮影角度、光の当たり方、全てを記録する。
その夜、悪夢を見た。
人形が、名前を呼んでいる。
「マコト」
掠れた声。木がこすれるような音。乾いた音。
「マコト」
もっと近くで。耳元で。
「マコト」
囁くような声。冷たい息がかかる。
目を覚ました。全身が汗でびっしょりだった。時計を見ると、午前三時三十三分。窓の外は真っ暗で、雨音だけが聞こえていた。激しい雨が、窓を叩いている。
ふと、枕元を見ると、人形が移動していた。
机の上に置いたはずの人形が、枕元に立てられていた。顔を見つめるように。暗闇の中で、人形の目が光っているような気がした。
悲鳴を上げそうになったが、声が出なかった。ただ、震えながら人形を見つめることしかできなかった。雨音だけが、部屋に響いていた。
2024年10月12日 晴れ 気温20度
五日目。もう、この調査を続けるべきか迷っていた。
ノートを開くと、筆跡が乱れていた。昨夜書いた記録は、同じ文章が何度も繰り返されている。ページ全体に、同じ言葉が書き連ねられていた。
「私はここにいる」
「私はここにいる」
「私はここにいる」
こんなことを書いた覚えがない。しかし、確かに私の筆跡だ。いつ書いたのだろう。夢の中だろうか。それとも、目覚めている時に、無意識に書いたのだろうか。
鏡を見ると、顔がさらに硬くなっていた。表情が作れない。笑おうとしても、泣こうとしても、顔が動かない。まるで木彫りの人形のように。皮膚も、少し硬くなっている気がする。触ると、ざらざらしている。
人形を見た。人形の顔は、もう私とほとんど同じだった。目の形、鼻の形、口の形。全てが私に酷似している。まるで、鏡に映した自分を見ているかのようだった。
いや、違う。
私が、人形に似てきているのだ。
恐怖に駆られた。このままでは、私は人形になってしまう。いや、人形と入れ替わってしまうのかもしれない。タケさんの言葉が、頭の中で響く。
「道を教えることになる」
人形に道を教えてしまったのだ。写真を撮ることで、記録することで。
ノートに書いた。手が震えて、文字がうまく書けない。ペンを握る力も弱くなっている。
「人形の顔が、だんだん私に似てきている」
「いや、違う」
「私が、人形に似てきている」
「鏡を見るたび、自分の顔が木彫りになっていく気がする」
「皮膚が硬くなっている」
「表情が作れない」
何をすればいいのか、わからなかった。人形を捨てるべきか。川に戻すべきか。しかし、人形はきっと戻ってくる。もう、逃れられない。道を教えてしまった。記録してしまった。
窓の外を見ると、川が見えた。水無川。人形が流されるはずだった川。そして今、人形は戻ってきている。私のもとへ。
2024年10月13日
六日目のノートは、ほとんど空白だった。
ページをめくっても、何も書かれていない。ただ、最後のページに、乱れた筆跡で一文だけ。まるで、力尽きた人間が最後に絞り出した言葉のように。
「帰らなければ」
そして、そのページには写真が貼られていた。
川のほとりに立つ私。手には人形を抱えている。しかし、この写真を撮ったのは誰だろう。一人で調査をしていたはずだ。日付を見ると、調査開始前の日付になっていた。
いつこの写真を撮ったのだろう。
いや、そもそも、いつから人形を持っていたのだろう。
ノートの最後のページには、タケさんからの伝言メモが挟まれていた。いつ届いたのか、記憶にない。紙は古く、黄ばんでいた。
「写真を撮ったそうじゃな。お前さん、自分で道を教えてしまったんじゃ。もう手遅れかもしれん」
2024年10月14日
七日目。
宿の女将さんが、部屋を訪ねてきた。
「柊さん、もう三日も部屋から出てきませんけど、大丈夫ですか」
ドアをノックする音。しかし、返事はない。何度ノックしても、中から応答がない。
女将さんは不安になり、合鍵を使って部屋を開けた。
部屋には、誰もいなかった。
ベッドは綺麗に整えられ、机の上には開かれたノート。そして、木彫りの人形が一体、窓際に立てられていた。人形は外を向いて、川の方を見つめている。
人形の顔は、柊真によく似ていた。
女将さんは警察に連絡した。警察が来て、部屋を調べたが、柊真の行方はわからなかった。荷物はそのまま残されていて、財布も携帯電話も部屋にあった。まるで、突然消えてしまったかのように。
唯一の手がかりは、机の上のノートだった。調査記録が書かれていたが、後半は乱れた文字ばかりで、内容も支離滅裂だった。
そして、窓際に立てられていた人形。
警察は人形を証拠品として押収したが、特に異常は見つからなかった。ただの木彫りの人形だった。
しかし、人形を調べた警察官は、後にこう証言している。
「あの人形、妙に温かかったんです。まるで、生きているみたいに」
【添付資料】
調査写真アーカイブ
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https://observation-record-c14.example.com/doll01
※QRコードの一部が水で滲んでいます
※この人形を見た者は、帰り道を教えたことになります
[コード下部に、手書きの走り書き]
「撮るな」
【アクセス記録】
初回アクセス時表示内容:
人形送り記録システム - C-14
観測対象:流サレシモノ
撮影地点:水無川下流域
撮影日時:2024年10月8日 10:42
GPS座標:北緯35°12'43" 東経136°54'18"
[画像:木彫りの人形。顔はぼやけている]
※この記録を閲覧したことで、あなたは観測者として登録されました
観測者ID:[自動生成番号]
2回目アクセス時表示内容:
人形送り記録システム - C-14
観測対象:流サレシモノ
撮影地点:水無川中流域
撮影日時:2024年10月9日 09:15
GPS座標:北緯35°13'12" 東経136°54'50"
[画像:同じ人形。顔の輪郭が少し鮮明になっている]
※観測回数:2回
※帰還進行度:20%
3回目アクセス時表示内容:
人形送り記録システム - C-14
観測対象:流サレシモノ
撮影地点:水無川上流域
撮影日時:2024年10月10日 08:33
GPS座標:北緯35°13'50" 東経136°55'20"
[画像:人形の顔がはっきりと見える。目鼻口が形作られている]
※観測回数:3回
※帰還進行度:50%
4回目以降アクセス時表示内容:
人形送り記録システム - C-14
観測対象:戻ル者
最終確認地点:[あなたの現在地]
最終確認日時:[リアルタイム表示]
[画像:人形の顔が閲覧者に似てくる]
※観測回数:[カウント数]
※帰還進行度:[数値が増加]
警告:
観測を継続することで、帰還プロセスが加速します
あなたが記録した人形は、記録を辿ってあなたのもとへ向かっています
あなたはいつ、人形を流しましたか?
覚えていないなら、それは儀式が成功した証拠です
しかし、記録は残っています
あなたの過去の写真を確認してください
そこには、あなたが抱えている人形が写っているはずです
その人形の顔は——
10回目以降アクセス時表示内容:
[画像が完全に閲覧者の顔と同じになる]
システムメッセージ:
観測完了
帰還進行度:100%
人形は既に、あなたの背後にいます
[記録を削除する] ←ボタン(クリックしても無効)
エラー:この記録は削除できません
理由:観測主体が既に帰還プロセスに入っています
削除を試みることで、帰還速度が加速します
最終警告:
この画面を閉じても、観測は終了しません
あなたは既に、記録の一部です
記録を辿って、人形は帰還します



