突然始まった龍泉家での花嫁修業生活は、どうなることかと不安だったが、蒼真の花嫁として丁重に扱われ千歳は何不自由のない日々を過ごしていた。
あれから母と姉とは連絡を取れていない。
ただ、父だけはたまに千歳に会いに来てくれた。
そこで聞いた話によると、母は禁忌を犯したことを認め現在実家に戻っているとのこと。
その後の処遇は、まだ決まっていないと聞く。
禁忌によって産まれた姉の紗江子は、それだけでも一族にいられないのだろうが、一族としての処遇が決まる前に取り調べにで山城が自白したことにより、千歳に毒をもった共犯の罪で逮捕された。
千歳にとっては、すっきりとした終わり方とは言えないけれど、それでも気持ちを立て直し生活ができているのは、すべて蒼真のおかげだと思っている。
◇◇◇◇◇
「ただいま、千歳」
「おかえりなさいませ、蒼真さま」
毎日多忙で帰りが遅いことも多い蒼真だったが、こうして玄関で出迎えるといつも嬉しそうにしてくれる。
だから千歳は、彼の帰りが遅いときにもなるべく起きて蒼真の帰りを待つことにしていた。
「今日もなにか困ったことはなかった?」
「はい。皆さんに良くしていただいて、花嫁修業も順調です」
「そう、良かった。明日から二日間オレは執務のため家を空けるけど、なにか困ったことがあればすぐに使用人に言うんだよ」
「はい」
事務的な会話をしながら廊下を歩き、彼の部屋まで共に向かう。
こうして夜の少しの時間、二人で会話をするのが日課となっていた。
そして自室に入り、ドアを閉めると……。
「はぁ……明日からしばらく、こうして君の顔を見られなくなると思うと気が重い」
他の人の目がなくなった途端に、彼は澄ました顔を止めた。
「しばらくと言っても、たった二日じゃありませんか」
蒼真の家で暮らすようになり知ったのは、意外と寂しがりやな彼の一面。
それから、私情はあまり表に出さず聖人君子のような人と思っていたのだけれど。
「たった二日って……つれないな。オレにとっては堪えられない時間なのに。だから……」
二人きりの時だけ見せてくれる彼の素の一面は、表情豊かで、そして……戸惑う程に愛情深かった。
「今のうちに君をたくさん感じさせて」
「そ、蒼真さま!?」
引き寄せられ、そのまま彼の腕の中へ。
彼は言葉通り千歳をたくさん感じるために、ぎゅっと強く抱きしめてくる。苦しいぐらいに。
まだこうした触れ合いには慣れなくて、嫌ではなくとも千歳は身動ぎをしてしまう。
「苦しいです、蒼真さま……」
「だーめ、もう少し」
「っ!」
耳元で甘く囁かれ、千歳は恥ずかしくなって肩を竦めた。
聖人だから結婚前には指一本触れてこない。そんな人だと勝手に思っていたけれど……どうやらそれも違うようだ。
「……こんなオレは嫌い?」
まるで千歳の心の中を読んだようなタイミングでそう問われ驚く。
確かに知らなかった彼の一面は、知れば知るほど翻弄され驚かされることも多いけれど。
「いいえ……嫌いになんてなりません」
自分だってついこの間までは、姉を模倣して猫を被っていたのだからお互い様だ。
少しずつ、こうしてお互いに自然体でいられる関係になれれば良いと千歳は思う。
「よかった…………これぐらいで尻込みされたら、先が思いやられるから」
「え?」
ボソリと呟いた彼の言葉は、小さすぎて千歳には聞き取れなかった。
そして聞き返す前に……。
「えっ、蒼真さま!?」
頬に触れられ、そのまま口付けされそうになり千歳は声を上げる。
「この前のやり直しをさせてほしい」
「こ、この前って……」
蒼真と口づけたのは、千歳が毒を飲まされ参っていた時のあの一度のみだ。
「あの時は突然ごめん……今度は優しくするから」
「あっ……」
いいともだめとも答える前に、そっと蒼真に唇を重ねられる。
今回だって十分に強引なのではと、少し心の中で思ったけれど。
「千歳……好きだよ」
確かに以前より触れる唇は優しくて、口づけの合間に彼は愛を囁いてくれる。
「オレの花嫁になってくれてありがとう……もう離さない、永遠に」
なんて幸せな時間だろう。
どうして彼は、こんなにも自分を愛してくれるのだろう。
今度聞いてみたい。でも今は余裕がなくて、なにも考えられないから……。
(わたしこそ……愛してくれてありがとう)
心の中で呟いて、甘い口づけに身をゆだねるように千歳は目を閉じたのだった。
おわり
あれから母と姉とは連絡を取れていない。
ただ、父だけはたまに千歳に会いに来てくれた。
そこで聞いた話によると、母は禁忌を犯したことを認め現在実家に戻っているとのこと。
その後の処遇は、まだ決まっていないと聞く。
禁忌によって産まれた姉の紗江子は、それだけでも一族にいられないのだろうが、一族としての処遇が決まる前に取り調べにで山城が自白したことにより、千歳に毒をもった共犯の罪で逮捕された。
千歳にとっては、すっきりとした終わり方とは言えないけれど、それでも気持ちを立て直し生活ができているのは、すべて蒼真のおかげだと思っている。
◇◇◇◇◇
「ただいま、千歳」
「おかえりなさいませ、蒼真さま」
毎日多忙で帰りが遅いことも多い蒼真だったが、こうして玄関で出迎えるといつも嬉しそうにしてくれる。
だから千歳は、彼の帰りが遅いときにもなるべく起きて蒼真の帰りを待つことにしていた。
「今日もなにか困ったことはなかった?」
「はい。皆さんに良くしていただいて、花嫁修業も順調です」
「そう、良かった。明日から二日間オレは執務のため家を空けるけど、なにか困ったことがあればすぐに使用人に言うんだよ」
「はい」
事務的な会話をしながら廊下を歩き、彼の部屋まで共に向かう。
こうして夜の少しの時間、二人で会話をするのが日課となっていた。
そして自室に入り、ドアを閉めると……。
「はぁ……明日からしばらく、こうして君の顔を見られなくなると思うと気が重い」
他の人の目がなくなった途端に、彼は澄ました顔を止めた。
「しばらくと言っても、たった二日じゃありませんか」
蒼真の家で暮らすようになり知ったのは、意外と寂しがりやな彼の一面。
それから、私情はあまり表に出さず聖人君子のような人と思っていたのだけれど。
「たった二日って……つれないな。オレにとっては堪えられない時間なのに。だから……」
二人きりの時だけ見せてくれる彼の素の一面は、表情豊かで、そして……戸惑う程に愛情深かった。
「今のうちに君をたくさん感じさせて」
「そ、蒼真さま!?」
引き寄せられ、そのまま彼の腕の中へ。
彼は言葉通り千歳をたくさん感じるために、ぎゅっと強く抱きしめてくる。苦しいぐらいに。
まだこうした触れ合いには慣れなくて、嫌ではなくとも千歳は身動ぎをしてしまう。
「苦しいです、蒼真さま……」
「だーめ、もう少し」
「っ!」
耳元で甘く囁かれ、千歳は恥ずかしくなって肩を竦めた。
聖人だから結婚前には指一本触れてこない。そんな人だと勝手に思っていたけれど……どうやらそれも違うようだ。
「……こんなオレは嫌い?」
まるで千歳の心の中を読んだようなタイミングでそう問われ驚く。
確かに知らなかった彼の一面は、知れば知るほど翻弄され驚かされることも多いけれど。
「いいえ……嫌いになんてなりません」
自分だってついこの間までは、姉を模倣して猫を被っていたのだからお互い様だ。
少しずつ、こうしてお互いに自然体でいられる関係になれれば良いと千歳は思う。
「よかった…………これぐらいで尻込みされたら、先が思いやられるから」
「え?」
ボソリと呟いた彼の言葉は、小さすぎて千歳には聞き取れなかった。
そして聞き返す前に……。
「えっ、蒼真さま!?」
頬に触れられ、そのまま口付けされそうになり千歳は声を上げる。
「この前のやり直しをさせてほしい」
「こ、この前って……」
蒼真と口づけたのは、千歳が毒を飲まされ参っていた時のあの一度のみだ。
「あの時は突然ごめん……今度は優しくするから」
「あっ……」
いいともだめとも答える前に、そっと蒼真に唇を重ねられる。
今回だって十分に強引なのではと、少し心の中で思ったけれど。
「千歳……好きだよ」
確かに以前より触れる唇は優しくて、口づけの合間に彼は愛を囁いてくれる。
「オレの花嫁になってくれてありがとう……もう離さない、永遠に」
なんて幸せな時間だろう。
どうして彼は、こんなにも自分を愛してくれるのだろう。
今度聞いてみたい。でも今は余裕がなくて、なにも考えられないから……。
(わたしこそ……愛してくれてありがとう)
心の中で呟いて、甘い口づけに身をゆだねるように千歳は目を閉じたのだった。
おわり

