なつやすみのにっき

差出人:木田惣一郎 <Kida_Baumkuchen@*****.co.jp>
宛先:松平洋司<matsudaira01@*****.co.jp>
日時:20██年XX月XX日 21:06
件名:日記の件で

松平さん

お世話さまです。週刊レビスタの木田です。
今日は興味深い話をありがとうございました。
それですみません、この件に関して、今夜中に少しだけオンラインでお話しできませんか。あのあと、俺も調べてみたんですが、ちょっと気になることがあって。

木田
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 午後十時。俺は自宅のデスクでノートPCを開き、オンラインミーティングに接続した。
 画面が切り替わり、木田の顔が大きく映し出される。正面から当たるデスクライトの光が強すぎるせいか、肌が妙に青白い。背後には編集部の打ち合わせ室らしいスチール棚と段ボールの山が見えた。

木田:松平さん、ありがとうございます。いやよかった、オンラインで繋がれて。どうしても今日中にお話ししたいことがあって。
松平:お疲れ。まだ会社か?
木田:家です。あ、背景は会社の写真撮って作りました。原稿遅れてるライターさんに「会社で待ってますから」って言うとき便利なんですよ。
松平:……で、どうした?
木田:あの日記の表紙に書いてあった名前、覚えてますか?
松平:ああ、太田大すけ、だろ。
木田:ええ。どうしても気になったから、彼の名前と、それから廃墟のあった地名で検索してみたんです。漢字をいろいろ変えて調べてみたら、気になる記事が引っかかったんですが、社内のデータベースだとショボい要約しか読めなくて。
松平:それで?
木田:図書館に行って、当時の紙面、当たってきました。
松平:……何か出てきたのか。
木田:これ、見てください。
 木田がスマホを画面に向けた。ピントが合うまで、少し時間がかかる。
 映し出されたのは、古い新聞記事の画像だった。

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██新聞 19██年8月12日 朝刊
██県██村で小学生5人が行方不明
山中で遭難か
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松平:……これ。
木田:公開捜査になったらしくて、名前も、全部出てました。写真撮ってきたので、メールで新聞記事の画像を送りますね。
 木田は画面から離したスマホを何度かタップする。一瞬間が空いて、俺のスマホがピコンと鳴った。
 そこには、3枚の新聞記事の画像があった。

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██新聞 19██年8月12日 夕刊

██県██村で小学生5人が行方不明
山中で遭難か

 ██県██村で11日午後から夜にかけて小学生5人の行方が分からなくなっており、県警は12日朝から公開捜索を開始した。
 行方が分からなくなっているのは、██村立██小学校に通う佐藤健一さん(7)、中村悠さん(6)、鈴木篤志さん(6)、田中理菜さん(7)、太田大輔さん(6)の5人。
 県警によると、5人は11日午前中に一緒に外出したまま戻らず、同日夕方になって保護者が村役場を通じて通報した。
 5人が最後に目撃されたのは██公園近くで、通称「ムササビ地蔵」方面へ向かっていったという。地蔵の前には子供用の自転車が数台放置されており、現場の状況から5人が山に入った可能性もあるとみて、捜索を進めている。
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██新聞 19██年8月15日 夕刊

行方不明の小学生1人を保護
██県██村 残り4人の捜索続く

 ██県██村で15日午前、11日から行方不明になっていた小学生5人のうち男児(6)1人が発見、保護された。目立った外傷はなく、意識もあるが、県内の病院に搬送された。残る4人の行方は依然として分かっていない。
 県警によると、同日午前6時ごろ、男児が一人で通称「ムササビ地蔵」近くの農道を歩いているところを住民が発見し、通報した。男児は裸足で、衣服には泥が付着していた。県警は男児の回復を待って事情を聴く方針。
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██新聞 19██年8月31日 朝刊

不明の小学生4人 捜索打ち切り
██県██村 保護された男児は退院

 ██県██村で8月11日から行方不明になっている小学生4人について、県警は今日、捜索を打ち切ると発表した。発見に至る有力な手がかりが得られなかったとしている。
 行方が分かっていないのは、いずれも同村立小学校に通う児童4人。捜索は21日間にわたり、延べ約3000人が山林や周辺地域を捜したが、所持品や痕跡は見つからなかった。
 15日に保護された男児(6)は、県内の病院で治療を受けた後、20日に退院した。県警は男児から複数回にわたり事情を聴いたが、「山の中にいた」「友達と一緒だった」「みんな元気」と話すのみで、詳しい状況は分かっていないという。
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 読み終わってからも、俺はしばらく動けなかった。画面の向こうで木田が、俺を覗き込むように身を乗り出す。

木田:松平さん、これ……日記に出てきた子たちですよね。
松平:そうみたいだな。
木田:大輔くんのフルネームだけじゃなく、あとの四人のニックネームも一致してますね。
松平:この五人……山で行方不明になってたのか。
木田:……あれ?
松平:どうした?
木田:いや、五人が山で行方不明って話、どっかで……。いえ、すみません、きっと気のせいです。
木田:それより、大輔くんの日記、八月十五日以降も続いていますよね。行方不明になったのが八月十一日で……四日後からまた書き始めてる。ってことは、記事にある「一人だけ見つかった男児」がこの大輔くんですよね。
松平:そういうことになるな。
木田:でも、内容が矛盾してますね。四人は八月十五日以降も行方不明のまま。遺体も見つかってない。なのに大輔くんは、四人のことを書き続けている。
松平:……そうだな。
木田:それと、もう一つ気づいたんですけど。
松平:なんだ。
木田:あの日記、コピー用紙をホチキスで束ねただけだから、普通のノートよりもページ数が少なかったじゃないですか。で、大輔くんは最後のページまで全部使い切っていた。
松平:ああ。
木田:普通、こういう手作りの教材って、小学校の先生なら「足りなくなったらもう一冊あげるから、必要な人は手をあげてー」とか言いそうじゃないですか?
松平:……俺も同じことを考えていた。
木田:ですよね、考えちゃいますよね。大輔くんの日記──。

 一度口を閉じてから、木田は忌まわしいことを口にするように言った。

木田:二冊目も、あるんじゃないかって。