短歌じゃないけど



 帰り道、歩いているとビニールハウスが開いているのがみえた。
 戸口が開いていたのを、道にたちながら、きづいて…
 おまけに鳴き声もきこえた。
 小動物でも飼っているのかなと、開きっぱなしの戸口からなかを覗いてみた。

「おーい、おーい」

 人の声が呼んでいる…。
 入っていいのか、ちょっと迷う。
 なかを見ると、女子中学生はその声をみつけ、その目に、ほの暗いなかでそこいらにいるらしい鶏がうつっていた。

「なんか弁当の残り、持ってないか」

 その鶏がしゃべっていた。
 女の子の方へにじにじ、と近づいてくる。
 ばさばさっ、  ばさささーーっ
 元気がいい。
 はら はら、と羽がとれ、薄暗いハウスのなかにいるとしてくる匂いのなかに落ちていく。
 あとこもっている。
「……………………」
 鶏はときどき床に口をつけたり、また顔をあげ、女の子の方を向いたりした。
 虫でも探しているようなしぐさをしていた。
 羽毛を揺らしている鶏は、ふっくらとしていて、頭のうえの方は、黒毛のようなものがのっていた。
 なんだろうと、黒い塊をのぞくと、目があった。
――人の鼻と、その下にあるくち。
 鶏達の頭は小さくて、そしてその頭の真ん中に髪にかくれて人の顔があった。
――う……ん。
 女の子が声もでずにいると、その分けいった顔が笑った。
「おれたち、おばけ屋敷の為にっ、育てられてるにわとりなんだ」
「いぃだろー」
 ぴょん、とはねあがり、地面をふみ、またはねる。
 いたるところにいた鶏達は、ハウスの地面をふみ固めていて、飼料を踏みつけている。うごいている。

 人の声が呼んでいます

「なんだ?」
「新しい人か?」
「堪え性がないんだから…、さいきんの人は」

「あれ?女の子だよ、制服きてる」
「――――……っ、……っ、―」
「この子、黙ったまんまーー、なんかいってよ、こんにちはっっ」
「こんにちは……」
 女の子が口を開いてそういうと、彼らはクスクス笑った。

「驚いてる、驚いてる、いいぞーー!」
「お!?おーーっ!」

 足元の、足音がたてる身の軽さがたくさんになってきた。
 合間に、キャウキャウ、という鳴き声。
 どこから聞こえるのか…
「   」


 女の子は、そこから自分がどれほどの早足で出てきたのか覚えていない。
 ただ、家の姿が見えたら、ぼろぼろ涙がこぼれていた。

 その日、家に帰るなり彼女は部屋のドアを閉め、布団を被るとうずくまり、毛布のなかでひとりなきだしていた。










――――――



 女の子の暮らす村には年中の間、設置されたままのビニールハウスが3つほどあるのを、民家と隙間の間にでしょうか、見かけることがあります。
 おばけ屋敷に出すような動物は、実際は少しの風にも敏感に反応するほど繊細で、空気の良い女の子が暮らしているような村のほうが飼育する環境に適しているんです。
 適度に湿気のある環境を維持しながら、ビニールハウスのなかで棲みやすいようにまめな掃除や、湿度調整をしているのは、ビニールハウスのオーナーたちです。
 合間に彼らを必要としている人のもとへちゃんと届くような仕組みの書類仕事、古くなった設備の買い替えなどをする姿が村の子供たちも見ていて、やらねばならないと、土作業で頬が汚れていることもあります。

「―はい」
 しばらくして、村のある家から、十四歳の女の子が部屋にひきこもってでてこないと、オーナーたちに電話が入った。
 連絡を受けたオーナーたちはコンタクトを取り合って、お互いに考えあい今後のことについてどうしようか、ということになった。


「…したら―――」
「―――、――」
「―――うん、かなり…」
 鶏の飼育のあいまに公会堂に集まり、話し合いが行われていた。
 渇いた口に麦茶をはこびつつ、どうやったらいいかと、子供たちのことを考えた。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



――――部屋のなかは明かりがきえている。
    ベッドの布団にくるまっている女の子は、目を開き、とじ、を繰り返している。

    あのハウスのなかの光景――を、思い浮かべて、その顔はがたがたふるえていた。
   「……」
   「……」
―――茶髪のとりもいた。
   茶髪のとりもあの黒い鶏のなかにいた、その様子が、彼女の口をふるわせていた。 

   布団のなかにうずくまっている女の子は、鶏たちを見てから、海にいきなり暗い大穴が空いたみたいに、うまく心が機能しなかった。
   布団にくるまっているどきどきする胸は、――暗い小屋のなかで鶏がはねている、脚を頻繁にうごかし、人をみるとこっちに来る。
   茹でた卵ほどに小さくなった人の頭を、スプーンでくり貫いたものを、柔らかな鶏の身体に埋め込んだ、みたいな顔が黒くながい髪のなかから覗いていた。
   足元にそれらがたくさんいる―――。
   まるでさっきまでのことのように想像した。
   女の子は部屋からでないままらしい。



















 (題: ビニールハウスの向こうの理想)