幼夫は吸血鬼 〜屑拾い令嬢は、育った夫に愛される〜

華燐たちはこのところ、悪霊退治に苦戦することが多くなっていた。

「くそ! もうすぐ満月だっていうのに、こんな小さな式神しか出せないなんて!」

式神遣いの力は、月が満ちるほど強くなる。十日夜の今日なんて、小物の悪霊など瞬殺できるはずだった。

「っていうかこの区画、昨日平定したばかりよ! なんで2日も続けて悪霊が出てくるわけ!」

華燐が金切り声を上げた。
そのとき、濡れた土の上、芝生の上に点々と白い物体が落ちているのを土岐田は見つけた。それは式神を呼んだあとに残る残滓だった。

「あれだ! 昨日の残滓が悪霊を呼んでいる!」
「残滓? そのうち溶ける。放っておいても問題ないはずだ!」
「いや……あれを見ろ」

土岐田が指さす方へ、華燐と荒熊の視線が動く。
職人が手漉きで作る和紙とは違う、強い漂白剤を使用して作られた紙は、月明かりを受けて青白く発光しているようだった。暗闇にぼんやりと浮かぶ火の玉のようで、なんとも不気味な光景だ。

「たぶん、機械で作った紙は、和紙より自然に返りにくいんじゃないか? 今朝は雨が降ったのに、あんなに形が残っている。和紙の式札ならとっくに崩れているはずなのに」
「土岐田、お前うちの工場で作った紙にイチャモンつけるのかよ」
「そうじゃない。残っている以上、拾わないといけないってことだ」
「あれを拾えっていうの? 全部? 私たちは悪霊祓いで疲れてるのに屑拾いまで? なによ、三椏を朔月家になんかやるんじゃなかった」
「……だったら、戻せばいいんじゃね?」

荒熊の言葉に、華燐と土岐田はきょとんとして顔を見合わせる。

「聞いた限りだと、三椏とその吸血鬼は、まだ本当の夫婦ではないんだろう?」
「たしかに、あのお子様が相手では……三椏は乙女のままよね」
「だろ? 結婚したといっても書類だけなら、どうとでもなるんじゃないか? 三椏が男と通じてしまえば、いくら朔月家でも手放すしかなくなるだろう。なんなら土岐田、もらってやったらどうだ?」
「そうよ。あんなでも月齢三位の家の娘よ。月齢十日位の土岐田が三位の嫁をもらうなんて、かなりお得じゃない?」
「僕が……? なるほど、たしかにいい話だ」

パッと花が咲くように満面の笑みを見せた華燐が「決まりね!」と手をたたいた。

「だったら善は急げよ。次の十五夜に決行ね」
「なんで満月なんだ?」
「ふふ、ほら、純血の吸血鬼は陽の光が苦手なんでしょ? その光を反射する月の光も苦手って聞いたわ」
「だから満月か。5日後だってよ、土岐田」

男を見せろよ、という荒熊に、土岐田は困ったような笑顔を見せた。しかし片手で口を隠した後、両広角を不自然に上げたのだった。