コウモリのコンパスは最近忙しい。自分の主人である璃臣が結婚をきっかけに、だいぶ愉快なことになっているからだった。
「それで? 愛しのお嫁ちゃんはどうなのよ」
「……聞いてくれるかコンパス。まず、三椏がかわいすぎる……!!!」
「そっかいつも通りだなぁ! 幸せそうで何よりだ!」
「信じられるか? 夢から覚めても三椏がいるんだ」
「へぇー夢でも一緒なのか」
「当然だろ?」
「おう……」
コンパスの返事がだんだんと短くなっていることに、璃臣は気づかない。ふだんは貧血気味で青白い頬を紅潮させ、生き生きと璃臣は話し続ける。
「頭の葉っぱを取っただけなのにさ、見惚れたんだって! 俺に! あの上目遣いはヤバい。俺のほうが三椏に見惚れてるしって言いたかったけど我慢した! 抱きしめてなんやかんやするところを堪えた俺は偉大だね。もう自分史で存分に誇っていい。というか、毎日見てるのに毎日かわいいが更新されるってすごくないか?」
「すごいな……お前そんなに喋れたんだな……」
「あーでもお守りのことは、ちょっとそっけなかったかな。だってさ、子供の頃から三椏と一緒とかズルいじゃん。俺だって子供の頃から三椏のこと見てたのに! 気にしてたのに! でも持ち歩くな、なんて言えないじゃんか!」
「璃臣が渡した折り鶴なんだろ?」
他人からの贈り物ならともかく、自分が渡した物にまで嫉妬するなんて、とコンパスは空いた口が塞がらない。
璃臣が生まれた時から知っているコンパスは、幼い璃臣と三椏が折り鶴を交換し合っていたことを覚えている。あの頃の璃臣は、周囲から浮かないように、と彼の父に髪と瞳の色を変化させられていた。だから、三椏はあの頃に出会った少年が璃臣だと気がついていない。今の璃臣が子供の姿だから、余計に二人が同一人物だとは思わないんだろう。
それにしても、とコンパスはため息をついた。
「よく喋るなぁ。お嫁ちゃんにこのだらしない顔を見せてやりたいぜ」
「絶対やめろよ。三椏のなかで僕は『かわいい顔しているのに大人びた少年』なんだから」
「はぁー……このええかっこしいが」
「勝手に言ってろ」
「もう結婚したんだし全部話せばいいじゃんか。子供の頃から好きでしたー再会するためにめちゃくちゃ努力しましたーその結果結婚できて幸せでーすって」
「やだよ馬鹿っぽい」
「おい馬鹿とは何だ」
「特に子供の頃の話なんて絶対したくないね。泣いてばっかで本当に弱っちいガキだったから。黒歴史だ。過去の自分で唯一褒めてもいいところは、あの頃、三椏に名乗らなかったことだけだ」
「いや、その頃からええかっこしいだった、ってだけだろうが」
「うるさいな。『強くて優しいお母さんを一番尊敬してる』って三椏は言ってたからな。そんな存在に俺はなるんだ」
「つまり母になって養いたいと。はぁ〜くだんね。母と夫じゃ役割が違うだろ」
目を伏せた璃臣が呟いた。
「俺は、恋愛で繋がるんじゃなく、親愛で繋がりたいんだ」
「……お前の両親みたいには、なりたくないって?」
「ああ」
「璃臣、それは想像以上につらいぞ」
「分かってるよ」
「いや、覚悟が足らないな。好きな子とひとつ屋根の下、もともと血の匂いは超好み。傷を舐めたら夢中になる美味しさ。いや〜いつまでもつか見ものだな。──くれぐれも、無理はするなよ」
「……するだろ。両親を見てたらそうなる」
「気持ちは分かる。ただな、どこかで折り合いをつけなきゃならねぇ。全く手を出さないっていうのは無理だ。今の、成長できないその姿。歪みの象徴だ。そんな状態でいつまでも生きていられると思うなよ」
「……」
「お嫁ちゃんだって悲しむぜ? もう関わっちまったんだからよ。ま、お嫁ちゃんを追い詰める側にならないようにだけは注意しろよ」
「絶対、絶えてみせるからな」
そう強がる璃臣の姿に、コンパスは小さなため息をついた。
「それで? 愛しのお嫁ちゃんはどうなのよ」
「……聞いてくれるかコンパス。まず、三椏がかわいすぎる……!!!」
「そっかいつも通りだなぁ! 幸せそうで何よりだ!」
「信じられるか? 夢から覚めても三椏がいるんだ」
「へぇー夢でも一緒なのか」
「当然だろ?」
「おう……」
コンパスの返事がだんだんと短くなっていることに、璃臣は気づかない。ふだんは貧血気味で青白い頬を紅潮させ、生き生きと璃臣は話し続ける。
「頭の葉っぱを取っただけなのにさ、見惚れたんだって! 俺に! あの上目遣いはヤバい。俺のほうが三椏に見惚れてるしって言いたかったけど我慢した! 抱きしめてなんやかんやするところを堪えた俺は偉大だね。もう自分史で存分に誇っていい。というか、毎日見てるのに毎日かわいいが更新されるってすごくないか?」
「すごいな……お前そんなに喋れたんだな……」
「あーでもお守りのことは、ちょっとそっけなかったかな。だってさ、子供の頃から三椏と一緒とかズルいじゃん。俺だって子供の頃から三椏のこと見てたのに! 気にしてたのに! でも持ち歩くな、なんて言えないじゃんか!」
「璃臣が渡した折り鶴なんだろ?」
他人からの贈り物ならともかく、自分が渡した物にまで嫉妬するなんて、とコンパスは空いた口が塞がらない。
璃臣が生まれた時から知っているコンパスは、幼い璃臣と三椏が折り鶴を交換し合っていたことを覚えている。あの頃の璃臣は、周囲から浮かないように、と彼の父に髪と瞳の色を変化させられていた。だから、三椏はあの頃に出会った少年が璃臣だと気がついていない。今の璃臣が子供の姿だから、余計に二人が同一人物だとは思わないんだろう。
それにしても、とコンパスはため息をついた。
「よく喋るなぁ。お嫁ちゃんにこのだらしない顔を見せてやりたいぜ」
「絶対やめろよ。三椏のなかで僕は『かわいい顔しているのに大人びた少年』なんだから」
「はぁー……このええかっこしいが」
「勝手に言ってろ」
「もう結婚したんだし全部話せばいいじゃんか。子供の頃から好きでしたー再会するためにめちゃくちゃ努力しましたーその結果結婚できて幸せでーすって」
「やだよ馬鹿っぽい」
「おい馬鹿とは何だ」
「特に子供の頃の話なんて絶対したくないね。泣いてばっかで本当に弱っちいガキだったから。黒歴史だ。過去の自分で唯一褒めてもいいところは、あの頃、三椏に名乗らなかったことだけだ」
「いや、その頃からええかっこしいだった、ってだけだろうが」
「うるさいな。『強くて優しいお母さんを一番尊敬してる』って三椏は言ってたからな。そんな存在に俺はなるんだ」
「つまり母になって養いたいと。はぁ〜くだんね。母と夫じゃ役割が違うだろ」
目を伏せた璃臣が呟いた。
「俺は、恋愛で繋がるんじゃなく、親愛で繋がりたいんだ」
「……お前の両親みたいには、なりたくないって?」
「ああ」
「璃臣、それは想像以上につらいぞ」
「分かってるよ」
「いや、覚悟が足らないな。好きな子とひとつ屋根の下、もともと血の匂いは超好み。傷を舐めたら夢中になる美味しさ。いや〜いつまでもつか見ものだな。──くれぐれも、無理はするなよ」
「……するだろ。両親を見てたらそうなる」
「気持ちは分かる。ただな、どこかで折り合いをつけなきゃならねぇ。全く手を出さないっていうのは無理だ。今の、成長できないその姿。歪みの象徴だ。そんな状態でいつまでも生きていられると思うなよ」
「……」
「お嫁ちゃんだって悲しむぜ? もう関わっちまったんだからよ。ま、お嫁ちゃんを追い詰める側にならないようにだけは注意しろよ」
「絶対、絶えてみせるからな」
そう強がる璃臣の姿に、コンパスは小さなため息をついた。
