一瞬、理解が遅れた。
「な、何言ってるんですかコタローくん」
『……』
「拉致って、拉致されたからライブをドタキャンしたって言うんですか。でも、その後で例の動画を更新してます……よ……?」
言いながら、思い当たる。
『うん、そう。だからあの動画は――
犯人が用意したフェイクなんじゃないっすかね?』
私が思い当たったのと同じ推測を、彼が告げる。
『動画を作って公開した目的は、赤雪モカを捜索されないようにするため。
飛んだ上に謝罪もなしで、能天気な動画を悪びれず出したクソアイドルにして、世間に見捨てさせるため』
手軽な、どこにでもある、流し見程度の価値しかない動画。
頭の中で、先ほど観たものが想像上の『光景』となって浮かび上がる。
コスメを紹介する赤雪モカから、視点がぐるりと移り――その正面にいるであろう『撮影者』の姿をとらえる。
彼女の笑顔の先に在る、動画の外の存在。
「コスメの種類が少ないのと、メイクが雑だったのって……」
『たぶん赤雪モカがわざとやったんです」
「もしかして、視聴者に違和感を抱かせるため……?」
『たぶん。実際、おれたちは引っかかりを覚えた』
ドクドクと動悸がうるさかった。
『そう考えたら、拉致した犯人像も絞り込めます。
ひと一人を監禁できるほどの力……フィジカル的な意味でも経済的な意味でもその能力があって、コスメが少ないのにも、メイクの手順がおかしいことにも気づかない』
つまり、化粧に興味がない。
『成人男性――赤雪モカのファンのような』
脳裏で、想像上の『撮影者』の姿形が、少しクリアになる。
アイドルの笑顔(目は笑っていない)と明るい声(微かに震えている)に、満足げにニタリとする……『男』。
「……だとしたら、最後の裏拍手は……?」
私は吐き気をこらえて、聞いた。
『今までで一番の推測っすけど、奇行を加えたかったんじゃないですかね』
「奇行?」
『赤雪モカが、おれの知り合いの知り合いが作ったホラー映画に出てたって言ったじゃないすか』
映画のタイトルは〈呪エル・ガール〉。
女子高生が、丑の刻参り、蠱毒など、さまざまな呪術で人を殺すショートホラーのオムニバスらしい。
『これの裏拍手パートを演じたのが赤雪モカです。
動画サイトに載ってるやつで確認しました』
だから、オカルト界隈でも微妙にマイナーな裏拍手のことを知っていたのか。
「足りないコスメも裏拍手も……彼女の精一杯のSOSだった……?」
呆然とつぶやく。
暗澹たる気持ちで口元をおさえた。
頭の中は完全に混乱していた。なんだこれは、と現実を受け入れがたかった――けれど。
『いや、でも! 全部、単なる憶測ですし』
コタローくんが、一転して陽気に振る舞った。
「へ?」
『なんかちょっと安楽椅子探偵きどってましたけど、マジでそうと決まったわけじゃないっすからね!』
「それはまあ……そうですけど」
あまりに真に迫っていて忘れていた。
変てこな動画がひとつあるだけで、現実の彼女がどうなったのかは分からない。
失踪したかどうかすら不明なのだ。
この会話は、ただのホラー好きの戯れ言で、不謹慎でブラックな遊びに過ぎない。
「証拠もなければ確かめる術もないですしね」
『運営に凸ってみます? 赤雪モカの現在について』
「さすがにそれは……」
真っ当な大人がすることではない、と続けると、コタローくんはニカッと歯を見せた。
『まあでも、久々に楽しかったです。あざっす』
そんな言葉で締めくくって、その日のリモート飲みはお開きになった。
ところが、事態は思わぬ方向に向かったのである。
「な、何言ってるんですかコタローくん」
『……』
「拉致って、拉致されたからライブをドタキャンしたって言うんですか。でも、その後で例の動画を更新してます……よ……?」
言いながら、思い当たる。
『うん、そう。だからあの動画は――
犯人が用意したフェイクなんじゃないっすかね?』
私が思い当たったのと同じ推測を、彼が告げる。
『動画を作って公開した目的は、赤雪モカを捜索されないようにするため。
飛んだ上に謝罪もなしで、能天気な動画を悪びれず出したクソアイドルにして、世間に見捨てさせるため』
手軽な、どこにでもある、流し見程度の価値しかない動画。
頭の中で、先ほど観たものが想像上の『光景』となって浮かび上がる。
コスメを紹介する赤雪モカから、視点がぐるりと移り――その正面にいるであろう『撮影者』の姿をとらえる。
彼女の笑顔の先に在る、動画の外の存在。
「コスメの種類が少ないのと、メイクが雑だったのって……」
『たぶん赤雪モカがわざとやったんです」
「もしかして、視聴者に違和感を抱かせるため……?」
『たぶん。実際、おれたちは引っかかりを覚えた』
ドクドクと動悸がうるさかった。
『そう考えたら、拉致した犯人像も絞り込めます。
ひと一人を監禁できるほどの力……フィジカル的な意味でも経済的な意味でもその能力があって、コスメが少ないのにも、メイクの手順がおかしいことにも気づかない』
つまり、化粧に興味がない。
『成人男性――赤雪モカのファンのような』
脳裏で、想像上の『撮影者』の姿形が、少しクリアになる。
アイドルの笑顔(目は笑っていない)と明るい声(微かに震えている)に、満足げにニタリとする……『男』。
「……だとしたら、最後の裏拍手は……?」
私は吐き気をこらえて、聞いた。
『今までで一番の推測っすけど、奇行を加えたかったんじゃないですかね』
「奇行?」
『赤雪モカが、おれの知り合いの知り合いが作ったホラー映画に出てたって言ったじゃないすか』
映画のタイトルは〈呪エル・ガール〉。
女子高生が、丑の刻参り、蠱毒など、さまざまな呪術で人を殺すショートホラーのオムニバスらしい。
『これの裏拍手パートを演じたのが赤雪モカです。
動画サイトに載ってるやつで確認しました』
だから、オカルト界隈でも微妙にマイナーな裏拍手のことを知っていたのか。
「足りないコスメも裏拍手も……彼女の精一杯のSOSだった……?」
呆然とつぶやく。
暗澹たる気持ちで口元をおさえた。
頭の中は完全に混乱していた。なんだこれは、と現実を受け入れがたかった――けれど。
『いや、でも! 全部、単なる憶測ですし』
コタローくんが、一転して陽気に振る舞った。
「へ?」
『なんかちょっと安楽椅子探偵きどってましたけど、マジでそうと決まったわけじゃないっすからね!』
「それはまあ……そうですけど」
あまりに真に迫っていて忘れていた。
変てこな動画がひとつあるだけで、現実の彼女がどうなったのかは分からない。
失踪したかどうかすら不明なのだ。
この会話は、ただのホラー好きの戯れ言で、不謹慎でブラックな遊びに過ぎない。
「証拠もなければ確かめる術もないですしね」
『運営に凸ってみます? 赤雪モカの現在について』
「さすがにそれは……」
真っ当な大人がすることではない、と続けると、コタローくんはニカッと歯を見せた。
『まあでも、久々に楽しかったです。あざっす』
そんな言葉で締めくくって、その日のリモート飲みはお開きになった。
ところが、事態は思わぬ方向に向かったのである。



