「……えっ?」
我ながらまぬけな声が出た。
「ど、どういうことですか?」
『それ説明する前に、赤雪モカで検索かけてくれません? おれはXでパブサするんで、運営のサイトとか掲示板とか』
「あ、はい」
指示されたとおり、スマホで赤雪モカ、地下アイドル、ハニハニバニーで検索してみた。
すると『雑談たぬき』という掲示板が見つかった。
(掲示板文化ってまだあったんだ……)
SNSが隆盛しても、いや隆盛しているからこそ、匿名性を重んじられるのか。
一発目に出てきたのは、こんなタイトルだった。
〈【○市地下ドル】ハニハニバニー・赤雪モカ【ドタキャン女】〉
……うわぁ、と私とコタローくん、両方の口からそんな声が漏れ出た。
*
『つまり、まとめると』
・赤雪モカは、地下ドル界隈では売れっ子だった。
・グループのセンターというよりも赤雪モカ単体で人気があり、熱狂的なファンも多い。
・近々グループを脱退し、大手事務所に移籍するという噂があった。
『でも、赤雪モカは解雇された。理由は、彼女が〝飛んだ〟から』
「20××年の7月に連絡なしで定期公演をドタキャンして、運営とも音信不通になって……でも問題は、その後ですね」
当時のログにざっと目を通したけれど、赤雪モカに対して、最初は心配の声が大きかった。
地下ドル界隈というのは、非常に特殊らしい。
ライブ開演直前で、「今しがたメンバーから『飛びます』と連絡があり、現在も連絡がとれない状況です。よって本日は残ったメンバーで出演します」とお知らせ砲を食らうことも珍しくないのだそうだ。
そのなかで、赤雪モカは責任感の強いアイドルだったという。
定期公演は皆勤賞、特典会は神対応、体調不良でもそれを隠してパフォーマンスするなど、まさにオタクが安心して推せるアイドルだったのだ。
そんなモカが飛ぶわけがない。
彼女の身に何かがあったのではないか。
けれど飛んだ半月後に、例の動画――〈【美容オタク】地下ドルのポーチの中身見せます【フルメイク用】〉を公開したのだ。
「謝罪なしでこれを投下したら、そりゃ炎上しますよ……」
SNSや掲示板での彼女に対する批判は、それはもう凄まじかった。
残されたメンバーやファンたちの怒り、嘆き、絶望、憎悪……それらがすべて混ざって煮詰まり、やがて無関係な野次馬も集まって腐敗し、『消えろ』『死ね』を凌駕する強大な悪意と化した。
まさに数の暴力だ。本人がまともに食らったら死を選びかねないほどの。
無責任なアイドルに堕ちた赤雪モカは、そうして見捨てられた。
「それで、この動画が彼女の意思で撮られたものではないって、どういうことですか?」
改めてコタローくんに尋ねると、彼はくぐもった声で返事をした。
『妄想に近い、推測っすけど。
まず、この動画以降、赤雪モカのSNSも個人チャンネルも更新されてないっすよね?』
「そう……ですね」
XにInstagram、TikTok。
すべてチェックしたけれど、どれも20××年の7月で止まっている。
『それってつまり、世間的には赤雪モカは行方知れずってことになりません?』
「は?」
また何を言い出すのだ、と最初は思った。
「いやでも、SNSやらの更新がないだけで……無言で引退しただけでしょう?」
『それならアカ削除とか退会すればいいじゃないっすか』
「ほ、本人が忘れてるとか?」
『でもどのSNSもコメ欄が罵詈雑言の巣窟っすよ。死ねとか殺すぞのNGワードが使えないから遠回しに。
世の中、こんなに悪口のバリエーションがあるんすね。不謹慎だけど勉強になるわー』
そんな軽口を叩いた後、コタローくんは尋ねた。
『自分への悪口って、ずっと残していたいっすか?』
「……私なら……目に入れたくないですね。存在しているだけで嫌です。消します」
『そうっすよね。だから考えを逆さにしました。
赤雪モカは、アカウントを削除・退会しないのではなく――できないんじゃないかって』
ギョッとする。
SNSその他の削除・退会ができない――それはどんな状況だろう?
たとえば体調不良で起き上がるのさえ難しくても、指一本でできる作業ではないか。
スマホさえあれば。
「スマホがない……使えない状況?」
もしくはまさか――
「まさか赤雪モカは、すでに死……」
『……それか、自由を奪われているのかもしれない』
私の最悪の想像をさえぎった後。
彼はどっちが最悪なのか分からない推測を口にした。
『赤雪モカは誰かに拉致されて――監禁されている』
我ながらまぬけな声が出た。
「ど、どういうことですか?」
『それ説明する前に、赤雪モカで検索かけてくれません? おれはXでパブサするんで、運営のサイトとか掲示板とか』
「あ、はい」
指示されたとおり、スマホで赤雪モカ、地下アイドル、ハニハニバニーで検索してみた。
すると『雑談たぬき』という掲示板が見つかった。
(掲示板文化ってまだあったんだ……)
SNSが隆盛しても、いや隆盛しているからこそ、匿名性を重んじられるのか。
一発目に出てきたのは、こんなタイトルだった。
〈【○市地下ドル】ハニハニバニー・赤雪モカ【ドタキャン女】〉
……うわぁ、と私とコタローくん、両方の口からそんな声が漏れ出た。
*
『つまり、まとめると』
・赤雪モカは、地下ドル界隈では売れっ子だった。
・グループのセンターというよりも赤雪モカ単体で人気があり、熱狂的なファンも多い。
・近々グループを脱退し、大手事務所に移籍するという噂があった。
『でも、赤雪モカは解雇された。理由は、彼女が〝飛んだ〟から』
「20××年の7月に連絡なしで定期公演をドタキャンして、運営とも音信不通になって……でも問題は、その後ですね」
当時のログにざっと目を通したけれど、赤雪モカに対して、最初は心配の声が大きかった。
地下ドル界隈というのは、非常に特殊らしい。
ライブ開演直前で、「今しがたメンバーから『飛びます』と連絡があり、現在も連絡がとれない状況です。よって本日は残ったメンバーで出演します」とお知らせ砲を食らうことも珍しくないのだそうだ。
そのなかで、赤雪モカは責任感の強いアイドルだったという。
定期公演は皆勤賞、特典会は神対応、体調不良でもそれを隠してパフォーマンスするなど、まさにオタクが安心して推せるアイドルだったのだ。
そんなモカが飛ぶわけがない。
彼女の身に何かがあったのではないか。
けれど飛んだ半月後に、例の動画――〈【美容オタク】地下ドルのポーチの中身見せます【フルメイク用】〉を公開したのだ。
「謝罪なしでこれを投下したら、そりゃ炎上しますよ……」
SNSや掲示板での彼女に対する批判は、それはもう凄まじかった。
残されたメンバーやファンたちの怒り、嘆き、絶望、憎悪……それらがすべて混ざって煮詰まり、やがて無関係な野次馬も集まって腐敗し、『消えろ』『死ね』を凌駕する強大な悪意と化した。
まさに数の暴力だ。本人がまともに食らったら死を選びかねないほどの。
無責任なアイドルに堕ちた赤雪モカは、そうして見捨てられた。
「それで、この動画が彼女の意思で撮られたものではないって、どういうことですか?」
改めてコタローくんに尋ねると、彼はくぐもった声で返事をした。
『妄想に近い、推測っすけど。
まず、この動画以降、赤雪モカのSNSも個人チャンネルも更新されてないっすよね?』
「そう……ですね」
XにInstagram、TikTok。
すべてチェックしたけれど、どれも20××年の7月で止まっている。
『それってつまり、世間的には赤雪モカは行方知れずってことになりません?』
「は?」
また何を言い出すのだ、と最初は思った。
「いやでも、SNSやらの更新がないだけで……無言で引退しただけでしょう?」
『それならアカ削除とか退会すればいいじゃないっすか』
「ほ、本人が忘れてるとか?」
『でもどのSNSもコメ欄が罵詈雑言の巣窟っすよ。死ねとか殺すぞのNGワードが使えないから遠回しに。
世の中、こんなに悪口のバリエーションがあるんすね。不謹慎だけど勉強になるわー』
そんな軽口を叩いた後、コタローくんは尋ねた。
『自分への悪口って、ずっと残していたいっすか?』
「……私なら……目に入れたくないですね。存在しているだけで嫌です。消します」
『そうっすよね。だから考えを逆さにしました。
赤雪モカは、アカウントを削除・退会しないのではなく――できないんじゃないかって』
ギョッとする。
SNSその他の削除・退会ができない――それはどんな状況だろう?
たとえば体調不良で起き上がるのさえ難しくても、指一本でできる作業ではないか。
スマホさえあれば。
「スマホがない……使えない状況?」
もしくはまさか――
「まさか赤雪モカは、すでに死……」
『……それか、自由を奪われているのかもしれない』
私の最悪の想像をさえぎった後。
彼はどっちが最悪なのか分からない推測を口にした。
『赤雪モカは誰かに拉致されて――監禁されている』



