――裏拍手以外にもおかしい点?
虚をつかれて、私は首を傾げる。
「何が? 最後以外は、普通の動画だと思いましたけど。言っちゃ悪いけど、なんの変哲もないコスメ紹介動画」
検索したら山ほど出てくるコンテンツだ。
『いやいや、観てる最中「えっ?」って戸惑ってたじゃないすか』
「私が?」
赤雪モカのあいさつを聞いて、『Bad』の多さとコメントの荒れように気後れしていたら、彼女がどんどんコスメを取り出して、それらを塗りたくって――
「……あ」
たしかに、違和感を覚えた。
「少ないんだ。アイテムの種類が」
私がそう続けると、コタローくんは『そうっす』と返した。
『お直し用じゃなくてフルメイク用と言ったわりには、いろいろ足りなかったんです』
似たようなコスメ紹介動画をたまに流し見するが、この倍以上のアイテムが出てくる。
『化粧下地とか、まゆげ用のアイブロウとか、アイライナーもなかったし。
アイシャドウで代用できんことはないんでしょうけど……ステージに立つならハイライトやシェーデングは必須っしょ。
まつ毛も下がったまんま。ビューラー使いますよ、フツーは』
「……コタローくん、男子なのになんでそんなにくわしいんですか」
(あれ。これ偏見か?)
無意識に古い考えを口にしてしまったと反省していると、彼はさらりと答えた。
『おれ、手掛けたいテーマが〈少女×ホラー〉なんすよね。だから女子のことは研究してる』
「あ、なるほど」
思いがけないところで友人の真面目な――創作者として真摯な部分を見てしまい、軽く面食らった。
『特に、日焼け止めがないのが気になるんすよね。自分は美容にこだわってるって再三言ってんのに』
「たしかに、執拗なくらいくりかえしてましたね……というか」
『汚かったっすよねぇ、完成したメイク』
「……はい。ズボラ売りなのかと思いましたけど、たぶん違いますよね」
化粧に明るくないのであえてツッコまなかったが、メイク完成と言った赤雪モカの顔面は「ちょっとヤバい」であった。
まるで子どもが親の化粧品をイタズラしたような出来栄え。
工程も雑だったし、あれでは初心者の方がもっと丁寧なのではないだろうか。
「何より、リップでレンズに変な絵? 模様? を書いたのが気になります」
コスメオタクが、大事なリップで絵なんか書くか?
これは、愛をそそぐ対象は違えど同じオタクだからこそ覚えた違和感だ。
『矛盾……』
コタローくんがつぶやく。
矛盾。まさにそれだ。
赤雪モカの発言と、行動が見合っていない。
動画内コメントをさかのぼってみる。
コメント:【自称オタクで草】【コスヲタならリップをペン代わりに使うな(怒)】【せっかくのMACちゃんが~!】
コメント:【最近の若いひとはオタクと名乗ることにステータスを感じているように思えます】
裏拍手のほか、コスメを雑に扱うことを咎める書き込みが散見された。
(なんだろうか、これは)
先ほどとはまた別種の奇妙さ――据わりの悪さを感じる。
けれどそれが何なのかよく分からない……執筆の際に、最適な文章が出てこないときのような感覚に陥っていると、
コタローくんが言った。
『もしかして、……この動画は、彼女の意思で撮られたものじゃないのかもしれない』
虚をつかれて、私は首を傾げる。
「何が? 最後以外は、普通の動画だと思いましたけど。言っちゃ悪いけど、なんの変哲もないコスメ紹介動画」
検索したら山ほど出てくるコンテンツだ。
『いやいや、観てる最中「えっ?」って戸惑ってたじゃないすか』
「私が?」
赤雪モカのあいさつを聞いて、『Bad』の多さとコメントの荒れように気後れしていたら、彼女がどんどんコスメを取り出して、それらを塗りたくって――
「……あ」
たしかに、違和感を覚えた。
「少ないんだ。アイテムの種類が」
私がそう続けると、コタローくんは『そうっす』と返した。
『お直し用じゃなくてフルメイク用と言ったわりには、いろいろ足りなかったんです』
似たようなコスメ紹介動画をたまに流し見するが、この倍以上のアイテムが出てくる。
『化粧下地とか、まゆげ用のアイブロウとか、アイライナーもなかったし。
アイシャドウで代用できんことはないんでしょうけど……ステージに立つならハイライトやシェーデングは必須っしょ。
まつ毛も下がったまんま。ビューラー使いますよ、フツーは』
「……コタローくん、男子なのになんでそんなにくわしいんですか」
(あれ。これ偏見か?)
無意識に古い考えを口にしてしまったと反省していると、彼はさらりと答えた。
『おれ、手掛けたいテーマが〈少女×ホラー〉なんすよね。だから女子のことは研究してる』
「あ、なるほど」
思いがけないところで友人の真面目な――創作者として真摯な部分を見てしまい、軽く面食らった。
『特に、日焼け止めがないのが気になるんすよね。自分は美容にこだわってるって再三言ってんのに』
「たしかに、執拗なくらいくりかえしてましたね……というか」
『汚かったっすよねぇ、完成したメイク』
「……はい。ズボラ売りなのかと思いましたけど、たぶん違いますよね」
化粧に明るくないのであえてツッコまなかったが、メイク完成と言った赤雪モカの顔面は「ちょっとヤバい」であった。
まるで子どもが親の化粧品をイタズラしたような出来栄え。
工程も雑だったし、あれでは初心者の方がもっと丁寧なのではないだろうか。
「何より、リップでレンズに変な絵? 模様? を書いたのが気になります」
コスメオタクが、大事なリップで絵なんか書くか?
これは、愛をそそぐ対象は違えど同じオタクだからこそ覚えた違和感だ。
『矛盾……』
コタローくんがつぶやく。
矛盾。まさにそれだ。
赤雪モカの発言と、行動が見合っていない。
動画内コメントをさかのぼってみる。
コメント:【自称オタクで草】【コスヲタならリップをペン代わりに使うな(怒)】【せっかくのMACちゃんが~!】
コメント:【最近の若いひとはオタクと名乗ることにステータスを感じているように思えます】
裏拍手のほか、コスメを雑に扱うことを咎める書き込みが散見された。
(なんだろうか、これは)
先ほどとはまた別種の奇妙さ――据わりの悪さを感じる。
けれどそれが何なのかよく分からない……執筆の際に、最適な文章が出てこないときのような感覚に陥っていると、
コタローくんが言った。
『もしかして、……この動画は、彼女の意思で撮られたものじゃないのかもしれない』



