【検証記録】アイドルに呪われる動画

「コタローくん。今のって」
『〈 裏拍手(うらはくしゅ)〉、っすね』

 手の甲で拍手をする動作、〈裏拍手〉。
『呪い』や『不吉』を意味し、本来は神聖な行為である拍手を『逆さ』にすることで、忌み事へ転じるのだ。
 死者がするしぐさ、あるいは死者に対する振る舞いとされ、非常に縁起が悪いとされている。

 裏拍手について、有名な怪談がある。
 あるカップルが、車で心霊スポット巡りをした。
 ノリノリの彼氏に対し、彼女はずっと怖がり、「やめよう」と言い続けた。
 彼氏はその訴えを無視し続け、車を走らせ、心霊スポットに向かった。
 2箇所目を回ったとき、彼女は泣きながら訴えた。
「手の甲で拍手をしていた人がいた! 絶対に幽霊だよ、あれ!」
 いやだ、怖い、帰りたいと嘆く彼女だったが、彼氏は意に介さなかった。
 そうして3箇所目に到着して、彼氏が嬉々としてその心霊スポットの曰くを話したところ――彼女の態度が激変した。
 さっきまで涙目だったのが嘘のように、満面の笑みで「楽しみ! 早く行こうよ!」を返事をした。
 手の甲で拍手をしながら。

 ――他にも、こんな都市伝説がある。
 音楽番組のオーディエンスの中に、一人だけ裏拍手をしていたファンがいた。
 しかしその人物はすでに亡くなっていたことが判明した……というものだ。

『裏拍手の怖いところは、他にもあるっすね』
「ああ、聞いたことあります。他者……生きている人に向かって裏拍手をするのはダメなんですよね」
『ですです。殺害の〈呪詛〉になります。』
「だから〈最後に呪われる動画〉って呼ばれているのか……」

 空気、というか会話のトーンが重くなっていく。

 なんてことだ。
 元気づけたかったのに、とんでもない動画を見せてしまった。

 平成のネット黎明期に流行った、ホラー系フラッシュ動画――『赤い部屋』や『ウォーリーを探さないで』などのビックリ系なら盛り上がりもするけれど、これはなんだか気分が悪い。
 アイドルの微笑ましい動画だと思って観ていたのに、最後に明らかに不気味なものを見せつけられたのだ。
 裏拍手自体を知らなくても、唐突に悪意をぶつけられたような心地になる。
 悪ふざけにしてもタチが悪い……

「あの、コタローくん。変なモノ見せてしまってごめ」
『――この動画』

 私の謝罪を、コタローくんは沈黙を破ってさえぎった。

『おかしい、っすよね』
「え? それはまあ」
『いや、ちがくて……裏拍手以外に、ううん、それ以上に……おかしなところがある』