『みなさん、こんにちモカー! ハニハニバニーの赤担当、赤雪モカです!』
画面いっぱいに20歳前後の女性が映った。
赤いメッシュが入ったハーフツインテ。大きな瞳と小作りな口元が特徴的な、小動物系女子だ。
えらくダボダボなTシャツを着ている。流行りのオーバーサイズコーデというやつだろうか。
背景は白い壁――というか、壁に白い布を貼っている。
その上に、彼女が所属しているアイドルグループ・『ハニハニバニー』のポスターを貼って、グッズのタオルやペンライトを吊って飾っていた。
ポスターを見る限り、彼女がグループのセンターのようだ。
顔も可愛いし、人気がありそうな印象を受ける。
『あ。おれ、この子知ってます』
「え?」
『知り合いの知り合いが撮った、インディーズのホラー映画に出てた気が……ちょっと待って、スマホのメモに記録があるはず……うん、やっぱり出てた』
「へぇ。どうでした?」
『内容は面白かったし、演技も棒読みなだけでフツーでしたよ。あっ、でもめっちゃ怖かったシーンがいっこだけあったかな』
すごい偶然だ、と私は軽く感心し、動画が始まるので話題をいったん切った。
その動画タイトルは――
〈【美容オタク】地下ドルのポーチの中身見せます【フルメイク用】〉
概要によると、投稿日時はおよそ2年前、『20××.8.16』。
再生回数は『3,017』――と確認したところでギクリとした。
再生回数に対して『Bad』の評価が多すぎる。
『Good』が100前後なのに、『Bad』は1,000を超えている。
『今日は、リクエストが多かったメイクポーチの中身を公開するよ!
わたしは美容とコスメのオタクだから、みんなついてきてね!』
画面の下部にコメントが流れてくる。
案の定というべきか、大荒れしていた。
コメント:【何この動画】【最後、不愉快すぎる】【は?って感じ】
『わたしは本当に美容に気を遣っていて、コスメも厳選してるんだよね!』
コメント:【オタク(笑)】【トップのおすすめに上がってたけどハニハニバニーって何?】
コメント:【○市の地下ドル。けっこう売れてる】【いや知らんしw】
悪意まみれのコメントと、赤雪モカの笑顔と明るい声音のコントラストがすさまじい。
彼女は、ジルの花柄ポーチから次々とコスメを取り出していく。
『まずはファンデ。デパコスの、ちょっとお高めのもの使ってる』
華美なファンデーションケースを正面に向けた後、彼女は中のパフを顔面に塗りつけていく。
コメント:【パフ汚くね?】【撮影するなら洗うか新しいのにしろよww】
『マスカラ。これ重ね塗りすると、2時間ライブしても落ちないよ!』
赤雪モカが手鏡を見ながら、下がり気味のまつ毛にマスカラを塗っていく。
コメント:【ウチ同じやつ買ったことあるわ】【同じく〜。使い心地ビミョーだったよね】
コメント:【っつか、マスカラ使った後はフタしろよ。乾くぞ】
『アイシャドウとチークは、キャンメのコスパがエグい~』
コメント:【それは同意】【ん? ここでアイシャドウ?】
アイシャドウもチークも使い古したものらしく、ケースの印刷は剥げて、中身も残り少なかった。
新品を使えばいいのに、と思うやいなや。
コメント:【動画にすんなら新品買えよ!!!!メイク動画ナメてんの!!!??】
私の何気ない所感と同じ内容のコメント。みんな思うことは同じか。
赤雪モカは手早くまぶたにカラーを載せた。
チップも使わず、指で。
その後、指の腹を拭かないままチークをすくってペタペタと塗りたくる。
『リップはファンの人からのプレゼントで、大事に使ってます』
コメント:【入手困難だった限定色だ】【太客うらやま】
赤雪モカがくすんだ色の唇に、深いボルドーのリップをつけた。
さっと塗っただけなので唇から少しはみ出ていた。
『これで全部だよ! アイドルメイク、完成!』
「えっ?」
『……』
思わずパソコンの液晶へ身を乗り出した。
コタローくんは無言だ。
コメント:【は? は!?】【これで……オワリ……?】
コメント:【少なっ。つーか汚っ】【アイドルメイクとは???】
コメント欄が私の戸惑いをすべて代弁していた。
『最後に、モカオリジナルのおまじないをかけるね!』
赤雪モカはそんなもの気にも留めず、エンディングに入る。
動画本編との温度差が激しいコメント欄に、こんな2行があった。
コメント:【コイツ、炎上したやつじゃねーか!】
コメント:【最後のキショ。テメーが呪われろ】――
炎上。
その単語に引っかかる前に、画面内の赤雪モカは口角を上げたまま、素爪の指先でテーブルの上のリップを拾った。
ふたを取る。
赤い紅の先端をこちらに向けて――画面に、否、撮影中のカメラのレンズに『模様』を書いた。
文字(漢字や数字に見える……?)と奇妙なマークが混ざったような、意味も意図も不明なモノ。

(筆者注:実際の画像ではなく、筆者の記憶の元に再現した画像。実際はもっと文字がにじみ、判読困難)
『みんなも真似して!』
いっそう明るい笑顔で、赤雪モカは手の甲を合わせて、
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
拍手をした。
手のひらではなく手の甲で。
「っ!?」
私はギョッとなり、つい後ずさった。
コタローくんが息を呑む気配が伝わった。
『高評価、コメント、登録よろしくモカ! ばいばーい!』
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
最後の瞬間まで拍手をし続ける赤雪モカ。
目が、笑っていなかった。
暗転した画面を通話モードに切り替えると、私は重い口を開いた。
画面いっぱいに20歳前後の女性が映った。
赤いメッシュが入ったハーフツインテ。大きな瞳と小作りな口元が特徴的な、小動物系女子だ。
えらくダボダボなTシャツを着ている。流行りのオーバーサイズコーデというやつだろうか。
背景は白い壁――というか、壁に白い布を貼っている。
その上に、彼女が所属しているアイドルグループ・『ハニハニバニー』のポスターを貼って、グッズのタオルやペンライトを吊って飾っていた。
ポスターを見る限り、彼女がグループのセンターのようだ。
顔も可愛いし、人気がありそうな印象を受ける。
『あ。おれ、この子知ってます』
「え?」
『知り合いの知り合いが撮った、インディーズのホラー映画に出てた気が……ちょっと待って、スマホのメモに記録があるはず……うん、やっぱり出てた』
「へぇ。どうでした?」
『内容は面白かったし、演技も棒読みなだけでフツーでしたよ。あっ、でもめっちゃ怖かったシーンがいっこだけあったかな』
すごい偶然だ、と私は軽く感心し、動画が始まるので話題をいったん切った。
その動画タイトルは――
〈【美容オタク】地下ドルのポーチの中身見せます【フルメイク用】〉
概要によると、投稿日時はおよそ2年前、『20××.8.16』。
再生回数は『3,017』――と確認したところでギクリとした。
再生回数に対して『Bad』の評価が多すぎる。
『Good』が100前後なのに、『Bad』は1,000を超えている。
『今日は、リクエストが多かったメイクポーチの中身を公開するよ!
わたしは美容とコスメのオタクだから、みんなついてきてね!』
画面の下部にコメントが流れてくる。
案の定というべきか、大荒れしていた。
コメント:【何この動画】【最後、不愉快すぎる】【は?って感じ】
『わたしは本当に美容に気を遣っていて、コスメも厳選してるんだよね!』
コメント:【オタク(笑)】【トップのおすすめに上がってたけどハニハニバニーって何?】
コメント:【○市の地下ドル。けっこう売れてる】【いや知らんしw】
悪意まみれのコメントと、赤雪モカの笑顔と明るい声音のコントラストがすさまじい。
彼女は、ジルの花柄ポーチから次々とコスメを取り出していく。
『まずはファンデ。デパコスの、ちょっとお高めのもの使ってる』
華美なファンデーションケースを正面に向けた後、彼女は中のパフを顔面に塗りつけていく。
コメント:【パフ汚くね?】【撮影するなら洗うか新しいのにしろよww】
『マスカラ。これ重ね塗りすると、2時間ライブしても落ちないよ!』
赤雪モカが手鏡を見ながら、下がり気味のまつ毛にマスカラを塗っていく。
コメント:【ウチ同じやつ買ったことあるわ】【同じく〜。使い心地ビミョーだったよね】
コメント:【っつか、マスカラ使った後はフタしろよ。乾くぞ】
『アイシャドウとチークは、キャンメのコスパがエグい~』
コメント:【それは同意】【ん? ここでアイシャドウ?】
アイシャドウもチークも使い古したものらしく、ケースの印刷は剥げて、中身も残り少なかった。
新品を使えばいいのに、と思うやいなや。
コメント:【動画にすんなら新品買えよ!!!!メイク動画ナメてんの!!!??】
私の何気ない所感と同じ内容のコメント。みんな思うことは同じか。
赤雪モカは手早くまぶたにカラーを載せた。
チップも使わず、指で。
その後、指の腹を拭かないままチークをすくってペタペタと塗りたくる。
『リップはファンの人からのプレゼントで、大事に使ってます』
コメント:【入手困難だった限定色だ】【太客うらやま】
赤雪モカがくすんだ色の唇に、深いボルドーのリップをつけた。
さっと塗っただけなので唇から少しはみ出ていた。
『これで全部だよ! アイドルメイク、完成!』
「えっ?」
『……』
思わずパソコンの液晶へ身を乗り出した。
コタローくんは無言だ。
コメント:【は? は!?】【これで……オワリ……?】
コメント:【少なっ。つーか汚っ】【アイドルメイクとは???】
コメント欄が私の戸惑いをすべて代弁していた。
『最後に、モカオリジナルのおまじないをかけるね!』
赤雪モカはそんなもの気にも留めず、エンディングに入る。
動画本編との温度差が激しいコメント欄に、こんな2行があった。
コメント:【コイツ、炎上したやつじゃねーか!】
コメント:【最後のキショ。テメーが呪われろ】――
炎上。
その単語に引っかかる前に、画面内の赤雪モカは口角を上げたまま、素爪の指先でテーブルの上のリップを拾った。
ふたを取る。
赤い紅の先端をこちらに向けて――画面に、否、撮影中のカメラのレンズに『模様』を書いた。
文字(漢字や数字に見える……?)と奇妙なマークが混ざったような、意味も意図も不明なモノ。

(筆者注:実際の画像ではなく、筆者の記憶の元に再現した画像。実際はもっと文字がにじみ、判読困難)
『みんなも真似して!』
いっそう明るい笑顔で、赤雪モカは手の甲を合わせて、
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
拍手をした。
手のひらではなく手の甲で。
「っ!?」
私はギョッとなり、つい後ずさった。
コタローくんが息を呑む気配が伝わった。
『高評価、コメント、登録よろしくモカ! ばいばーい!』
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最後の瞬間まで拍手をし続ける赤雪モカ。
目が、笑っていなかった。
暗転した画面を通話モードに切り替えると、私は重い口を開いた。



