【検証記録】アイドルに呪われる動画

 数年前の春の夜。
 コロナ禍により、すっかりリモート飲みが定着した時期だった。
 私は、友人のコタローくんとオンライン通話で話していた。
 内容はホラー談義である。

「『数の暴力』って、あらゆるホラージャンルに通じる言葉ですよね。幽霊、神様、呪いや祟り……信じる人間、関わる人間が多ければ多いほど強い力を持ちます」

 度数の低い酒を傾けて、とりとめのない――ホラー好きの戯れ言を語る私に、画面の向こう、コタローくんは薄く笑みを浮かべて聞いていた。

「オバケじゃない普通の人間だって、集団ヒステリーを起こして襲ってくるのは怖いじゃないですか。
 でも最たるものはやっぱりゾンビ。古き良き『ロメロゾンビ』のようなタイプだと動きものろくて可愛げもあるんですけど、何百人何千人もいると、圧倒的な脅威です」
『……』
「あ、でも『新感染 ファイナル・エクスプレス』の、爆速で走るゾンビは一人でも怖い……」

 私は言葉を切った。
 コタローくんの反応が鈍いことが気になったのである。

「どうかしました? 元気がないようですけど」

 そう尋ねると、コタローくんは幼さが残る顔をくしゃっとさせた。

『実は……空前絶後のスランプなんです』

 スランプ。
 我々創作者にとって、もっとも忌避したい状況。しかも空前絶後とは……これは聞き流せない。

『撮りたい画面やおおまかなストーリーはあるんすけど、脚本に落とし込めないっていうか。
 胸の中のモヤを吐き出せないみたいな。小説家でもそういうのあります?』

 私は兼業のホラー作家、コタローくんはホラー映画の監督志望者だ。
 表現手段は異なれどホラーを愛する気持ちは同じ。もう何年も、年代を超えた付き合いをさせていただいている。

「ありますよ。人物の状況や心境にぴったりな言葉が見つからないときは、霞をつかんでるような心地になります」

 全力で「わかる」「それな」を伝えると、コタローくんは苦々しくため息をついた。

 一回りほど年の離れた友人のピンチに、焦燥感が募った。
 私にとって、彼は単なるホラ友(ホラー友達)ではない。
 アマチュアの頃からずっと作品づくりの相談に乗ってもらっていた。なんなら、私が商業作家としてデビューできたのは彼の力が大きい。
 数年前に某出版社の小説賞を受賞して単著デビューを果たしたのだが、それはコタローくんから聞いた体験談を大いに参考にしたのだ。
 賞金や印税を分与したいと言ったのだが……コタローくんはそれを断った。
「作中におれを出してくれたから、それで充分」「もっと面白いホラー書いてくれたらいいっすよ」と笑って。
 彼には、一生かけても返しきれない恩がある。

 そんな恩人の危機に、私は何かせずにはいられなかったのだ。

「なら、今日はインプットの日にしませんか?」
『えっ?』

 そう提案しつつ、右手はパソコンの横に置いたネタ帳のページを繰った。
 目の端でとある記述をとらえる。

「〈最後まで観るとアイドルに呪われる動画〉……って、知ってますか?」

 それは、少し前に先輩作家から聞いた話だった。
 都市伝説や噂ではない。実在する動画だ。
 事実、その先輩作家は一度視聴したそうだし、URLも送ってきた。いつかコタローくんと観ようと思っていたのだが、思わぬところで機会が巡ってきた。

「アイドルに……呪われる……?」

 コタローくんの目に、先ほどは皆無だった光が宿っていた。
 よし、釣れた。
 そう確信した私は、画面共有モードに切り替えた。