【検証記録】アイドルに呪われる動画

「……」

 重苦しい沈黙が続いた。

「……でも、コタローくん」
『はい?』
「ああだこうだ言っていますけど、やっぱり本当かどうか分からないんですよね」
『それっすよ』

 湯山未喜男の怪死が本当に呪術によるものなのか――確かめる術はない。
 いやあるにはあるのだろうが、何の権限も持たない、ただのホラー好きの一般庶民には手段も気力もない。

 ふう、とため息をついたときだった。
 スマホに知らせが届いた。

「コタローくん!」
『はい!?』
「赤雪モカ、今からインライするみたいです!」

 何気に彼女のインスタをフォローしていたので、通知が入った。
 警察に保護され、病院に運ばれたと聞いたがもう退院したのか。
 Xの告知には「ご心配をおかけしました」とあった。

 オンライン通話をつなげたまま、赤雪モカのライブ配信にアクセスした。かなりの人数が集まっていた。

 やがて開始時間になり、画面が切り替わる。
 赤雪モカの姿が映った。
 あの動画やアイドル時の姿よりずいぶん痩せた。髪や肌がひどく荒れている。顔色も悪い。

 動画と違って、サイズぴったりのTシャツを着ていた。
 あれは犯人・湯山の服だったのか、と今さら理解した。

 そして――
 私たちは、すべての推測が正しかったと確信した。


 ……視線を下に落としながら、赤雪モカが口を開く。

『みなさん、こんばんは。赤雪モカです』
『あは……こんにちモカってコメントしてくれてる』
『ごめん、泣いちゃって……』
『帰ってこれたんだって思ったら、つい』
『ほんとごめんね……心配かけちゃって』

 うつむく赤雪モカ。コメントとハートが流れる。

 コメント:【モカ、おかえり】【謝らないでよ】
 コメント:【生きててくれてよかった】【がんばったね】

『警察の人に口止めされてるから、事件のことはあまりくわしく言えないけど』
『わたしは……一応、元気だよ』
『ちょっと歩きにくくなったのと、陽射しがまぶしいのがキツいくらい』
『でも。でもね!』
『わたし、絶対にあきらめないから』
『絶対にまたアイドルとして、みんなのところに帰ってくるから……!!』

 赤雪モカが悲痛な声で訴える。
 世にも恐ろしい目に遭い、命からがら生還した女性の悲壮な決意。
 涙を誘うような光景だったが――

 コメント:【モカ 目 どうしたの?】

 面を上げた赤雪モカの顔を見て、私もコタローくんも、おそらく全視聴者が困惑した。

 赤雪モカの瞳が。
 右目は上、左目は下、ぎゅるんとそれぞれ別の方を向いている。

 コメント:【変な加工やめて】
 コメント:【こわい】
 コメント:【白目剥かないで】
 コメント:【こわいよ、モカ】

 赤雪モカが小首を傾げる。

『えっ? フツーにカメラ見てるよ?』

 不思議そうに答えて双つの白目が近づいてきて――私は思わずアプリを閉じた。
 眼球のありえない動き方に、ゾワゾワと肌が粟立つ。

『ひとを呪わば穴二つ……』

 コタローくんが、ぼそりとつぶやいた。