ローコントラストの日常



「おいっ! しっかりしろよ!! 司っ!?」


僕は財前を揺り動かしながら、その名前を何度も呼んだ。
反応は無い。


いくら揺すっても顔を叩いても、財前は長い睫毛に縁取られた瞼を開ける事はなかった。


血の気を失った白い肌、まるでおとぎ話にある魔法で眠らされた主人公の様にその顔は安らかだ。


けれど、手首の黒い痣は財前の顔の方にまで侵食して来ている。



「オマエ……ふざけんなよ!? なんでこんな……」




財前の襟首を掴んで起き上がらせようとする、しかしダランとなったその肢体は力なく冷たいコンクリートの床へと戻ってゆく。


「寝たフリすんなよ……おいっ! 司! ほら、お望み通り名前で呼んでやったぞ!?」


僕はそれでも諦められず、何度も何度もいつもの様に悪態を吐き、そして肩を揺すった。


でも、やはり財前は目を覚まさなかった。



「財前君は……大和田君の為に私を助けたんだと思う」



呆然とした様子で僕らを見ていた市毛さんが呟く様に言う。



「市毛さん……? それってどういう……」




市毛さんはフラフラと立ち上がり、倒れている財前の隣に座ると黒い痣を指さす。




「コレ……財前君は私の呪いを受けてこうなったんだよね……それは私を助ける為だった……でも、私の為じゃない……私が助かれば大和田君が喜ぶと思ったからじゃないかな……」



「えっ……? はっ?い、いやいや! なんで?」




思わず苦笑いした。




手を前にブンブンと振りながら否定を示す。



「そ、そりゃあ、僕は市毛さんのファンで、市毛さんを助けたいとは思っていたよ? でも……でも、命を差し出してまでそんな事する必要は……」




そこまで口にして、僕は今までの財前の行動を頭の中で思い返してみる。




確か、財前は前に言っていた
「好きな人が不幸せなんてオレは絶対反対」
だと……


僕の幸せ?


僕の幸せってなんだ?


それを財前は何故望むというのだろう。


確かに、僕は市毛さんが好きで……


彼女がまた、アイドルとして元気に活動してくれたらと願った。


単純に彼女を助けたいと思った。





だけど、それで僕が満足したところで財前に何か得があるのか?




僕が喜ぶからって、それで自分の命まで捧げないだろ!?





僕はそんな事望んでなんかいない!




「私には……少しわかるよ……財前君の気持ち……好きな人に思いが伝わらない……でも、その人には幸せでいて欲しい……例えそれで自分が不幸になっても……私だって構わない」




市毛さんは財前に自分を重ねたのか、素直な気持ちを吐き出しているようだった。



「私も……もし、本当に好きな人が私の命と引き換えに幸せになれるのなら……私は、その人に絶対に幸せになって欲しいから……同じ事するよ」



彼女の眼差しから強い意志を感じる。


僕が付き合う事の見返りに、財前は市毛さんを助ける約束をした。




財前は何故だか僕を好きだといい、なんだかんだと束の間の恋人ごっこを楽しんでいる様に見えた。




財前が本気だったのか、最後まで僕をからかっていたのかはわからない……




いや、本当に分からなかったか?




……違う。




僕は、わかりたくなかったんだ。





もし、本当に僕を好きだという存在がいたとして、今まで誰からも好かれた事の無い僕がそれを認めていつか失うのはあまりにも辛く……




僕はきっとそういうものからも、ずっと逃げていたかったんだ。




でも、もう……


逃げるのはヤメだ。




「僕は、市毛さんや財前みたいにまだ本当に人を好きになった事がないから……二人の気持ちはわからないし、この先僕が同じ気持ちを抱くかはわからない……だけど、今は僕は自分がどうこうより、財前を……司を助けたい」




僕に出来る事が今あるのかは正直わからないけど……




でも、何か方法があるんじゃないか?



思い出せ!




何か……



そうだ……



昔、司は自分の母親に取り巻いていたモノを吸って、母親を一時的にだったかもしれないが回復させたと財前兄は言っていた。




そして、それをまた母親が自身へと戻した……



一度吸ったモノを移す事が出来る━━━━



それはもしかしたら、司の母親に特殊な力があったとか、特別な存在だったから出来たのかもしれない……



もしくは司が特殊な能力があるから……



でも、それ以外にも僕は一つの可能性を考えていた。




司と司の母親の心が強く繋がっていたから……




お互いを思う強い気持ちがあったから出来た事なのではないのか?




それなら僕らは、司が僕を思っている気持ちは確かなものだと思う。





じゃあ、僕は……?





僕は司の事を……





いや、もううだうだ言ってる時間は無い。




やるだけやってみるんだ!




その時、もちろん司の母親の最後が頭を過ぎらなかったワケでは無い。




自分が今の司の様になる可能性、それが無いとは言えない。





なんならそっちのが高い気もする。





「僕も司の事言えないな……」




それでも僕は今、目の前にいる司をなんとかして助けたかった。




やり方とかは全くわからないが、とりあえず痣の広がる手を両手で包み込む様に握ってみる。




そして、ひたすら心の中で強く思う。





【この呪を僕が引き受ける】




と━━━━



「…………だから、目を開けてくれ……司」



強く、強く願った。





ただ、それだけを……






━━━━━━━━━━━━━━ っ!?



背後に何かの気配を感じた。






冷たい空気が僕の頭から足先までを通ってゆく。





振り返ると、そこにさっきの濡れた少女が立っていた。



彼女がこの世のモノではない存在なのは確かだ。




でも、何故だかさっきも今も、そういったモノの特有の嫌な感じは不思議と彼女からはしない。




『キミは…………?』





少女は僕の手にその手を重ねた。



その途端、僕の意識は遠くなっていった。
















深い━━━━



深く暗い水の底へと落ちてゆく様な感覚。





やがて、目の前には真っ白な空間そして……



眩しい光がその全てを包み込んだ。




目を開けていられなくなり、ギュッと固く瞼を閉じて、次に開いた瞬間に僕の目の前には……





知らない景色が広がっていた。





『どうしてだよ……』





聞き覚えのない声が聞こえる。





『どうして…………アイツなんだよ』






ココは、病院……だろうか?





暗く長い廊下、一人の男性が長椅子に腰をかけているのが見える。



『お父さん……』




男性の子供だろうか?





小さな男の子が心配そうに顔を覗き込んでいた。




けれど、まるでその子が見えてないのか男性は何も言わず、ただ俯いている。



『司……もう行こう』



『お兄ちゃん』




男の子より少し歳上の少年が、手を引いて歩き出す。



コレは、多分……小さい時の司の記憶━━





司の中に残っている記憶のパーツ、その一つ一つが声や見たモノとしてガラス片のようにバラバラと真っ暗な闇に落ちている。




それは、触れると映画の様に僕の目の前で映し出された。




また違う場所が目の前に広がった。




『大丈夫よ、お母さんすぐ治っちゃうから』


『本当に?』


『ホント! お母さん、司に嘘言った事ないでしょ?』


『うん』


『お母さんが元気になったら、司はどこか行きたい場所ある?』


『うーん……遊園地!』



『じゃあ、早く元気にならなきゃね』




幼い司と指切りを交わすベッドの上にいる優しそうな女性、母親だろうか?



そこには穏やかな空気が流れている。



けれど、それは一瞬で終わった。








また別の場面に変わる。



今度は、先程の女性がベッドに横たわっているのを、司がガラスごしに見つめていた。



女性には、人の形をした黒いモヤが取り巻いているのがハッキリと見える。






『お兄ちゃん、お母さん元気になるよね……?』




『…………』




司の隣にいた少年は俯いたまま答えなかった。





アレは多分、司のお兄さんだろう。





『ぼくね、お母さんが元気になったら遊園地一緒に行く約束したんだ、お母さんとお兄ちゃんとお父さんと僕で……』




『……お前のせいだよ』





いつの間にか、兄弟の背後に先程【お父さん】と呼ばれていた男性が立っていた。





『……えっ?』





『お前が産まれてから……アイツは……度々体が悪くなって……だから……お前のせいでアイツは……』





それは、まるで呪詛だ。





ブツブツと幼い司に向けて、【お前のせい】と何度も何度もそう言った。





「父さんは……オレの事、スゴい毛嫌いしてたんだよね……」



いつの間にか、僕の隣には【現在】の司が立っていた。





「ほら、オレ人の念みたいなモノが見えるから、父さん昔から女癖悪くてさ、しょっちゅう浮気しててね、だから父さんの後ろにはいつも母さんじゃない女の人の姿が見えてて……オレが、父さんの後ろぼーっと見るから気味悪いって」




"薄気味悪いのよ……!"




僕へと向けられた母からの言葉が頭の中で響いていた。




「罪悪感、なんだろうね……そのクセ他の女の家には行って母さんを悲しませるのにさ……母さんにはスゴい執着しててね……って、ゴメン……こんな話聞きたくないよね?」




「いや、お前の事知りたいから……」




「…………ありがとう」



『お母さん……僕が治してあげる……』





僕らの背後で、幼い司が母親の手を握っていた。




全身を取り巻いていた黒いモヤは、ズルズルと司の中へ吸収されてゆく。




「母さん、父さんの浮気相手に恨まれてたんだよね……母さんがいなかったら自分が結婚出来るって……そう思われて」




スライドが切り替わるように、また周囲の状況が変わった。


ベッドの上で昏睡状態の司。





小さな手には黒い痣が広がっている。





司の側には手を握る母親。





『ゴメンね……司、ありがとう……でも、お母さん司には元気でいて欲しいから……』



その途端、司の中から煙の様に黒いモヤが現れ母親の方へと流れ込んでゆく。




「母親はお前と同じ力を持ってたのか……?」






「いや、知ってはいてくれたけど……母さんにはオレみたいな能力は無かったと思うよ、ただアノ時はオレが危険な状態で、なんとかしたい!って気持ちで……今のかるまっちみたいにね」





「……そうだよ……お前……僕がどんだけ……」




司の言葉でさっきまでの僕の不安や恐怖が、一気に思い返された。




「体に支障ないって言ったよな……?」





「うん……ゴメンね、それは……かるまっちには本当の事言えなかった……」




「僕がどれだけ怖かったか!! お前ナニ考えてんだよ!?」





もう僕に笑顔を向けても、もう僕に話しかけてもくれない……そう思った時の喪失感と恐怖。




その時にようやく、アノ時間が居心地が良かったのだと思えた自分自身に対する不甲斐なさ。





色んな後悔が押し寄せて、僕は……





司は困った様な顔をして微笑み、そして俯く。





「……オレは……かるまっちに……ただ、幸せになって欲しくて……それはオレじゃ出来ないと思ったから……業の側にいれる人はオレじゃないって思って……」




「勝手に決めんな! お前、僕に幸せになって欲しいんだよな!? それなら、お前が側にいて僕を……僕を幸せにしろ!!」



「…………っ!?」





司はキョトンとした顔で僕をジッと見つめた。



「プッ……ハハハハ……!」



そして、急に笑い出す。




「なっ、なんだよ!? 何かおかしな事を僕は言って……」



「ううん、違うよ! 嬉しい……ありがとう、そうだねオレが責任持って幸せにしなきゃね」




司は僕の手を握る、いや現実ではないこの夢の様な状況の世界で握るという表現が本当に正しいかはわからない。



「……かるまっち、本当にいいの?」




「ここまで来て今更やめるは無いだろ」




「わかった……少し痛いかも……」





ゆっくりと目を閉じる、司から受け取る流れている感覚。





恐怖は無かった。




ただ、自分の中に感じた事の無い思いが、思考の中へと無遠慮に入ってくる。





辛い
悔しい
悲しい
寂しい






そして……ココにいたい。






頭の中でぐるぐると渦巻いて……






やがて、その感覚は溶ける様に僕の中へと吸収されてゆく。


「……っ━━!?」





痛みというより、気が滅入るような頭がクラクラとした。



「かるまっち……大丈夫?」




司の声が意識の奥で聴こえる。





しかし、それよりも━━━━






『やめてよそれ! そんな目で見ないで!』




お母さん……





『気味悪いのよアノ子……アノ子がいなかったら今だってきっと……』



お母さん……





僕を否定する母の声が、無理矢理心の深い部分から引っ張り出されてくる。



感情が入って来たモノに引っ張られる……!



「ごめ……なさい……」



言葉と共に涙が溢れた。


「業っ……!?」


司が僕を強く抱きしめた。




ああ、コイツはいつもこんなのを一人で抱え込んでたのか。





僕は、今までずっと僕だけが嫌なモノを見て僕だけが嫌な思いをしてると思い込んでた。



「司……ごめん……」





「何を謝って……そんな事より、このままじゃ業の心が……」



ああ、こんな事になってもまた僕の事か……





どんだけ僕の事が好きなんだよ。





何がそんなに良いんだか……



ホント、お前って……



暗い━━真っ暗な闇が頭の中へ流れ込もうとしていた。



「コレは私も……持っていくよ……」


その時、知らない少女の声がした。




思わず目を開けて声をした方を見ると、僕を道案内したずぶ濡れの少女が立っていた。





さっきと様子が違うのは、顔にかかっていた髪の間から彼女の顔が見えている事だ。




「まどかにツラい思いさせたのは、私の所為でもあるから……」



微笑んだ少女はアノ写真の中で笑っていた彼女だった。





その途端、頭の中からアノ闇が抜けていく。





そして、温かい光が辺りを満たした。








━━━━━━!?








まるで高所から落ちるような衝撃がして僕が目を開けると、そこは……さっきいた屋上のコンクリートの床だった。



少しずつ、現実へ戻った感覚が戻ってくる。



背中には冷たく硬い感触がする。


体が痛い。



少し頭痛もする。



右手には微かな手の温もり、そちらへチラっと視線を向けると司の瞼がピクリと動いた。



「大和田君!? 財前君!?」




市毛さんの声が上から降り注ぐ。




ポロポロと涙を零して、それが雨粒みたいに僕に降り注いでいた。


僕は倒れたまま、自分の繋がれている手と財前の手首を見た。


市毛さんの呪を吸った黒い痣は、手首の辺りからうっすらと残っている程度だ。




「ごめん、ごめんなさい……私が二人を巻き込んだから…………本当に私どうかしてた……」






必死に謝る彼女の背後を見て、僕は安堵の溜息を吐く。





アノ黒いモヤはもう彼女から消えていた。





「……かるまっち~……」




生死を彷徨ったヤツとは思えない程、とぼけた司の声がする。





「司、お前大丈夫なのか?」





「うん……なんとか~……それより、オレの事やっと名前で呼んでくれたね~」






僕はその一言で、気が抜けたのか一気に疲労がピークとなって押し寄せ意識を失った。





気が付かいた時には、病院のベッドの上にいた。




なんの因果か、運ばれた病院はさっきまでいたアノ七王子病院。



再び同じ所に戻って来てしまっていた。




僕が意識を失ったあと、階下に待機していた司のお兄さんがすぐに救急車を呼び僕らはココへ搬送してもらえたらしい。


そして、僕らの運ばれてくる少し前に、なんと堀田さんの意識が戻ったらしいのだ。




と、僕より早く目覚めた司から聞いた。



僕らは病室に運ばれた途端にほとんど体調も回復していて、念の為という事でベッドに寝かされたあと、診察を受けさせられる事となった。





もちろん結果は特に異常なども見つからず……





先に診察が終わった僕は、与えられたベッドには戻らず堀田さんのいる階へと向かった。





アノ時━━
僕らを救ってくれたのは……
堀田さんだと思う。





その後の彼女がどうしても、僕は気がかりだった。






堀田さんの病室の側まで行くと、既に中からは女の子達が楽しそうにおしゃべりする声が漏れ聞こえていた。





思わず壁に身を寄せそっと聞き耳を立てる。



「まどか、スゴいね本当にアイドルになったんだね!」


部屋から聞こえた声は、アノ時聞いた声だった。


「ありがとう……でも……」


「どうかした?」


「さくら、ごめん! 私のせいで……ごめんなさい、本当はさくらがアイドルになるずだったのに」


「なんで謝るの? 事故にあったのはまどかの所為じゃないし、私は運が悪かっただけだよ~」


「さくら……だってアノ時……私、さくらからもらった髪留め……自分で外して失くしたんだよ……私だけがコレを繋がりだとか……さくらと特別だとか思ってるんだ……って一人でいじけて……」


「知ってたよ……」


「知って……た?」


「私ね、アレはまどかが私に振り回されて嫌になっちゃったからそうしたのかと思ってた」


「ちが、違うっ……」


「私ね、眠ってる間ずっと夢見てたんだ……まどかの夢、まどかが人気アイドルになってさ、みんなに認められて……それなのにまどかったらずっとしんどそうで、私にごめんごめんって謝ってるの、私はなんで謝ってるの? もういいから~って言いたいのに言えなくてね、まどかにずっとツラい思いを抱え込ませてた……」


「さくら……」


「そしたら、夢の中に急に知らない男の子が二人出て来て、まどかを助けようとしてくれたんだけどね、上手くいかなくて……私が助ける! って強く願ったらこうやってまた、まどかに会えた」


「さく……ら……」


「でもさ、アノ男の子達かっこよかったんだよ、あっ!まどかはアイドルになっちゃったからもう恋愛は禁止か~……残念っ」


「…………さくらは、好きな人……いたよね」


「あっ! うんうん、大好きな漫画のキャラ!」


「漫画……のキャラ?」


「えっ……? 話したよ~もう、ちゃんと聞いてなかったでしょ? アノキャラね、ちょっとまどかに似てて……」



「えっ……」



僕はそこまで聞いて、司の所に戻る事にした。




最後に少しだけ覗き見た病室の中にいた堀田さんは、手首を愛おしそうにさすっていた。




病室に戻ると司は一人、ゴロゴロと暇そうにベッドの上を転がっていた。



ベッドにもう一度入る気にはなれず、僕は司のベッドの横に置かれた椅子に座る。



「特にこのまま異常がなければ、すぐに退院出来るってさ」


「なんか~かるまっち遅くなかった~?」



僕は再び装着した眼鏡のブリッジを指で上げた。



「眼鏡かけると視界不良になるんだから、仕方ないだろ」




「え~っ……かけない方がいいのに~」



司はもうすっかり調子を取り戻しているようだ。


「かるまっち……オレね……ずっと、この力はいつか誰かの役に立つものなんだって……そう思ってたんだよね」


「唐突だな」


「だって、話すなら今だと思ったからさ、それでさオレが誰かを助ける事が、幸せにする事が出来たら……って思ってた……母さんを助けられなかった分……他の誰かを……って」


それが例え自分を不幸にする事になっても、コイツはそっちを選ぶのだろう。


「母さんの事はさ……兄貴から後で聞いたんだ、ずっとオレに黙ってたけど長い事病気だったんだって……だから、オレが母さんにかけられていた呪いをいくら吸収しても、いずれは助けられなかったて……」


「そうか……」


「うん……オレ……だから、いつか……誰かを……助けるって……オレの大事な人を助けるって……思ってたけど……また失敗したかも…………ごめん……」



司は泣いていた。


市毛さんも司も、顔が綺麗なヤツというのは泣くと絵になるのはどういう事なんだろうか。



「これから……あっそういえばまだ、遊園地行って無かったな」


「えっ……でももうオレは、かるまっちと……」


市毛さんを助けるまで……
確かにこの関係は期限付きと言っていた。


「なんだよ、一緒に行こうってアレ嘘なのか?」


「えっ……? いや、違うけど……」


「じゃあ、もう絶対嘘つくなよ?」


「うっ、うん……」


「あと、一人でムリな時はムリって言え」


「うん……」


「今度、ハンバーガー奢りな」


「うんっ! うんっ!!」


司は何度もメタルバンドのライブの客ノリのごとく首をたてにふっていた。


「それなら……もう少し、付き合う……」


「それって……」


僕らはお互いを見つめた。

視線が重なる、今一度自分の気持ちに、司の気持ちに向き合ってみよう。


そう思えた。


今ならちゃんとわかる。


僕は司が…………



二人の距離が少しずつ近づいてゆく。



学校の時みたいな気まずさは、カーテンで囲われたこの場所ならまだ少ない。


僕は目を閉じた。




「大和田氏~司~! 二人とも無事で良かった~」


病室に入って来たお兄さんはカーテンを思い切り開けると、さっきまでの空気感を思い切り破壊し、大袈裟なほどのリアクションで僕や司に抱きついて来た。


「いや~二人が倒れた!とMADOKA氏から聞いた時は生きた心地がしませんでしたよ~」



僕らは顔を見合わせ苦笑いした。