ローコントラストの日常


翌日━━━━


「おはよう! かるまっち」


「…………あぁ、うん……ぉはょぅ……」



いつもの通学路。


レンズ越しのぼやけた朝の風景。


「ねぇねぇ昼休みさ、一緒にごはん食べていい?」



「えっ……何で……?」



「何でってー、付き合ってるんだから普通じゃない?」



「……普通…………」






何で━━


何でこんな事になったんだ!?





━━━━昨日



そう、昨日だ。




僕は頭の中で昨日の事を思い返した━━━━




突然、わけのわからない交渉を財前にされた僕はしばらく意味がわからず呆けていた。




「付き合うって……えっと、どこに?」




財前は僕の顔を凝視した。




「一緒にどっか行くって事だろ……?」



訝しげな僕に財前は満面の笑みで答える。




「そうだね~、いっぱいどっか一緒には行きたいよね~……だけどそっちじゃないよ」



「そっちじゃないって……? じゃあ……」



「オレの恋人になってよ」



「………………恋……人…………??」




いやいやいやいや!!


おかしいおかしいおかしいっ!!


何を言ってんだコイツは!?


あっ、もしかして罰ゲームか!?


告白ドッキリとかか??


僕は物陰から他のクラスメイトが出て来て、スマホ片手にキョドってる僕を撮影しているんじゃないかと辺りをキョロキョロ見回す。


むしろその方が有難い!



出て来てもらえた方が「だよねー」で終われてスッキリする。


しかし、待てど暮らせど、そんなヤツは誰一人として出て来てはくれない。



土鳩が1匹僕らの間を通り過ぎていくだけだ。



「オレのお願い……かるまっちがオレの恋人になってくれるならいいよ、市毛まどかさんを助けてあげる」



「いや、だから何で……おかしいだろ? 何で僕なんだよ??」



「それは……オレがかるまっちの事が好き……だからだけど……」



財前は微かに頬を染めて俯いた。


何だこの展開!?


このイケメンが僕を……好きだと????


嘘だろ?


嘘に決まってる……


でも、目の前の財前は頬を紅潮させ目にうっすらと涙まで浮かべている。


……本気……なのか??



「あっ、でも、オレ……かるまっちの嫌がる事は絶対したくないから! あくまで清い交際で! ……手とかは繋ぎたい……かもだけど……」



僕はただ呆然と、昨日まで住む世界の違うと思っていた僕の前でモジモジする陽キャイケメンを見つめていた。



「それに、恋人っていってもオレが市毛まどかさんを救うまででいいんだ! それまでの間だけ……オレとお付き合いして欲しいんだ……」



冗談……ではないらしい。



完全にこの状況を把握するのは難しいとこだが、とにかく財前は僕が好きらしいし、市毛さんを助ける条件は僕との期間限定の交際(ただし清い交際)なのだそうだ。




僕は━━



正直、コイツと付き合うとか恋人になるとかがよくわからない。



でも……市毛さんを、僕の大切な人を……





それで守れるのなら……




「……本当に、市毛さんを助けてくれるんだな?」



「うん……絶対」



「本当に? 約束だからな」



「うん……なんなら契約書でも書こうか?」



「わかった……お前の願い……きいてやるよ」



こうして、僕らの期間限定の交際が始まってしまった。






「…………何でこんな事に」



朝起きた時、定番ではあるが夢だったのかもしれないと、そう思い込もうとさえした。


けれど……


珍しく朝早く、僕のスマホの通知音が鳴ったと思ったら……




【かるまっちおはよー!
今日から一緒に学校行こー】



画面の通知欄に、このメッセージが表示されていたのを見てしまい、昨日の事が残念ながら夢じゃなかったのだと理解せざるを得なかった。



まるで醒めない悪夢をずっと見ているような、そんな気分だ。



そっから、指定されるがままに学校近くの駅で待ち合わせをして今に至る。



ズレたメガネの隙間から、チラっと見た財前は相変わらずの綺麗な顔でやけに上機嫌だ。



並んで歩く僕らは、気づけば腕が触れそうなくらいの距離感になっている。



長身キラキライケメンと低身長常闇の住人の陰キャ眼鏡……
明らかに一緒にいる類の人種ではない。



僕は、出来るだけ不自然にならないくらいにゆっくりと、距離間を開けるため道路の端へと寄っていった。



「━━━━━っ!?」


思わず声を出しそうになる。



いつの間にか、足元にしゃがみこみこちらをじっと見上げる老人がいた。



だが

どう見ても生きている人間ではない━━



ぽっかりと開いた空洞のような老人の両眼は、どこまでも深い闇のように真っ暗でニヤニヤと笑うその口から何とも言えない腐臭が漂う。



あっ……ヤバい…………



いつもの様に見てはいけないモノへの配慮をすっかり怠っていた。


僕の体はビクッと反応して、硬直したまま動けなくなる。


ゾワゾワとした得体の知れないモノがせり上がってくる感覚。



ヤバい……



ヤバい……



拒む事の出来ない不快感が、ゆっくりと体を侵食しようとしてきていた。



この感覚はこの前と同じ━━




「かるまっち!!」


グイッと背後から肩を掴まれた。


「えっ……あっ…………」



気づけば僕の両肩は財前に抱きとめられている。


「行くよ」


僕の手を握りしめ財前は早足で歩き出す。


「周りは見ないでいいから、オレの方だけ見て」


手を引かれるまま、僕は財前の後ろ姿と繋がれた手を交互に見ていた。


だんだんと体が軽くなっていく。


アノ時の背中を叩かれた時と同じだ。



「あのさ……今の……何?」



理解が全く追いつかない。


頭の中の疑問を財前にそのままぶつけてみた。



「かるまっちがアイツらを視認した事で、繋がりが出来てかるまっちの体に入りこもうとするんだ」



僕との繋がり……?



そんな、今までだってああいう類を目にする事なんて何度もあった。



でも、取り憑かれそうになった事もまして取り憑かれた事だって無かった。



「今まで……見えてもあんな風にはならなかった……」


わけがわからない。


僕は握られていた手を振りほどいた。


昔から見える事はあっても、この前のバス停の時もそうだ、あんな風に何かをしてこようとされた事は無い。




「……最近、死に触れた事は?」



いつもより低いトーンで、じっと僕を見つめて財前は言った。



それはまるで全てを見通すようなそんな眼差しだ。



死━━




僕は素直に答えるべきか逡巡した、でもきっと誤魔化したりしたところで財前には見透かされてしまう。



そんな気がして、素直に答える。



「…………母親が死んだ……って言っても5つの時にオレを置いて男作って出ていった人だけど……この前、突然父親に葬式に出るよう言われた」



「ごめん……あんまり言いたくない話聞いて」



「いや……別に……あんま覚えてなかったし、遺影見てもなんか変な感じで……こんな人だったんだな~くらいの感想しかなかったし……悲しいとか辛いとか……そんな事も思わなかった」



「本来、人にとって『死』は素直に受け入れ難く遠いとこにあって欲しい存在だけど、それを実感する出来事があると……一気にその距離は縮まって…… 生きてる世界と死んでいる世界が繋がり、そしてその境はスゴく曖昧になる」



「曖昧?」



「大丈夫、オレがこうして側にいる時は安心してよ」



後ろを振り返り、さっきのがいた場所を確認するともうヤツの姿は無くなっていた。



ホッと胸を撫でおろす。


財前は手首をまた撫でていた。



何故だかその様子が気になった。



また朝から嫌なモノを見た。



教室に入ってまず、自分の席の隣に市毛さんの姿があるかを確認した。



僕の心配を他所に彼女は自席でスマホを操作している。



良かった━━



昨日、財前から断られ相当ショックを受けていた様に見えた。



「ぁ、おはよう……市毛さん」


「大和田くん……おはよう」



市毛さんはいつもの笑顔とは違う作り笑顔で挨拶を返してきた。


「おはよう、市毛まどかさん……あのさ、昨日の事だけど」


市毛さんは、はっとして財前を見た。



そして財前は突然僕の腕を引っ張ると、市毛さんの前に押し出す。



「オレより、もーっと凄い力を持ったこのかるまっちが助けてくれるって!」




「……っ!!!??」


財前の突然の僕へのフリに唖然として声が出ない。



「こう見えて、かるまっちの霊力はオレを凌ぐレベルなんだ……オレ一人じゃ無理だけど、オレより霊力の高いかるまっちなら大丈夫!」



「大和田くんが? ホントに?」



市毛さんが潤んだ瞳で僕を見た。



ちょっと……コレは……カナリヤバい……



間違いなくクラスで一番、いや日本国内レベルでダントツに可愛い市毛さんに、こんな風に見つめられたら……



否定する事なんて……無理だ。



だが、僕はいきなりのこの展開に小声で財前に耳打ちをした。


(おっ、おいっ、どういう事だよっ!? 僕に出来るワケないだろ!?)



(いいからいいから、大丈夫だって! ここはオレに任せてよ)



無責任なセリフしか財前からは出てこない。



「でも……大和田くん一人で大丈夫なの?」



市毛さん……こんな時に僕の心配までしてくれるなんてやっぱり優しい。


彼女は女神だ。


「大丈夫大丈夫! オレも助手として、かるま先生のサポートはバッチリするんで! 安心して」



「ねっ」と言って財前は僕にだけわかるように目配せをした。


「ありがとう、大和田くん! 頼りにしてるね」


ギュッと両手を握られた。


行った事はないがアイドルの握手会ってきっとこんな感じなのだろう。


「あっ、うん…………」



僕にこんな風に期待を寄せる彼女に、出来ないだとか無理だとか、そんな言葉は返せそうになかった。



こうして僕は、市毛さんを救うというミッションを課せられてしまったワケだ。



「お前……なんであんな嘘……」



昼休みになり僕は不本意な約束どおり財前と共に弁当を食べる為、校舎の裏庭にあるベンチに並んで座っていた。



僕は購買で買った惣菜パンを、財前はなんだか手の込んだ誰かのお手製弁当だ。



ついこの前まで、僕は教室の自分の席で一人同じ様なパンを食べていたのに、何故か今はクラスの中でも決して交わる事の無かったであろう、財前と校舎裏のベンチで肩を並べて昼食をとっている。



世の中、何が起こるかわからない。



「嘘……何が?」


財前は食べる手を止めて、僕の方を向いた。


「さっきのだよ、僕が霊能力がスゴいとか……」


「嘘は言ってないよ? かるまっちが見えるのは事実なんだし」



「そうかもしれないけど……助けるのはお前だろ? 僕は確かに見る事は出来ても……市毛さんを助ける事なんて出来ない」



「そうかな~?」



「そうだよ! 今までだって見えるモノをただ避けて逃げ惑っていただけで、立ち向かう事なんて一度もしていない、アレじゃあまるで僕が市毛さんを助けるみたいじゃないか? 」



ふーっと小さく息を吐いて、財前は僕の方へと体を向けた。



「……でも、そうじゃない? かるまっちがオレの願いを叶えたから市毛まどかさんは助かるんだもの、コレってかるまっちが助けた様なもんだよね」



「なんだよそれ……そんなのっ」



と、言いかけた僕の口の中へ財前の弁当箱にあった唐揚げが詰め込まれ、僕はそれをそのままもぐもぐと咀嚼してから飲み込んでしまう。



「美味しいでしょ?」


「うん……」


「へへっ、この唐揚げは自信作」


「……えっ!? まさかコレ、お前が作ったの?」


「当たり前じゃん、つか、コレ全部オレの手作り!」



そう言って見せて来たお弁当箱の中には、美味そうな卵焼きやら彩りを意識したほうれん草の胡麻和えだの、お昼に弁当の蓋を開けた瞬間から目にも美味しい完璧な弁当だった。



「オレ、料理得意なんだ~今度、かるまっちに弁当作ってあげるよ」



「えっ? 僕に? いや、いいよそんな手間かかりそうなの」



「一つも二つも弁当作る手間かわらないから、それにいつもそんなのばっかじゃ体に良くないよ?」



そう言って指を刺された糖質のかたまりの菓子パンと弁当を僕は見比べた。



「それにさ、好きな人に自分の作った弁当食べてもらうの夢だったんだよね」


「はぁ……」


好きな人……と言われて、やはり僕には財前の気持ちはよくわからない。


好きとはどういう意味の好きなのか……



僕が市毛さんに抱く好きという気持ちと、財前の言う好きは同じなのか?



それとも、全然別の意味なのか……



それに、一体こいつはいつから僕を好きだったというのだろう?



どうして?



僕のどこを良いと思ったのか……



疑問が溢れ出し、それはとめどなく頭の中に湧いてくる。



「あのさ、お前は僕の事好きって言うけど、それって……なんで? いつから? 僕と財前の接点なんて席が今学期隣になったくらいだろ?」


財前は考え込むような仕草をした。



「うーん……好きなのは結構前からだけど、好きになるのに理由なんている?」



「いるだろ普通……」




「じゃあ、オレは普通じゃないのかもね、かるまっちは難しく考え過ぎなんだよ、そんなの自分じゃわからない」



「じゃ、じゃあ! 勘違いかもしれないだろ? そんなの! 好きだって思い込んでただけでさ」



「勘違い……そうね、そうかもしれないね、でもさ……」



財前はグッと体を捻り、こちらの方へ身を寄せると僕の顔のすぐ側まで顔を近づけジッと見つめた。



コレは……
万が一後ろから押されたらキスしてしまう距離だ。



更に最悪な事に頼りの眼鏡が鼻の方へと下がってしまい、僕の視界は良くなってしまった。



至近距離で見る財前の顔は、思わず見とれてしまうほど綺麗で、更にふわりと良い香りまでしてくる。



「オレは良いよ……勘違いでも、だって……」



そう言って、財前は更に僕の方へと身を寄せてくる。




えっ?



コレは……本気でキスする?




いや、人は少ないけどココは学校だぞ?




どうしよう
どうしよう



心臓がヤバい。



いや、待て!


ないだろ? 普通に考えてないや。



財前は男だし、でも僕の事を好きだとか言ってて、今は曲がりなりにも付き合って……



あっ!



でもそういう事はしないって言って……



僕は財前の長い睫毛と左目の下にある小さなほくろを交互に見て、落ち着きを取り戻すのに必死になった。




そんな僕の焦りに気づいたのか気づいてないのか、そのまま財前はスっと僕から距離を取り、ベンチに座り直す。



「ごめん……やっぱなんでもない! そうだ、かるまっち放課後……予定空いてる?」



「えっ……? 予定?」



僕の放課後の予定なんて大概いつもガラ空きなのだが。


ただ、ココでそれを正直に言うと何かめんどくさい事を押し付けられる可能性が高くなる危険性がある。



いやいや、そんな事よりも僕はまださっきの心拍が正常に戻らず冷静な思考が取り戻せていない。



「ごめん、忙しい?」



そしてまた財前はいつもみたいな笑顔ではにかんだ。



「えっ……? あっ、いや……別に予定はないけど……」



まるで全てが無かった事のような財前とは対照的に、僕の心臓の早鐘は収まらなかった。



「良かった! じゃあ、また放課後」



財前はやけに嬉しそうな様子だ。



その後の事はあまり覚えていない、持っていた菓子パンが手元から無くなっているのでそれを胃袋に収めたのは確かだろう。




たわいもない会話を一つ二つしてから、教室に戻った。



放課後
付き合う


学校の外に行くというなら、もしかしたらさっきの続きを強いられる可能性だってある。



いや、でも、財前はそういう事はしないと約束していたし……



いやいや、もしかしたらまだコレが僕をからかってのドッキリ的な可能性だってあるんだ!



普通に放課後ネタバラしとか?




僕の頭の中を色んな思考がぐるぐる回っていた。



しかし……



答えはもちろん……何も出るワケはない。




そんな感じで午後の授業は全く頭に入って来ず、あっという間に放課後になってしまった。




「じゃ、行こうか?」



「あっ……? う、うん……」



行こうと促され、どこに? とも聞けず、僕は財前の後ろを着いていく。



━━━━でっ




着いて行った先は、学校近くの駅前にあるハンバーガーチェーン店だった。




「えっ……? 放課後……用事って……」



「えっ? ハンバーガー嫌いだった?」




「いやいやいやいや、そうじゃなくて……」




「ここのチーズバーガー、オレ一番好きなんだよね」



「あっ、うん……僕もそうだけどさ」




なんだかイッキに気が抜けた。



僕らはハンバーガーを買って向かい合わせに座り、それを頬張る。



コレはただの普通の高校生の放課後じゃないのか?




まあ、友達のいない僕には今まで無かった日常ではあるけれども……



…………いや、それに何か問題あるか?



僕は自分の思考がおかしな方向にいってた事に気づいた。




ともかくココは安堵しておくべきとこだ。



「かるまっちとこうしてハンバーガー食べれるの嬉しいな~」


「…………はぁ? いや、別にハンバーガーくらいいくらでも……っていうか、さっきだって一緒に弁当食ったろ?」




「さっきのはお昼! 今は放課後! 」



「はぁぁぁっ……」



クソデカため息が漏れ出てしまった。



「それにさ、どんなに誘おうとしても、いっつもかるまっち逃げちゃうじゃん?」




「逃げ……てなんて……」




逃げてるというより、避けていたのが正しいだろう。




財前のいる陽キャ集団に、僕は少なくとも今世では出来る限り関わり合いたく無かった。



「はい、図星~」



「…………はぁぁぁっ」



ため息ばかり出てしまう。




そんなやり取りをする僕らの隣に、カップルらしき制服姿の男女が座った。




俗に言う、制服デートというヤツだろう。




イートインスペースの隣合う席の間隔は狭く、会話が丸聞こえだ。



「はぁっ、お腹空いたね~」


「おっ、やったポテト揚げたてだ」


「えっ? いいな~……ちょーだーい」


「しょうがねーなー」


彼氏らしき人が彼女らしき子にポテトを餌付けする。



僕には一生縁の無さそうなその光景に圧倒されてしまい、僕の視線はトレーの広告に一点集中した。



「かるまっち」



名前を呼ばれ顔を上げると、満面の笑みを浮かべた財前は僕の口へポテトを差し込む。




「へへっ、1回やってみたかった」




照れたように笑う財前を見て、本当にホンッッットに一瞬だけだが、いや、多分気の所為かもだけど……



僕は、ちょっとだけ……可愛いと思ってしまった。




まあ、それも財前の このすこぶる高い顔面偏差値の影響もあるのだろうが。



その所為か口の中のポテトを咀嚼しながら、僕は心臓の脈拍がまた早くなるのを感じていた。



「お、お前……さっきから僕に餌付けばっかするよな」



「餌付け? あーっ……だってさ、美味しいモノは一緒に食べたいじゃん? それに……美味しいモノ食べると幸せ~ってならない?」


「幸せ……」



「かるまっちって、いつもどよんとしてて、幸せ~って感じから遠くなってるよ?」



「……うるさいな、いいんだよ」




「良くない! 好きな人が不幸せなんてオレは絶対反対」


「そんな事言ったって……」



幸せ━━
なんて、今さらどういう気持ちだったとか忘れてしまった、もう感じる事すら遠い昔過ぎる。



「だから! オレはこうしてかるまっちが幸せを少しでも感じるよう、美味しいモノを与えてるのです」




「はぁ……もう好きにしてくれ」


「うん! 好きにする」



なんだかコイツといると調子が狂ってくる。




半ば諦めに近い感情で、僕はこの普通の男子高生の日常的な時間を過ごした。



それは、存外嫌ではなく。



もっと言うなら安堵に満たされ、今まで何故コイツを避けていたのかわからない程に財前と一緒にいる時間に心地良さを覚えた。




「そうだ、明日の放課後も空いてる?」




食事を済ませ、トレーを片付けている最中に不意にまた財前は僕に聞いた。




「明日? なんだよまたハンバーガーか?」



「ううん、明日の放課後、市毛まどかさんから改めて話しを聞く事になったから……」



「市毛さんに?」


「うん、コレ……さっき彼女から渡されたんだ」



財前はポケットから取り出したピンク色の付箋を、僕に見せた。


そこには『明日、放課後 教室で』と書かれている。



「……だから一緒に来て欲しい」



コレは何かの予感なのだろうか。




僕の中にザワザワとしたモノが一気に押し寄せた。