ローコントラストの日常



朝の通学電車は苦手だ。


「ねぇねぇ、司~、今日帰りにカフェ行こ~新しいフラペチーノ飲みたい」


「ああ、そうね~」


隣にいるオレの彼女になりたい女の子は、今月に入ってこの子で何人目だったかな?



記憶を辿ってみるが思い出せない。


あまり、興味が無いからなんだろう。



「あっ! ナニこれ? きったな~い、ぬいぐるみ?」


「気にいってるからいいの~」


オレのカバンに付いている、小さな犬のマスコットを彼女は指で弄んだ。


本当は触れても欲しくない。


母さんからもらった大事な大事なモノ。


わかって欲しくもないし、わかってもらおうとも思わない。



「ねぇねぇ、ウチが新しいのプレゼントするから~おそろいにしない?」


「ん? ハハハ……」


どうでもいい。


オレの見た目だけで寄って来て、オレの中身を見ようともしない。


オレが大事にしてるモノもわからない。



わかろうともしない。



そんなの……



『次は~××××学園前~』



降車駅に着くと、人が波のように入口へ押し寄せる。


皆、我先にといった感じで周囲に気を使う者はいない。


「痛っ……!」



後ろから勢いよく体をぶつけられた。



人波の猛攻に押され、僕らは転がるように電車から降りる。



「ねぇ~っ、さっきオッサンに押されたんだけど~、ホントこの電車のラッシュってさ~」


彼女が通学電車の不平不満を訴える中、オレは定期を取り出そうと通学カバンへ目を向けた。





「━━っない!!」





そこで気づいた、さっきまでカバンに付いていたはずなのに……


「あれ~?アノ汚いの無くなっちゃった? じゃあさ、今日帰りにウチとおそろいの買おうよ~」


オレはそこで満面の笑みを彼女に向けた。


「ごめん! 急用出来た」


「えっ? どうしたの? 急用って……」


「先行ってて~」


笑顔で手を振りそこで別れた。


明日から彼女と学校へ行く事は無さそうだ。



改札から階段を昇り、ホームへと向かう。


必死にくまなく探したが見つからない。




諦めかけた時だった……





「あの! すいません、探してるのコレですか?」



そう言って、オレの目の前に酷く汚されたボロボロのマスコットが差し出された。



「……あっ、コレ……」


無言でオレが頷くと、拾い主はオレの手のひらへそっとそれを返した。



「良かった……それ、電車の中で見つけたんですけど、蹴られたりして色んな人の足元に行っちゃって、僕が拾えた時には汚れちゃって」




もしかして、この人コレを必死に拾おうとしてくれたのか?


っていうか、よく見たらウチの制服だ。



しかし、終始俯いたまま一切コチラの顔を見ようとしないので相手の顔は全くわからない。


んっ?


この人、確か……同じ学年の━━


クラスも別だし、絡んでるグループも違うから一言も今まで会話した事がなかった。



「あっ、じゃあ僕はコレで……」



軽く会釈だけして、彼は立ち去ろうとした。



「えっ……あっ、あの……」


「はい?」


「いや、ありがとうございました」


「大事なモノ見つかって良かったです」


そう言って一瞬だけコチラを見た彼に、この時オレは全てを奪われた。




「名前……聞いておけば良かった……」




久しぶりに他人に興味を持った。


こんな事、いつぶりだろう。


ずっと昔の初恋以来だろうか……


もしかしたら、ただの勘違いかもしれない。



少しだけ自分をわかってもらえて、好きとかそんな勘違いをしているのかもしれない。



でも、それでも別に構わない……



こんな気持ちになった事が、誰かにまた興味を持てた事が嬉しかった。



勘違いでも、それでもいい……





この日
きっと……運命の恋をした━━━━