撮影年月:1985年3月
媒体:U-matic(カラー/モノラル音声)
【00:00:00】
(映像開始。
やや色あせた画面。雪解け直後の農村。地面にはまだ湿った土と、ところどころに残る雪。
遠景に山並み。風の音のみ)
ナレーション:
「谷津地方の山あいに位置する、この集落では、春の彼岸にあわせて獅子舞が舞われます。
古くから伝わるこの獅子舞は、“彼岸獅子”と呼ばれ、集落の各家を巡り、舞を奉納します」
【00:01:12】
(カメラ、村の入口付近に固定。
道の向こうから、三匹の獅子舞がゆっくりと現れる)
ナレーション:
「獅子は三匹で一体となり、常に同じ間合いを保ちながら舞います」
(獅子の姿、アップ)
――黒々とした長い毛。
――毛は雨に濡れたように重く垂れ、ところどころ絡まっている。
――目は大きく、白目がちで、ぎょろりと見開かれている。
――口は大きく裂け、上下の歯がはっきりと見える。
(獅子の中から、人の足音が聞こえる。
三匹とも、ほぼ同じ歩幅)
【00:02:03】
(獅子の後ろに、三人の花笠姿の人物が続く。
赤と白の花笠。揃いの着物)
ナレーション:
「獅子を導くのは、三人の花笠。
舞の拍子を整え、家々との取り次ぎを行います」
(花笠の一人、小さく頭を下げる)
花笠・男性(小声):
「……行きます」
【00:03:15】
(最初の家の前。
木造の古い農家。玄関先に藁束)
(獅子、止まる)
――三匹が、ほぼ同時に首を下げる。
――わずかなズレもなく、動きが揃っている。
(太鼓の音はない。
聞こえるのは、獅子が地面を踏む音、衣装の擦れる音、風の音)
【00:04:02】
(獅子、舞い始める)
ナレーション:
「この獅子舞には、太鼓や笛は使われません。
静かな動きの中で、獅子はゆっくりと舞います」
(獅子の口が開閉する。
カク、カク、という乾いた音)
【00:05:10】
(家の中から、年配の女性が出てくる)
住民・女性:
「……今年も来てくれたんだな」
(女性、獅子に向かって深く頭を下げる)
【00:06:00】
(獅子、女性の前で舞う。
三匹が円を描くように回る)
――毛が揺れる。
――目が、カメラの方を向く。
(この時、一瞬、三匹すべての獅子の目が同時にこちらを向いているように見える)
【00:06:42】
(カメラマンの呼吸音がわずかに入る)
【00:07:30】
(舞、終わる)
花笠・男性:
「ありがとうございました」
(女性、何も言わず、黙って家に戻る)
【00:08:20】
(獅子、一斉に向きを変え、次の家へ)
ナレーション:
「獅子舞は、集落のすべての家を回ります。
例年、日が落ちるまで、この舞は続けられます」
【00:10:05】
(別の家。
子ども二人が、少し離れたところから見ている)
子どもA:
「目、大きい……」
子どもB:
「見るなって、ばあちゃん言ってた」
子どもA:
「なんで?」
子どもB:
「……わからない」
(子どもたち、目を伏せる)
【00:11:40】
(獅子、家の縁側近くまで寄る)
――獅子の口が、ゆっくりと大きく開く。
――中は暗く、奥が見えない。
(衣装の中から、かすかに息遣いのような音)
【00:12:15】
(獅子、突然、ぴたりと動きを止める)
ナレーション:
「……」
(数秒の沈黙)
【00:12:23】
(何事もなかったかのように、再び舞を続ける)
【00:14:50】
(移動中の映像。
獅子は、必ず三匹同時に歩き、止まる。
一匹だけ遅れることはない)
ナレーション:
「この獅子舞は、誰が中に入っているのか、外部の者には知らされません。
担い手は、代々、集落の中で選ばれるといいます」
【00:17:10】
(インタビュー映像。
農家の男性、60代)
住民・男性:
「中に誰が入っているか?
……それは、聞かないものだ。
昔から、そう決まっているから」
【00:18:30】
(再び獅子舞)
――獅子の毛に、土が絡みつく。
――それでも毛は黒く、濡れたような光を保っている。
【00:21:00】
(夕方。空が赤みを帯びる)
ナレーション:
「日が傾いても、獅子舞は淡々と続きます。
速くなることも、乱れることもありません」
【00:23:45】
(ある家の前)
住民・老婆(小声):
「……今年は、揃っているな」
(意味を問うナレーションは入らない)
【00:26:10】
(獅子、最後の家を終える)
――三匹、同時に深く頭を下げる。
――そして、来た道を戻り始める。
【00:27:30】
(村外れ。
獅子たちが霧の中へ入っていく)
ナレーション:
「獅子舞は、来た時と同じように、村を離れていきます」
【00:28:05】
(霧の中で、獅子の目だけが、一瞬こちらを向く)
【00:28:12】
(カメラ、わずかに揺れる)
【00:28:20】
(獅子、完全に見えなくなる)
【00:28:45】
(無人の道。風の音)
ナレーション:
「この集落では、獅子舞が終わった後、
その年の作柄や家の無事が占われるといいます」
【00:29:30】
(エンディング。
山の遠景。夕暮れ)
ナレーション:
「獅子は、災いを祓う存在であると同時に、
人と自然の境界に立つものなのかもしれません」
【00:30:00】
(映像終了)
媒体:U-matic(カラー/モノラル音声)
【00:00:00】
(映像開始。
やや色あせた画面。雪解け直後の農村。地面にはまだ湿った土と、ところどころに残る雪。
遠景に山並み。風の音のみ)
ナレーション:
「谷津地方の山あいに位置する、この集落では、春の彼岸にあわせて獅子舞が舞われます。
古くから伝わるこの獅子舞は、“彼岸獅子”と呼ばれ、集落の各家を巡り、舞を奉納します」
【00:01:12】
(カメラ、村の入口付近に固定。
道の向こうから、三匹の獅子舞がゆっくりと現れる)
ナレーション:
「獅子は三匹で一体となり、常に同じ間合いを保ちながら舞います」
(獅子の姿、アップ)
――黒々とした長い毛。
――毛は雨に濡れたように重く垂れ、ところどころ絡まっている。
――目は大きく、白目がちで、ぎょろりと見開かれている。
――口は大きく裂け、上下の歯がはっきりと見える。
(獅子の中から、人の足音が聞こえる。
三匹とも、ほぼ同じ歩幅)
【00:02:03】
(獅子の後ろに、三人の花笠姿の人物が続く。
赤と白の花笠。揃いの着物)
ナレーション:
「獅子を導くのは、三人の花笠。
舞の拍子を整え、家々との取り次ぎを行います」
(花笠の一人、小さく頭を下げる)
花笠・男性(小声):
「……行きます」
【00:03:15】
(最初の家の前。
木造の古い農家。玄関先に藁束)
(獅子、止まる)
――三匹が、ほぼ同時に首を下げる。
――わずかなズレもなく、動きが揃っている。
(太鼓の音はない。
聞こえるのは、獅子が地面を踏む音、衣装の擦れる音、風の音)
【00:04:02】
(獅子、舞い始める)
ナレーション:
「この獅子舞には、太鼓や笛は使われません。
静かな動きの中で、獅子はゆっくりと舞います」
(獅子の口が開閉する。
カク、カク、という乾いた音)
【00:05:10】
(家の中から、年配の女性が出てくる)
住民・女性:
「……今年も来てくれたんだな」
(女性、獅子に向かって深く頭を下げる)
【00:06:00】
(獅子、女性の前で舞う。
三匹が円を描くように回る)
――毛が揺れる。
――目が、カメラの方を向く。
(この時、一瞬、三匹すべての獅子の目が同時にこちらを向いているように見える)
【00:06:42】
(カメラマンの呼吸音がわずかに入る)
【00:07:30】
(舞、終わる)
花笠・男性:
「ありがとうございました」
(女性、何も言わず、黙って家に戻る)
【00:08:20】
(獅子、一斉に向きを変え、次の家へ)
ナレーション:
「獅子舞は、集落のすべての家を回ります。
例年、日が落ちるまで、この舞は続けられます」
【00:10:05】
(別の家。
子ども二人が、少し離れたところから見ている)
子どもA:
「目、大きい……」
子どもB:
「見るなって、ばあちゃん言ってた」
子どもA:
「なんで?」
子どもB:
「……わからない」
(子どもたち、目を伏せる)
【00:11:40】
(獅子、家の縁側近くまで寄る)
――獅子の口が、ゆっくりと大きく開く。
――中は暗く、奥が見えない。
(衣装の中から、かすかに息遣いのような音)
【00:12:15】
(獅子、突然、ぴたりと動きを止める)
ナレーション:
「……」
(数秒の沈黙)
【00:12:23】
(何事もなかったかのように、再び舞を続ける)
【00:14:50】
(移動中の映像。
獅子は、必ず三匹同時に歩き、止まる。
一匹だけ遅れることはない)
ナレーション:
「この獅子舞は、誰が中に入っているのか、外部の者には知らされません。
担い手は、代々、集落の中で選ばれるといいます」
【00:17:10】
(インタビュー映像。
農家の男性、60代)
住民・男性:
「中に誰が入っているか?
……それは、聞かないものだ。
昔から、そう決まっているから」
【00:18:30】
(再び獅子舞)
――獅子の毛に、土が絡みつく。
――それでも毛は黒く、濡れたような光を保っている。
【00:21:00】
(夕方。空が赤みを帯びる)
ナレーション:
「日が傾いても、獅子舞は淡々と続きます。
速くなることも、乱れることもありません」
【00:23:45】
(ある家の前)
住民・老婆(小声):
「……今年は、揃っているな」
(意味を問うナレーションは入らない)
【00:26:10】
(獅子、最後の家を終える)
――三匹、同時に深く頭を下げる。
――そして、来た道を戻り始める。
【00:27:30】
(村外れ。
獅子たちが霧の中へ入っていく)
ナレーション:
「獅子舞は、来た時と同じように、村を離れていきます」
【00:28:05】
(霧の中で、獅子の目だけが、一瞬こちらを向く)
【00:28:12】
(カメラ、わずかに揺れる)
【00:28:20】
(獅子、完全に見えなくなる)
【00:28:45】
(無人の道。風の音)
ナレーション:
「この集落では、獅子舞が終わった後、
その年の作柄や家の無事が占われるといいます」
【00:29:30】
(エンディング。
山の遠景。夕暮れ)
ナレーション:
「獅子は、災いを祓う存在であると同時に、
人と自然の境界に立つものなのかもしれません」
【00:30:00】
(映像終了)


