ー盆踊りの最中に消へた花笠娘、未だ足取り掴めず難航せりー
〔同年八月二十三日付 続報〕
●依然として手掛りなし
――怪しき足跡、川原に現はる――
失踪より一週間、捜索は連日続行されしが進展なし。ところが二十二日早暁、観音川の浅瀬にて、獣とも人ともつかぬ足跡が発見され、村内に新たなる動揺起こる。
発見者の漁師源蔵は、
「鶏より大きく、熊よりは細ぇ。指が五つあるやうで、爪の跡が深く食い込んで居た」
と語り、刑事も石膏にて型を取りしが、いまだ正体判明せず。
また当夜、踊に用ひし獅子頭の毛が一房失はれて居たことも判明。管理せし青年団は「誰も触れて居らぬ」と不審がる。
●医師の見解
若松病院の高橋医師は、
「群衆の中での一時的失神、あるひは記憶錯誤により姿を見失った可能性も考へらる。だが衣類も残さず消えた点は説明困難」
と慎重なる意見を述ぶ。
〔同年八月二十七日付 論説〕
●迷信に走るべからず
近頃、獅子の祟り、山の神の攫ひなどと口さがなき風聞広がり、夜の外出を恐るる者まで出でたるは遺憾なり。文明開化の今日、我らは理性の灯を失ふべからず。事件の真相は必ず人の世の理の内にあり。警察の活動を信じ、徒らに怪異を語ること慎むべし。
〔同年九月二日付〕
●捜査縮小へ
――盆踊中止論も――
失踪後半月、手掛り依然皆無にて、警察は捜査の規模縮小を決定。村会にては来年以降の盆踊を自粛すべきや否や議論紛糾せり。
長老嘉右衛門は、
「踊は先祖の霊を慰むる大事。止めればかへって祟りを招く」
と主張するも、若き世代は不安を訴ふ。
〔同年九月十日付 投書欄より〕
●「あの夜の笛の音」
(東山村 無名)
私は当夜、踊の外れに居た者です。
太鼓が早くなった折、笛の音が一度だけ低く濁り、まるで誰かが喉を詰まらせたやうに聞こえました。その直後、輪の内に黒き影が一つ立ち、獅子の口が大きく開いたやうに見えたのです。
人に話せば笑はれると思ひ黙って居りましたが、どうしても忘れられず筆を取りました。
〔同年九月二十五日付 特報〕
●新証言あらはる
――娘の声を聞いた者あり――
近在の湯治宿に泊まりし旅商人政吉が、失踪の夜、観音山の裏手にて女のすすり泣く声を聞きしと届け出でたり。
「笛に交じり、遠くから“おっかぁ”と呼ぶ声がした。獣かと思ひ急ぎ立ち去った」
警察は山中の再捜索を行ふも成果なし。
〔同年十月三日付〕
●遺留品か 花笠の一部発見
観音堂裏の杉林にて、赤き花飾の破片一つ見つかる。母ふみはこれを見て、
「確かに娘の笠のもの」
と断言。されど周辺に足跡なく、風に運ばれた可能性もあり、決め手とはならず。
〔同年十一月十五日付〕
●捜索打ち切り
若松署はつひに公式に捜索打ち切りを発表。おきぬの行方は依然闇の中なり。村では慰霊のため小さき地蔵を建立する計画進む。
〔同年十二月二十八日付 歳末雑感〕
●忘れられぬ影
今年最も世人の胸を騒がせたるは、東山の娘失踪なり。科学の世とはいへど、人の世にはなお説明し難き隙間あり。盆の夜の笛太鼓は来年も鳴るや否や。
記者は取材の折、誰も居らぬ観音堂に立ちし時、どこからともなく獅子の鈴の音を聞いたやうに覚ゆ。風の悪戯と思ひたけれど、振り返れば、雪雲の下に黒き影一つ、確かに揺れて居た――。

〔同年八月二十三日付 続報〕
●依然として手掛りなし
――怪しき足跡、川原に現はる――
失踪より一週間、捜索は連日続行されしが進展なし。ところが二十二日早暁、観音川の浅瀬にて、獣とも人ともつかぬ足跡が発見され、村内に新たなる動揺起こる。
発見者の漁師源蔵は、
「鶏より大きく、熊よりは細ぇ。指が五つあるやうで、爪の跡が深く食い込んで居た」
と語り、刑事も石膏にて型を取りしが、いまだ正体判明せず。
また当夜、踊に用ひし獅子頭の毛が一房失はれて居たことも判明。管理せし青年団は「誰も触れて居らぬ」と不審がる。
●医師の見解
若松病院の高橋医師は、
「群衆の中での一時的失神、あるひは記憶錯誤により姿を見失った可能性も考へらる。だが衣類も残さず消えた点は説明困難」
と慎重なる意見を述ぶ。
〔同年八月二十七日付 論説〕
●迷信に走るべからず
近頃、獅子の祟り、山の神の攫ひなどと口さがなき風聞広がり、夜の外出を恐るる者まで出でたるは遺憾なり。文明開化の今日、我らは理性の灯を失ふべからず。事件の真相は必ず人の世の理の内にあり。警察の活動を信じ、徒らに怪異を語ること慎むべし。
〔同年九月二日付〕
●捜査縮小へ
――盆踊中止論も――
失踪後半月、手掛り依然皆無にて、警察は捜査の規模縮小を決定。村会にては来年以降の盆踊を自粛すべきや否や議論紛糾せり。
長老嘉右衛門は、
「踊は先祖の霊を慰むる大事。止めればかへって祟りを招く」
と主張するも、若き世代は不安を訴ふ。
〔同年九月十日付 投書欄より〕
●「あの夜の笛の音」
(東山村 無名)
私は当夜、踊の外れに居た者です。
太鼓が早くなった折、笛の音が一度だけ低く濁り、まるで誰かが喉を詰まらせたやうに聞こえました。その直後、輪の内に黒き影が一つ立ち、獅子の口が大きく開いたやうに見えたのです。
人に話せば笑はれると思ひ黙って居りましたが、どうしても忘れられず筆を取りました。
〔同年九月二十五日付 特報〕
●新証言あらはる
――娘の声を聞いた者あり――
近在の湯治宿に泊まりし旅商人政吉が、失踪の夜、観音山の裏手にて女のすすり泣く声を聞きしと届け出でたり。
「笛に交じり、遠くから“おっかぁ”と呼ぶ声がした。獣かと思ひ急ぎ立ち去った」
警察は山中の再捜索を行ふも成果なし。
〔同年十月三日付〕
●遺留品か 花笠の一部発見
観音堂裏の杉林にて、赤き花飾の破片一つ見つかる。母ふみはこれを見て、
「確かに娘の笠のもの」
と断言。されど周辺に足跡なく、風に運ばれた可能性もあり、決め手とはならず。
〔同年十一月十五日付〕
●捜索打ち切り
若松署はつひに公式に捜索打ち切りを発表。おきぬの行方は依然闇の中なり。村では慰霊のため小さき地蔵を建立する計画進む。
〔同年十二月二十八日付 歳末雑感〕
●忘れられぬ影
今年最も世人の胸を騒がせたるは、東山の娘失踪なり。科学の世とはいへど、人の世にはなお説明し難き隙間あり。盆の夜の笛太鼓は来年も鳴るや否や。
記者は取材の折、誰も居らぬ観音堂に立ちし時、どこからともなく獅子の鈴の音を聞いたやうに覚ゆ。風の悪戯と思ひたけれど、振り返れば、雪雲の下に黒き影一つ、確かに揺れて居た――。



