【Vlog】家に届いた小包の中身を一緒に見ていただけませんか。

取材・文/編集部特別取材班

________________________________________
◆第一章 深夜、五人は消えた

平成8年12月某日未明。
北潟町の湾岸部に建設されたばかりの施設――北潟町冷凍冷蔵倉庫で、前代未聞の出来事が起きた。
夜間作業に従事していた従業員五名が、忽然と姿を消したのである。
当夜、倉庫では翌日の出荷調整のため、冷凍区画での仕分け作業が行われていた。当該区画では午後10時から翌午前3時までの予定で、総勢12名が勤務していたという。
午前1時半頃、冷凍第二区画で作業していた班と連絡が取れなくなった。無線に応答がない。冷凍庫の扉は内側から閉ざされ、外部モニターには人影が映っていなかった。
異変に気付いた責任者が内部を確認したとき、そこには積み上げられたコンテナと、床に転がる手袋、そして作業用無線機が残されていただけだった。
五人の姿はなかった。
冷凍庫は外部からの開閉履歴が記録される仕組みだが、当該時間帯に扉の開閉は確認されていない。
非常口も施錠されたままだった。
まるで、空気の中へ溶けるように。
________________________________________
◆第二章 「ここから出してくれ」

事件直後、警察は施設内外の徹底捜索を実施した。
床下、天井裏、ダクト内部、冷凍機械室、排水溝。
さらに周辺湖畔や山林まで範囲を広げたが、五人の痕跡は一切発見されなかった。
倉庫内部の冷凍区画は外気温とは隔絶された密閉空間である。氷点下20度近い温度で人が長時間生存することは困難だ。
しかし、不思議なことに。
失踪当夜、冷凍機は一部停止していたという証言がある。
関係者の一人は本誌の取材に対し、こう語った。
「あの日、なぜか一部の区画だけ温度が安定しなかった。冷蔵区画・通常温度帯の区画でも、異常な冷気が満ちていたんです」
さらに別の作業員は、失踪直前の異様な音を証言している。
「誰もいない冷凍庫の奥から、ドン、ドンって音がした。空気を震わせる、まるで太鼓を叩くような。冗談かと思ったけど、音は倉庫の内側からだった」
警察は機械的誤作動やいたずらの可能性を示唆したが、正式な説明はなされていない。
________________________________________
◆第三章 消える前の兆候

失踪した五人には、共通する異変があった。
同僚の証言を総合すると、彼らは事件の数週間前から体調不良を訴えていた。

幻聴・幻覚・妄想。
しきりに変な夢を見た、旅館や蔵通りの祭りの夢。そして不気味な獅子のような、化物に喰われる夢。
耳奥では、しきりに誰かが囁く声がしたという。

しかし医療機関での検査では異常なし。
作業中、ふいに動きを止め、虚空を見つめる姿が何度も目撃されている。
「呼びかけても反応が遅い。まるで誰かの話を聞いているみたいだった」

そのうちの一人、三十代男性は、家族にこんな夢の話をしていた。

荒れ果てた灰色の大地。
皮と骨だけになった老若男女が、地面を這い、呻き、のたうち回っている。
空はなく、光もない。
ただ冷たい風が吹き、凍り付いたような荒野が広がる。

その中心に、小さな湖が口を開けている。

「みんな、あそこに還るんだ。」
男性はそう呟いたという。

________________________________________
◆第四章 倉庫に棲むもの

北潟町冷凍冷蔵倉庫は、町の一大プロジェクトとして平成8年春に完成した。
広報誌には「予定通り完成」「町の未来を支える拠点」と華々しく掲載され、住民の期待も高かった。
だが、現場では以前から奇妙な現象が語られていた。

・ダクトの内部を何かが這うような音
・冷凍庫の奥から響く叩打音
・細い笛の音
・通路に立つ異常な背丈の着物姿をした人影
・耳元で囁く複数の声

複数の従業員が同様の証言をしている。
中でも多いのが「囁き」の証言だ。

音源は特定できない。
監視カメラにも異常は映らない。
しかし、耳元で息を感じたという者は少なくない。

________________________________________
◆第五章 神棚と読経

倉庫事務所の一角には、簡素な神棚が設けられている。
これは当初の設計にはなかった。
関係者によれば、開業後しばらくして設置されたものだという。
理由は「安全祈願のため」と説明されているが、内部事情を知る者は口を揃えて言う。
「夜間作業が怖かったからだ」
実際、夜間の冷凍作業時には、読経を録音したカセットテープが流されていた。
低く単調な読経が、巨大なコンクリート空間に反響する。
氷点下の白い空気の中で響く読経。
それでも異変は止まらなかった。

________________________________________
◆第六章 消えた五人の最後

失踪当夜、防犯カメラは奇妙な映像を残している。
午前1時27分。
冷凍第二区画の通路を、五人が並んで歩く姿。
しかし、映像は途中で激しく乱れ、数秒間のノイズの後、通路は空になっていた。
編集痕は確認されていない。
五人は、同じ方向を見つめて歩いていたという。
そこには何も映っていない。
________________________________________
◆第七章 町の沈黙

事件後、倉庫は一時的に稼働を停止した。
しかし、町の基幹施設であること、補助金事業であること、スポンサー企業の関与などが重なり、施設は数か月後に再開された。
公式見解は「集団失踪」。
事故でも事件でもない。
町は沈黙を選んだ。
広報誌には、失踪についての記述は一切ない。
________________________________________
◆第八章 いまも続く音

本誌取材班が夜間に倉庫周辺を訪れた際、内部からの微かな振動音、地面から吹き出す少量の湧き水が確認された。
関係者は「冷媒循環音」と説明する。だが、その音は一定ではなかった。
まるで、何かが内側から叩いているかのように。

ドン。
ドン。
ドン。

冷凍庫は、何かを保管する場所だ。
だが、もし。

あの建物が最初から――
「閉じ込める」ための器だったとしたら。

消えた五人は、どこへ行ったのか。

それは事故か。

事件か。

それとも――


凍りつくような沈黙だけが、北潟町の夜を包んでいる。

________________________________________
(了)