「──そんで、あいつなんて言ったと思う?」
「や、もったいぶってないで教えろよー」
教室の隅──正確には僕の隣りの席から笑い声が聞こえてきて、僕は無意識にそちらに視線を向けた。
そこには一軍男子、もとい陽キャたちが、何かしら楽しそうに談笑していた。
その中には木嶋くんの姿もあって、数日前の事があるから気まずくてたまらない。
そりゃあいきなり話し掛けられてびっくりしたけど、マフラーを褒められて嬉しかったのに。
でも気が動転していて、挨拶もそこそこに別れてしまったのが気掛かりで。
なんだか落ち着かなくて、ちらちらと隣りの席を見ていると、ふと木嶋くんと目が合った。
「っ!」
なぜか心臓が大きく高鳴って、木嶋くんの視線から逃げるようにがばりと窓の方を向く。
でももう休み時間も終わるから、グラウンドにはほとんど人がいない。
次の時間は体育なのか、そのクラスの人達が授業が始まるギリギリまでサッカーや、もう少し離れたところでバスケをしてるのが見えるくらい。
……こんなあからさまな態度、不自然だったかな。最初に見ていたのは僕だけど。
「──なぁ」
「っ、はい!」
すると背中に違和感を感じると同時に肩が竦んで、話し掛けられた事で反射的に声を上げる。
お、思ってるよりも声が裏返った気がする。
でもそんなことない、って自分に思い込ませて、恐る恐る振り返った。
すると木嶋くんが切れ長な目を丸くしていて、なんならクラスの視線が一斉に僕に集中してる気がした。
「あ、っ……」
じわりと頬が熱くなっていくのが嫌でも分かる。ああ、今すぐにここからいなくなりたい。
「なんかアイデア欲しいんだけど。一緒考えてくれる?」
でも木嶋くんはなんとも思ってないみたいで、軽く頭を搔きつつ紙を見せてくる。
「……第七回、野外ライブ?」
上の方に薄く大きく書かれた文字を、口の中で小さく復唱する。
第七回、の後に英語? が書いてあるけどなんて読むんだろう。
あ、よく見たらフリガナが振ってある。
Fleuve de nuit──フルーヴ・ドゥ・ニュイ。
他にも薄く文字で何かが書いてあるけど、しっかり読めたのはどこかで野外ライブがある、って事だけ。
それ以外はほとんど白紙も同然だ。
「そ。月末の土曜、そこでライブすんだよね。そのラフ画がどーーーーにもあいつらじゃセンスなくてさぁ」
「おいこら、聞こえてんぞー」
はぁ、と木嶋くんが溜め息を吐くのに合わせて、隣りに座ってる男子がすかさず口を挟む。
すると一人を皮切りに、思い思いの声が次々と上がった。
「けど実際、どういうのがいいか分かんねぇよな」
「こういうの、あんま分かんねぇし適当……は駄目、ですよねぇ」
「いや俺に聞くなよ。美術も、なんなら国語も二とかだぞ」
「……と、まぁあんな感じ。つか全員字も絵ヘッタクソなの、笑えるよな」
くすくすと木嶋くんは笑ってるけど、僕はどんな反応をするのが正解なんだろう。
「あ、はは……」
なのに周りの人や木嶋くんにつられるように、乾いた笑いが口から漏れる。
こうして笑ってるだけじゃなくて何か言わないと、会話をしないと、って焦りや不安でいっぱいになる。
僕は無意識に身体を固くして、でも視線は軽く膝に向けたままだ。
だっていきなりこんな事言われて、すぐに『分かった』って言う方がおかしいと思うし。
でも何よりも、木嶋くんが僕に声を掛けてくれた理由が知りたい。
数日前の放課後の事を気にしてるから、って理由なら気を遣わなくても大丈夫なんだけど。
「……い、いいの? ぼく──」
「いいに決まってんじゃん」
やっとの思いで口を開いて『僕でもいいの?』って最後まで言う前に、木嶋くんがあっけらかんと言った。
いや、そんな『当たり前だろ』って顔で見られても。……あと気のせいじゃなかったら、木嶋くんと話してる人たちも僕のことをじっと見てる気がする。
膝の上に置いている両手を、木嶋くんに気付かれないようにそっと握る。
ほとんど話さないから、みんなから『なんだコイツ』って思われてるかもしれない。
そもそも木嶋くんは優しくて、教室の隅っこに居る僕なんかにも普通に話し掛けてくれる。
嬉しいけど申し訳ない、一人にして欲しい、でもやっぱり嬉しいって気持ちはあって。
そうやって色々考えていると段々胃がむかむかしてきて、今すぐトイレの個室に逃げ込みたかった。
でも、まだ木嶋くんが僕の近くに居るから立ち上がれない。
何よりも僕の顔をまっすぐ見て話すから、思ったことがすぐに出てこないっていうのもある。
きらきら輝く瞳から逆に逃げるように、僕は今度こそ目を伏せた。
「……ちょっと、考えてみる……ね」
今の僕にはぼそぼそと口の中で呟くのが精一杯で、でも頼られたって思ったら嬉しくて、不思議とやる気が湧いてくる。
ライブって行ったことないけど、アーティストの人たちがどういう系のチラシを出してるのか調べてみようかな。
……でもどうして僕なんだろう。絵が上手い人は他にも居るし、木嶋くんならたくさん友達が居るから、その人でもいいと思うのに。
ちくりと胸が痛んで、そこから痛みが全身に広がっていく。
「ホント!? ……やりぃ、楽しみにしてる!」
「っ……!」
じわじわと劣等感に呑み込まれそうになっていると、ぎゅうと強い力で膝に置いていた手を握られた。
あまりにもいきなり過ぎて、反射的に木嶋くんに視線を向ける。
真正面から、それも間近で見た木嶋くんは太陽みたいに眩しくて、手も握られているからどう反応していいのか分からない。
でもさっきまで感じていた胃のむかつきや、自分に対する劣等感が不思議と消えていくのを感じた。
「あ、でも土曜までにデータ出さないとなんだよな。まぁいきなりだし、無理しなくてもいいから」
にこ、と木嶋くんが困ったように笑う。
柔らかく口角を上げると右端に小さなえくぼが現れて、小さな子どもみたいで少しだけ可愛いと思った。
「や、もったいぶってないで教えろよー」
教室の隅──正確には僕の隣りの席から笑い声が聞こえてきて、僕は無意識にそちらに視線を向けた。
そこには一軍男子、もとい陽キャたちが、何かしら楽しそうに談笑していた。
その中には木嶋くんの姿もあって、数日前の事があるから気まずくてたまらない。
そりゃあいきなり話し掛けられてびっくりしたけど、マフラーを褒められて嬉しかったのに。
でも気が動転していて、挨拶もそこそこに別れてしまったのが気掛かりで。
なんだか落ち着かなくて、ちらちらと隣りの席を見ていると、ふと木嶋くんと目が合った。
「っ!」
なぜか心臓が大きく高鳴って、木嶋くんの視線から逃げるようにがばりと窓の方を向く。
でももう休み時間も終わるから、グラウンドにはほとんど人がいない。
次の時間は体育なのか、そのクラスの人達が授業が始まるギリギリまでサッカーや、もう少し離れたところでバスケをしてるのが見えるくらい。
……こんなあからさまな態度、不自然だったかな。最初に見ていたのは僕だけど。
「──なぁ」
「っ、はい!」
すると背中に違和感を感じると同時に肩が竦んで、話し掛けられた事で反射的に声を上げる。
お、思ってるよりも声が裏返った気がする。
でもそんなことない、って自分に思い込ませて、恐る恐る振り返った。
すると木嶋くんが切れ長な目を丸くしていて、なんならクラスの視線が一斉に僕に集中してる気がした。
「あ、っ……」
じわりと頬が熱くなっていくのが嫌でも分かる。ああ、今すぐにここからいなくなりたい。
「なんかアイデア欲しいんだけど。一緒考えてくれる?」
でも木嶋くんはなんとも思ってないみたいで、軽く頭を搔きつつ紙を見せてくる。
「……第七回、野外ライブ?」
上の方に薄く大きく書かれた文字を、口の中で小さく復唱する。
第七回、の後に英語? が書いてあるけどなんて読むんだろう。
あ、よく見たらフリガナが振ってある。
Fleuve de nuit──フルーヴ・ドゥ・ニュイ。
他にも薄く文字で何かが書いてあるけど、しっかり読めたのはどこかで野外ライブがある、って事だけ。
それ以外はほとんど白紙も同然だ。
「そ。月末の土曜、そこでライブすんだよね。そのラフ画がどーーーーにもあいつらじゃセンスなくてさぁ」
「おいこら、聞こえてんぞー」
はぁ、と木嶋くんが溜め息を吐くのに合わせて、隣りに座ってる男子がすかさず口を挟む。
すると一人を皮切りに、思い思いの声が次々と上がった。
「けど実際、どういうのがいいか分かんねぇよな」
「こういうの、あんま分かんねぇし適当……は駄目、ですよねぇ」
「いや俺に聞くなよ。美術も、なんなら国語も二とかだぞ」
「……と、まぁあんな感じ。つか全員字も絵ヘッタクソなの、笑えるよな」
くすくすと木嶋くんは笑ってるけど、僕はどんな反応をするのが正解なんだろう。
「あ、はは……」
なのに周りの人や木嶋くんにつられるように、乾いた笑いが口から漏れる。
こうして笑ってるだけじゃなくて何か言わないと、会話をしないと、って焦りや不安でいっぱいになる。
僕は無意識に身体を固くして、でも視線は軽く膝に向けたままだ。
だっていきなりこんな事言われて、すぐに『分かった』って言う方がおかしいと思うし。
でも何よりも、木嶋くんが僕に声を掛けてくれた理由が知りたい。
数日前の放課後の事を気にしてるから、って理由なら気を遣わなくても大丈夫なんだけど。
「……い、いいの? ぼく──」
「いいに決まってんじゃん」
やっとの思いで口を開いて『僕でもいいの?』って最後まで言う前に、木嶋くんがあっけらかんと言った。
いや、そんな『当たり前だろ』って顔で見られても。……あと気のせいじゃなかったら、木嶋くんと話してる人たちも僕のことをじっと見てる気がする。
膝の上に置いている両手を、木嶋くんに気付かれないようにそっと握る。
ほとんど話さないから、みんなから『なんだコイツ』って思われてるかもしれない。
そもそも木嶋くんは優しくて、教室の隅っこに居る僕なんかにも普通に話し掛けてくれる。
嬉しいけど申し訳ない、一人にして欲しい、でもやっぱり嬉しいって気持ちはあって。
そうやって色々考えていると段々胃がむかむかしてきて、今すぐトイレの個室に逃げ込みたかった。
でも、まだ木嶋くんが僕の近くに居るから立ち上がれない。
何よりも僕の顔をまっすぐ見て話すから、思ったことがすぐに出てこないっていうのもある。
きらきら輝く瞳から逆に逃げるように、僕は今度こそ目を伏せた。
「……ちょっと、考えてみる……ね」
今の僕にはぼそぼそと口の中で呟くのが精一杯で、でも頼られたって思ったら嬉しくて、不思議とやる気が湧いてくる。
ライブって行ったことないけど、アーティストの人たちがどういう系のチラシを出してるのか調べてみようかな。
……でもどうして僕なんだろう。絵が上手い人は他にも居るし、木嶋くんならたくさん友達が居るから、その人でもいいと思うのに。
ちくりと胸が痛んで、そこから痛みが全身に広がっていく。
「ホント!? ……やりぃ、楽しみにしてる!」
「っ……!」
じわじわと劣等感に呑み込まれそうになっていると、ぎゅうと強い力で膝に置いていた手を握られた。
あまりにもいきなり過ぎて、反射的に木嶋くんに視線を向ける。
真正面から、それも間近で見た木嶋くんは太陽みたいに眩しくて、手も握られているからどう反応していいのか分からない。
でもさっきまで感じていた胃のむかつきや、自分に対する劣等感が不思議と消えていくのを感じた。
「あ、でも土曜までにデータ出さないとなんだよな。まぁいきなりだし、無理しなくてもいいから」
にこ、と木嶋くんが困ったように笑う。
柔らかく口角を上げると右端に小さなえくぼが現れて、小さな子どもみたいで少しだけ可愛いと思った。

