左足の痛みで再び病院へ行った時、先生にレギュラー選出試合期間だけでも、頑張りたいと頼み込んだ。痛みが出た時の対処方と、テーピングを教わった。『あくまでも、対処方たがら絶対無理はしないように』と念押しされてしまったが。
「よし!」俺は、左足のテーピングをやり直し個室のトイレから出た。
後ろから視線を感じて、振り返ったが誰もいない。入り口にもいなかった。
ここ最近、誰かに見られてるような気がするんだけど……ここトイレ……まさか……
ゾッとして、慌ててトイレから出た。突然、後ろから肩を掴まれた。
「ひゃあああああ!!」
「うわああああ!!」
俺の肩を掴んだ相手も、びっくりした声を上げた。
「なんだよ……新田かよ! びっくりさせんな!」
「それは、こっちのセリフだつーの! 早く行こうぜ」木村は、まだ心臓バクバクいってるしと俺を睨んだ。
「急に肩掴んでくる方が悪い!」
さっきの……霊的なとかじゃないよな……いやいや! 気のせい! 気のせい!
*
部活が終わり、昇降口で下駄箱を開けた。中に小さな花束が入っていて、驚いた俺は下駄箱を閉めた。
「どうしたん?」と木村が寄ってきた。
「……もしかしてまた?」と新田も寄ってきた。俺は、頷き下駄箱を開けた。中の花束を見て「あのさ、花束のラブレターって聞いたことある?」新田は、真顔で言う。「確かに聞いたことねぇな」と木村は、考える仕草をする。
「これって……嫌がらせ?」二人は、俺の顔を不安気に見る。
花束といっても、普通紙に包まれた小さな花束だ。ここ数日、下駄箱にメッセージもなく、花束だけが入れられていた。
「嫌がらせだったら、こんな丁寧に包んでなくない?」俺は、花束に付いているリボンを見せた。
「そうだな……あっ川崎のファンとか?」木村が真顔で言う。「ああ!」と新田が手を叩いた。二人は、ニヤニヤし俺を揶揄い始めた。
「そんな訳ねぇだろ!」俺は、下駄箱に上履きを突っ込んだ。
「恋斗〜〜顔赤くなってんじゃん」新田は、わざと顔を覗き込んでくる。
「なってません!」
もしかして、河東ファンの仕業とか? 一緒に登校してたから? 俺……◯される!?(恐怖)
*
今日でレギュラー選出試合期間が終了だ。左足の痛みは、テーピングでやり過ごしていたが、激しく動くと痛みが出るようになった。痛み止めを飲んで誤魔化していたが、試合中左足を庇ってニアミスばかりしてしまう。
クソっ!
試合続行のホイッスルが鳴る。俺は、素早くディフェンスをすり抜け、いいポジションでチームのパスを受け取った。相手チームに一点差で負けていて、試合時間が迫っている。俺は、受け取ったボールをゴールへ投げた。
……痛っ!…… しまった! 入らない!
ゴールのリングに跳ね返りボールが床に落ちていく。試合終了のホイッスルが鳴る。
「……っ!」
「川崎!大丈夫か!」真っ先に飛んできたのは新田だった。
「……足見せてみろ」顧問の柴田先生が、ジャージの裾を捲り険しい顔をした。
「新田、川崎を保健室に連れてって処置してもらってくれないか」
「はい」新田は、俺に肩を貸して立ち上がった。
「ん……乗れよ」新田は、背を向けてしゃがんだ。俺は、頷いて新田におんぶされ保健室へ向かった。
*
保健室に向かう廊下。もうすっかり日が暮れて、暗くなっていた。
「新田……ごめんな」
「いいって。失礼します」保健室のドアを開けた。
「どうした?」白衣姿の高見先生は、こちらを振り返った。
「川崎が足を痛めて」
「こっち座って」高見先生は、ベッドに座るよう促した。俺の足を見て「腫れてるな……随分前から痛むんじゃないか?」
「・・・」俺は、俯いて頷いた。
「応急処置だから、必ず病院には行きなさい」高見先生は、手早く冷却湿布を貼り包帯を巻いた。
「先生、俺、川崎の鞄取ってくる。川崎ちょっと待ってろ」新田は、保健室から出て行った。
「いい友達じゃないか」高見先生は、俺に微笑んだ。
「……だから、一緒にバスケしたかった。俺、医者から激しい運動はダメだって言われたんだ」
だから、レギュラーに選ばれなくても後悔はない……
「そっか」高見先生は、笑って俺の肩をポンと叩いた。
トントンとドアを叩く音の後、保健室の扉が開いた。
「お待たせ。川崎、鞄持ってきた。このまま帰っていいって」
「……新田、ありがとう」俺は、立ち上がり新田から鞄を受け取った。
「歩いて平気か?」
「うん、大丈夫」
「先生、ありがとうございました」
「はい、お大事に」
俺は、昇降口まで一緒行くという新田を大丈夫だからと説得し新田は、渋々体育館へ戻っていった。
昇降口へ向かった俺は、見覚えのある後ろ姿に思わず声を掛けた。
「石黒くん……?」
呼ばれて驚いたのか、慌てて持っていたものを後ろに隠した。
「ん? 石黒くんも部活?」
「・・・」石黒は、俯いて首を横に振った。
「あ、委員会か」と聞くと石黒が頷いた。
「あ……これ!」石黒は、持っていたものを俺に差した。
普通紙に包まれた花束……
「もしかして……あれ石黒くんだった?」
石黒は、俺に花束を渡すと逃げるように走り去ってしまった。
え? 石黒が? なんで?

