四限目で授業が終わり、俺は一旦、学園の外へ出る。
土曜と日曜の昼食は、学園からも寮からも提供がないため、外で購入するか、食べてくる必要があった。
青海波学園の生徒御用達のパン屋で、サンドイッチとホットドッグを購入し、早々に寮へ戻る。
食堂では、俺と同じようにパンやおにぎりなどを外で購入してきた生徒たちが、昼食を広げていた。
少ない人数だったが、まずは彼らに声をかける。
「えー、ちょっといいですか」
視線が集まった。
「ここに夜会の事前準備委員会のスタッフ募集詳細を貼ります。興味があったら、是非一緒にやりましょう。仕事はあくまで事前準備と片付け。夜会本番はプロの方が動いてくれるので、当日は充分楽しむことができます。あと、この掲示のことを、皆に広めてもらえるとありがたい」
仕事の各種内容と募集人数を書いた下には『興味のある一年生および二年生の生徒は、月曜日夕食後、食堂に集まってください。質問がある人は寮長・成川まで』と記載してある。
これで簡単に人が集まるとは、正直思っていない。
足りない人員は、一人一人に声をかけ勧誘するしかないだろう。
しかし予想に反し、掲示しているそばから「やりたい、やりたい」「僕も経験したい」「やってみてもいいかも」「もちろん俺も手伝ってやるぜ」と声があがる。
「ハヤセ先輩の下でスタッフできたら、いい勉強になりそう」
そんな冗談を口にする一年生までいた。
「俺、君たちの顔、よーく覚えておくよ。月曜日、食堂で待ってるからな」
ふざけて彼らの顔を一人一人指させば、コクコクと頷いてくれた。
この反応、少しは期待していいのだろうか?
—
約束の夕方。
張り切っているようで恥ずかしいが、十五分前には、ユウヒと待ち合わせをした郵便局前に到着してしまった。
彼がどの方向から現れるのかも読めず、俺はスマホをいじりながら現れるのを待つ。
「あの、すみません」
突然、知らない女子高生三人組が、話しかけてきた。
しまった……。
制服ではなく私服を着てくるべきだったと、今更気がつく。
この紺色の千鳥格子柄ズボンは、街中で意外と目立つのだ。
「青海波学園の方ですよね?」
「寮生ですか?」
「夜会の招待状を渡す相手って、もう決まってますか?」
「いや、俺は……」
三人は俺に、カラフルな名刺サイズの紙を無理やり渡してくる。
どうやら名前や学校、SNSのアカウントIDが記載されているようだ。
「よろしくお願いします」
「期待してます」
「DM待ってまーす」
ペコリと頭を下げて彼女たちは、立ち去っていった。
夜会は例年、招待される側の女子も必死なのだ。
もちろん招待する側の寮生にも、より素敵な子を招待したいという目論見がある。
『あの美人、誰が招待したんだ?』
そんな風に噂されたいらしい。
夜会をきっかけに付き合うことになった、というのはよくある話。
他人が招待した子と、付き合うことになるという話もよく聞く。
伝統的に、男女の出会いの場として夜会は機能している。
はぁー。
それにしても、ため息がでる。
俺は今のところ、恋や愛に興味はなく、女子高生と付き合いたいとは少しも思わない……。
そもそも、異性に魅力を感じたことがないのだ。
だから昨年は、どうしても二人招待したい子がいるという同室の奴に、招待状を譲った。
今年はどうしようか。
それも頭を悩ませている事柄の一つだった。
「ハヤセ、おっまたせ!」
ユウヒの声が背後から聞こえる。
気が付けば約束の十六時になっていた。
俺はなぜか慌ててしまい、彼女たちの名刺をズボンのポケットに捩じ込む。
振り返れば、髪をセットしオデコを見せたONのユウヒがいた。
彼は制服姿ではなく、動きやすそうなダボっとしたスウェットパンツに、オーバーサイズのTシャツを着ている。
そんな服装は、彼に良く似合っていた。
表情だって、生き生きとして輝いている。
この姿を見たら誰もが彼のことを「美しくて可愛らしい男」と評するだろう。
うん、間違いない。
「レッスン室、こっちだからさ」
「あぁ、うん」
彼に案内されるままに、その背中について行くが、俺は必死に本来の目的を思い起こす。
これから俺はこの男に「二度と部屋に忍び込んでくるな。そもそも寮に忍び込んでくるな」とキッパリと伝える必要がある。
「今後訪ねてくることがあっても部屋には入れない」と拒絶をする姿勢をしっかりとるのだ。
つまり、自宅生および帰宅部のユウヒと会話をするのは、おそらくこれが最後……。
彼がレッスン室と呼んでいる場所は、郵便局からすぐ近くのビルの地下にあった。
受付には年配の女性が座っており、ユウヒはそのおばさんに「ただいま」と告げる。
「ユウヒくん、おかえりなさい。見学のお友達に、ここに名前と今の時刻を書いてもらって」
俺が言われるままに記入している間、二人は親し気に話をしていた。
「ユウヒくんが、お友達連れてくるの初めてね」
「そう!僕、学園では友達なんていらないって思ってたけど、ハヤセは初めてできた友達だから。すごくやさしくて、頼れる奴なんだ」
「いいわね。応援してくれる人がいると、より頑張れるわよ」
「うん。僕もそう思う」
「ふふふ。よかったわ」
彼が俺のことをそのように紹介したことに驚き、戸惑いつつも頬が熱くなる。
「……あ、書けました」
「はい。では、荷物はここで預かります。靴も脱いでそこのスリッパに履き替えてもらえる?」
「ハヤセ、僕、次のレッスン始まるから先行くね。第三スタジオにいるから」
ユウヒは、軽い身のこなしで、跳ねるように廊下の先へと消えていった。
土曜と日曜の昼食は、学園からも寮からも提供がないため、外で購入するか、食べてくる必要があった。
青海波学園の生徒御用達のパン屋で、サンドイッチとホットドッグを購入し、早々に寮へ戻る。
食堂では、俺と同じようにパンやおにぎりなどを外で購入してきた生徒たちが、昼食を広げていた。
少ない人数だったが、まずは彼らに声をかける。
「えー、ちょっといいですか」
視線が集まった。
「ここに夜会の事前準備委員会のスタッフ募集詳細を貼ります。興味があったら、是非一緒にやりましょう。仕事はあくまで事前準備と片付け。夜会本番はプロの方が動いてくれるので、当日は充分楽しむことができます。あと、この掲示のことを、皆に広めてもらえるとありがたい」
仕事の各種内容と募集人数を書いた下には『興味のある一年生および二年生の生徒は、月曜日夕食後、食堂に集まってください。質問がある人は寮長・成川まで』と記載してある。
これで簡単に人が集まるとは、正直思っていない。
足りない人員は、一人一人に声をかけ勧誘するしかないだろう。
しかし予想に反し、掲示しているそばから「やりたい、やりたい」「僕も経験したい」「やってみてもいいかも」「もちろん俺も手伝ってやるぜ」と声があがる。
「ハヤセ先輩の下でスタッフできたら、いい勉強になりそう」
そんな冗談を口にする一年生までいた。
「俺、君たちの顔、よーく覚えておくよ。月曜日、食堂で待ってるからな」
ふざけて彼らの顔を一人一人指させば、コクコクと頷いてくれた。
この反応、少しは期待していいのだろうか?
—
約束の夕方。
張り切っているようで恥ずかしいが、十五分前には、ユウヒと待ち合わせをした郵便局前に到着してしまった。
彼がどの方向から現れるのかも読めず、俺はスマホをいじりながら現れるのを待つ。
「あの、すみません」
突然、知らない女子高生三人組が、話しかけてきた。
しまった……。
制服ではなく私服を着てくるべきだったと、今更気がつく。
この紺色の千鳥格子柄ズボンは、街中で意外と目立つのだ。
「青海波学園の方ですよね?」
「寮生ですか?」
「夜会の招待状を渡す相手って、もう決まってますか?」
「いや、俺は……」
三人は俺に、カラフルな名刺サイズの紙を無理やり渡してくる。
どうやら名前や学校、SNSのアカウントIDが記載されているようだ。
「よろしくお願いします」
「期待してます」
「DM待ってまーす」
ペコリと頭を下げて彼女たちは、立ち去っていった。
夜会は例年、招待される側の女子も必死なのだ。
もちろん招待する側の寮生にも、より素敵な子を招待したいという目論見がある。
『あの美人、誰が招待したんだ?』
そんな風に噂されたいらしい。
夜会をきっかけに付き合うことになった、というのはよくある話。
他人が招待した子と、付き合うことになるという話もよく聞く。
伝統的に、男女の出会いの場として夜会は機能している。
はぁー。
それにしても、ため息がでる。
俺は今のところ、恋や愛に興味はなく、女子高生と付き合いたいとは少しも思わない……。
そもそも、異性に魅力を感じたことがないのだ。
だから昨年は、どうしても二人招待したい子がいるという同室の奴に、招待状を譲った。
今年はどうしようか。
それも頭を悩ませている事柄の一つだった。
「ハヤセ、おっまたせ!」
ユウヒの声が背後から聞こえる。
気が付けば約束の十六時になっていた。
俺はなぜか慌ててしまい、彼女たちの名刺をズボンのポケットに捩じ込む。
振り返れば、髪をセットしオデコを見せたONのユウヒがいた。
彼は制服姿ではなく、動きやすそうなダボっとしたスウェットパンツに、オーバーサイズのTシャツを着ている。
そんな服装は、彼に良く似合っていた。
表情だって、生き生きとして輝いている。
この姿を見たら誰もが彼のことを「美しくて可愛らしい男」と評するだろう。
うん、間違いない。
「レッスン室、こっちだからさ」
「あぁ、うん」
彼に案内されるままに、その背中について行くが、俺は必死に本来の目的を思い起こす。
これから俺はこの男に「二度と部屋に忍び込んでくるな。そもそも寮に忍び込んでくるな」とキッパリと伝える必要がある。
「今後訪ねてくることがあっても部屋には入れない」と拒絶をする姿勢をしっかりとるのだ。
つまり、自宅生および帰宅部のユウヒと会話をするのは、おそらくこれが最後……。
彼がレッスン室と呼んでいる場所は、郵便局からすぐ近くのビルの地下にあった。
受付には年配の女性が座っており、ユウヒはそのおばさんに「ただいま」と告げる。
「ユウヒくん、おかえりなさい。見学のお友達に、ここに名前と今の時刻を書いてもらって」
俺が言われるままに記入している間、二人は親し気に話をしていた。
「ユウヒくんが、お友達連れてくるの初めてね」
「そう!僕、学園では友達なんていらないって思ってたけど、ハヤセは初めてできた友達だから。すごくやさしくて、頼れる奴なんだ」
「いいわね。応援してくれる人がいると、より頑張れるわよ」
「うん。僕もそう思う」
「ふふふ。よかったわ」
彼が俺のことをそのように紹介したことに驚き、戸惑いつつも頬が熱くなる。
「……あ、書けました」
「はい。では、荷物はここで預かります。靴も脱いでそこのスリッパに履き替えてもらえる?」
「ハヤセ、僕、次のレッスン始まるから先行くね。第三スタジオにいるから」
ユウヒは、軽い身のこなしで、跳ねるように廊下の先へと消えていった。



