学食は日替わりで、AランチかBランチを選択できるが、出遅れたためAランチのコロッケは完売だった。
Bランチは肉野菜炒めで、俺としては問題なかったが、ユウヒは不満があるようだ。
「オマエのせいでコロッケ食べ損ねたー」
唇を尖らせながらBランチのトレイを持ち、中央のテーブルに座ろうとするから、腕を引っ張って、端っこの二人席へ連行する。
「いただきます。あっ、肉野菜炒めも美味っ」
よくこんなにもマイペースで居られるものだと、感心してきた。
ユウヒの向かい側に座った俺も「いただきます」と手を合わせる。
「で、オマエさ、どこで拾ってくれたの?僕のイヤホン。やっぱり備蓄庫に落ちてた?」
「オマエじゃない。俺はC組の成川ハヤセだ。檜垣寮の寮長でもある。イヤホンは備蓄庫に落ちてた。床に敷いていた段ボールは処分しておいたから」
「えっ、酷い。次からどうすればいいんだよ。またコンビニでもらってこなくちゃいけなくなっただろ」
「いいか、備蓄庫は立ち入り禁止だ。次はない」
「なんだよハヤセ、昨日はあんなにやさしくしてくれたのに。わざわざ部屋に招き入れて、クーラーの効いたベッドで眠らせてくれただろ。いい人だなって感謝してたんだぞ」
俺は箸を止めて、大きく溜め息をつく。
このペースに飲み込まれるべきではない。
これは寮長としての事情聴取なのだから。
「一つずつ聞くから、俺の質問に答えてくれ」
「OK!いいよ」
そう答えながら、ユウヒは箸でピーマンを摘み、俺の皿にいくつも移動してきた。
俺は、顔をしかめるも、心を乱されまいと会話を続ける。
「まず、ユウヒは自宅生だよな?」
「そう。ここから家までは自転車で四十分もかかるんだよ。めっちゃ遠い。いいよな寮生は、移動が楽で」
基本的に寮生は自宅生を羨ましがるものだが、その逆はあまり聞かない。
「部活は?」
「やってないよ、帰宅部」
「やっぱり。では、二つ目。昨晩はどうやって敷地内に入った?」
「僕、身軽なんだよ。あれくらいの塀は楽勝で越えられる」
確かに、窓から部屋に入れてやるときの身のこなしも、軽やかだった。
「三つ目。どうして備蓄庫で寝てた?」
ユウヒのご飯とおかずは、もう残り少なくなっている。
「だからね、家が遠いんだって。僕、部活はやってないけど習い事しててさ。それが終わるとかなり遅い時刻で。家に帰るより、ここに泊まったほうが、便利なの。朝も自主練したいからさ。今朝も助かったよ、ハヤセのおかげ」
そう言って、可愛らしく笑う。
メガネや前髪に隠れていても、その笑顔に危うく見惚れてしまいそうになるから、厄介だ。
ユウヒはトレイを持って、席を立つ。
いつの間にか食べ終わっていたようだ。
「とにかく、備蓄庫で寝泊りはもうダメだ」
一番伝えたかったことを告げる。
「了解!」
軽快な返事をし、彼は去っていった。
こうして、俺の任務は無事終了した。
彼と話をすることはもうないだろう。
そう思いながら、彼が俺の皿に寄越したピーマンを口に放り込んだ。
—
放課後は気持ちを入れ替え、市内の共学校および女子高へ発送する手紙を、学園近くの郵便局へ出しに行った。
『本年度も、例年通り「夜会」を開催させていただきますので、御承知おきください。
社交界を疑似体験することを目的に、清く正しく伝統ある会として運営いたします。
日時:11月24日(月・祝)17:00~19:00
会場:青海波学園、檜垣寮食堂にて開催
・立食にて食事を提供
・我が学園の寮生より招待状を受け取った女子生徒のみ、入場可能
・参加費無料
・来会の際は、各校制服を着用のこと
※会への出入りは厳しくチェックいたしますので、ご安心ください』
例年使われているフォーマットの、日付や時間を変えただけの挨拶状だ。
周辺の学校では、既にこの会のことを充分に把握している。
長年の実績があるからだ。
これから十一月にかけて、招待状を手に入れるために学園周辺をウロウロし、アプローチしてくれる女子高生が増えることだろう。
郵便局のあとは、大手コーヒーショップへ入った。
持参した文庫本を読みながら、程よくザワザワとした空気の中で、一人過ごすのは心地いい。
ときどき本から目を離し、自分とは関わりのない人々が街を歩いていく姿を見るのも好きだ。
そう思いながら眺めていた窓の外を、自分と同じ紺色の千鳥格子柄ズボンを着た人物が横切った。
俺は、その美しく可愛い顔に、釘付けになる。
……ユウヒだ。
学校で見たときとは違う、生き生きとした表情に、セットされた髪。
背筋も廊下で会ったときより、シャキっと伸びているように感じる。
落としものだったイヤホンで曲を聴いているようで、リズムを取るようにしながら軽やかに歩いていた。
彼にとっては、学園にいる昼間はOFFの時間、それ以外がONの時間なのかもしれない。
変わった男だ。
やはりもう、彼と接点を持つことはないだろう。
温もりだって、無事に忘れることができたから、これ以上深入りしないに限る。
火曜日は平和な夜を過ごし、水曜日の昼間にもユウヒを見かけることはなかった。
—
そんな水曜日の夜だった。
もう眠ろうと部屋の照明を消し、布団に入った。
ウトウトと眠りに落ちた頃、夢なのか現実なのか、「コンコン、コンコン」と高い音が聞こえてきた。
少しずつ意識が浮上し、俺はゆっくりと目を開ける。
白いカーテン越しに、明るく光る物体が浮かんでいた。
「ひっ」
な、なんだろう……。
オカルト話が頭をよぎるが、寮長としての責務でベッドを下りカーテンを開けた。
そして俺は慄く。
危うく声を上げるところだった。
だってそこには、美しく可愛い顔の男がスマホのライトで自分の顔を照らし、神々しく微笑んでいたから。
Bランチは肉野菜炒めで、俺としては問題なかったが、ユウヒは不満があるようだ。
「オマエのせいでコロッケ食べ損ねたー」
唇を尖らせながらBランチのトレイを持ち、中央のテーブルに座ろうとするから、腕を引っ張って、端っこの二人席へ連行する。
「いただきます。あっ、肉野菜炒めも美味っ」
よくこんなにもマイペースで居られるものだと、感心してきた。
ユウヒの向かい側に座った俺も「いただきます」と手を合わせる。
「で、オマエさ、どこで拾ってくれたの?僕のイヤホン。やっぱり備蓄庫に落ちてた?」
「オマエじゃない。俺はC組の成川ハヤセだ。檜垣寮の寮長でもある。イヤホンは備蓄庫に落ちてた。床に敷いていた段ボールは処分しておいたから」
「えっ、酷い。次からどうすればいいんだよ。またコンビニでもらってこなくちゃいけなくなっただろ」
「いいか、備蓄庫は立ち入り禁止だ。次はない」
「なんだよハヤセ、昨日はあんなにやさしくしてくれたのに。わざわざ部屋に招き入れて、クーラーの効いたベッドで眠らせてくれただろ。いい人だなって感謝してたんだぞ」
俺は箸を止めて、大きく溜め息をつく。
このペースに飲み込まれるべきではない。
これは寮長としての事情聴取なのだから。
「一つずつ聞くから、俺の質問に答えてくれ」
「OK!いいよ」
そう答えながら、ユウヒは箸でピーマンを摘み、俺の皿にいくつも移動してきた。
俺は、顔をしかめるも、心を乱されまいと会話を続ける。
「まず、ユウヒは自宅生だよな?」
「そう。ここから家までは自転車で四十分もかかるんだよ。めっちゃ遠い。いいよな寮生は、移動が楽で」
基本的に寮生は自宅生を羨ましがるものだが、その逆はあまり聞かない。
「部活は?」
「やってないよ、帰宅部」
「やっぱり。では、二つ目。昨晩はどうやって敷地内に入った?」
「僕、身軽なんだよ。あれくらいの塀は楽勝で越えられる」
確かに、窓から部屋に入れてやるときの身のこなしも、軽やかだった。
「三つ目。どうして備蓄庫で寝てた?」
ユウヒのご飯とおかずは、もう残り少なくなっている。
「だからね、家が遠いんだって。僕、部活はやってないけど習い事しててさ。それが終わるとかなり遅い時刻で。家に帰るより、ここに泊まったほうが、便利なの。朝も自主練したいからさ。今朝も助かったよ、ハヤセのおかげ」
そう言って、可愛らしく笑う。
メガネや前髪に隠れていても、その笑顔に危うく見惚れてしまいそうになるから、厄介だ。
ユウヒはトレイを持って、席を立つ。
いつの間にか食べ終わっていたようだ。
「とにかく、備蓄庫で寝泊りはもうダメだ」
一番伝えたかったことを告げる。
「了解!」
軽快な返事をし、彼は去っていった。
こうして、俺の任務は無事終了した。
彼と話をすることはもうないだろう。
そう思いながら、彼が俺の皿に寄越したピーマンを口に放り込んだ。
—
放課後は気持ちを入れ替え、市内の共学校および女子高へ発送する手紙を、学園近くの郵便局へ出しに行った。
『本年度も、例年通り「夜会」を開催させていただきますので、御承知おきください。
社交界を疑似体験することを目的に、清く正しく伝統ある会として運営いたします。
日時:11月24日(月・祝)17:00~19:00
会場:青海波学園、檜垣寮食堂にて開催
・立食にて食事を提供
・我が学園の寮生より招待状を受け取った女子生徒のみ、入場可能
・参加費無料
・来会の際は、各校制服を着用のこと
※会への出入りは厳しくチェックいたしますので、ご安心ください』
例年使われているフォーマットの、日付や時間を変えただけの挨拶状だ。
周辺の学校では、既にこの会のことを充分に把握している。
長年の実績があるからだ。
これから十一月にかけて、招待状を手に入れるために学園周辺をウロウロし、アプローチしてくれる女子高生が増えることだろう。
郵便局のあとは、大手コーヒーショップへ入った。
持参した文庫本を読みながら、程よくザワザワとした空気の中で、一人過ごすのは心地いい。
ときどき本から目を離し、自分とは関わりのない人々が街を歩いていく姿を見るのも好きだ。
そう思いながら眺めていた窓の外を、自分と同じ紺色の千鳥格子柄ズボンを着た人物が横切った。
俺は、その美しく可愛い顔に、釘付けになる。
……ユウヒだ。
学校で見たときとは違う、生き生きとした表情に、セットされた髪。
背筋も廊下で会ったときより、シャキっと伸びているように感じる。
落としものだったイヤホンで曲を聴いているようで、リズムを取るようにしながら軽やかに歩いていた。
彼にとっては、学園にいる昼間はOFFの時間、それ以外がONの時間なのかもしれない。
変わった男だ。
やはりもう、彼と接点を持つことはないだろう。
温もりだって、無事に忘れることができたから、これ以上深入りしないに限る。
火曜日は平和な夜を過ごし、水曜日の昼間にもユウヒを見かけることはなかった。
—
そんな水曜日の夜だった。
もう眠ろうと部屋の照明を消し、布団に入った。
ウトウトと眠りに落ちた頃、夢なのか現実なのか、「コンコン、コンコン」と高い音が聞こえてきた。
少しずつ意識が浮上し、俺はゆっくりと目を開ける。
白いカーテン越しに、明るく光る物体が浮かんでいた。
「ひっ」
な、なんだろう……。
オカルト話が頭をよぎるが、寮長としての責務でベッドを下りカーテンを開けた。
そして俺は慄く。
危うく声を上げるところだった。
だってそこには、美しく可愛い顔の男がスマホのライトで自分の顔を照らし、神々しく微笑んでいたから。



