今日のユウヒは、もちろんONの姿。
笑顔はキラッキラで、誰よりも美しく可愛い男だ。
この人は、人の目線が集まると、なお輝けるタイプなのだろう。
もうすでに俺の中では、ダンスグループに所属しテレビの中で活躍する姿がイメージできてしまった。
配信画面についているチャットコメントにも『103番、かっこいいー』とか『103番の笑顔ヤバい!』とか、流れてきた。
だろ?となぜか俺は得意げだ。
あと心配なのは、捻った足の調子だけ……。
「では、五人ずつ課題曲を踊ってもらいます」
舞台の上にはユウヒをセンターにして、101番から105番の五人が並んだ。
ユウヒが繰り返し練習していたあの曲が流れ、彼らが一斉に踊り始める。
動きはスムーズで、足の怪我が影響しているようには見えなかった。
「いい……めっちゃいい……よし!」
声を出し、拳を握りしめ見守る。
スマホの小さい画面なのが、もったいない。
途中、自由な振り付けで踊る箇所も、ユウヒはダントツでキレがあり、それでいて体幹がブレず、流れるような美しい動きに惹きつけられた。
夢で魘されまで繰り返していた右手を上げる振りもスピード感が凄かった。
曲が終わり、五人が肩で息をしながら一礼したとき、俺は画面に向かって拍手を送る。
そして『103番葉月ユウヒ』という選択肢を押し間違えないよう何度も確認し、オーディエンス票を一票投じた。
俺の頭には、既にユウヒの合格を讃える言葉が浮かんでいる。
「格好よかった。ユウヒが一番だった。誰よりも華があった。美しい動きだった」
俺がもっとダンスに詳しかったら、もっと具体的に褒め称えることができるのに、陳腐な言葉しか持っていないのが、残念でしかたない。
ユウヒしか見えていなかった俺は、彼が合格することを少しも疑わずに、夜会の準備へと戻った……。
—
食堂へ向かうと、前寮長のタケル先輩が入り口から中の様子を窺っていた。
例年、受験を控えた三年生は準備には関わらず、当日だけの参加となる。
「先輩!」
背後から声をかけると、先輩はおどけた仕草で振り向く。
「ハハハ。見つかっちゃった。明日が夜会だと思うと楽しみで覗きにきちゃったよ」
本当は、心配で様子を見に来てくれたのだろう。
「気にかけてくださって、ありがとうございます」
素直にそう礼を言えば、先輩はやさし気に目を細めた。
「ハヤセ、最近変わったよね」
「へ?」
「こんなこと俺が言うのもおこがましいけど、前は殻に籠ろうとするところがあったでしょ。でも、夜会の準備を始めてからかな、殻から外に出てきたように感じるよ」
「殻……」
「夜会の準備以外にも、なにか心境が変わるようなことがあったのかな?」
探るように笑いかけられれば、ユウヒの顔が思い浮かぶ。
「とにかく、夜会の準備は完璧みたいで安心した。さすが俺の後輩だ。明日を楽しみにしてるから。よろしくね」
自室に戻るため階段を登り始めたタケル先輩の後ろ姿に、俺は深々と一礼した。
「あ、ハヤセ。私用って言ってた件は、終わったのか?」
「ありがとう竹田。もう大丈夫」
俺たちは、チェックリストに基づいて、全ての箇所を時間をかけて確認した。
よかった。
全く問題は無さそうだ。
「それでさ、竹田。実は大きな問題がまだ一つ残ってて……」
「え?なに?こんな直前でやめろよな」
竹田の顔が歪む。
「いや。あのさ、俺、まだ招待状を誰にも渡せてない」
「は?何言ってんの、明日だよ。主催寮の寮長っていうのは、とびきり美しくて可愛い子を連れてくるとか言われてんだよ。今さらのタイミングでその辺の子に声かけても、檜垣寮寮長からの金色の招待状だって聞いたら、恐れ多いって逃げ出しちゃうぜ」
「え、まさか。そんなことないだろ」
「それで、ハヤセ的にはどうするつもりだったの?」
「招待状を渡したい子がもう一人いるって寮生が、どこかにいるだろって思ってた。だから竹田、そんな奴を知らないかなって」
「無理無理。寮長が持つ色の違う招待状を、二番目にいいなって思ってる子に渡そうって男がいるかよ」
「まじか……」
「ダメ元で駅前にでも行って声かけてくるしかないな。ここはもう大丈夫だから。早く行け行け!」
駅前で声をかけるなんて、俺に出来るわけが無かったが、竹田が怖い顔をしていたので、とりあえず招待状を手に寮を出る。
郵便局近くの大手コーヒーショップへ行き、窓側の席に座って外を眺めた。
外はもう暗い。
色づいた街路樹を街灯が照らし、秋を彩っている。
正直、このまま時間切れになり「招待する子がいない」という状況に陥ってもいいかな、と思っている。
それが最も気楽だし、俺らしい。
突然、テーブルに置いていたスマホが振動する。
手に取るとユウヒからのメッセージだった。
そうだ!もう結果が出た頃だろう。
逸る気持ちで文面を確認する。
『今、電話してもいい?』
『ちょっと待って、三分後に俺からかけ直す』
そう返信し、俺は慌ててカフェオレを飲み干し、店から出た。
外の気温は下がっていた。
それでもユウヒの朗報が聞けると思うと、寒さなど気にならない。
郵便局の前でユウヒに電話をかける。
「もしもし」
俺の声は弾んでいたと思う。
「もしもし……」
しかし、ユウヒの声は沈んでいた。
彼が泣いていると、たった四文字で分かってしまった。
俺は途端に、なんと声を掛けていいのか分からなくなる。
気の利いた言葉が、一つも出てこなかった。
鼻を啜るユウヒの背後からは、駅の構内放送が聞こえている。
彼はもう東京駅にいるようだ。
笑顔はキラッキラで、誰よりも美しく可愛い男だ。
この人は、人の目線が集まると、なお輝けるタイプなのだろう。
もうすでに俺の中では、ダンスグループに所属しテレビの中で活躍する姿がイメージできてしまった。
配信画面についているチャットコメントにも『103番、かっこいいー』とか『103番の笑顔ヤバい!』とか、流れてきた。
だろ?となぜか俺は得意げだ。
あと心配なのは、捻った足の調子だけ……。
「では、五人ずつ課題曲を踊ってもらいます」
舞台の上にはユウヒをセンターにして、101番から105番の五人が並んだ。
ユウヒが繰り返し練習していたあの曲が流れ、彼らが一斉に踊り始める。
動きはスムーズで、足の怪我が影響しているようには見えなかった。
「いい……めっちゃいい……よし!」
声を出し、拳を握りしめ見守る。
スマホの小さい画面なのが、もったいない。
途中、自由な振り付けで踊る箇所も、ユウヒはダントツでキレがあり、それでいて体幹がブレず、流れるような美しい動きに惹きつけられた。
夢で魘されまで繰り返していた右手を上げる振りもスピード感が凄かった。
曲が終わり、五人が肩で息をしながら一礼したとき、俺は画面に向かって拍手を送る。
そして『103番葉月ユウヒ』という選択肢を押し間違えないよう何度も確認し、オーディエンス票を一票投じた。
俺の頭には、既にユウヒの合格を讃える言葉が浮かんでいる。
「格好よかった。ユウヒが一番だった。誰よりも華があった。美しい動きだった」
俺がもっとダンスに詳しかったら、もっと具体的に褒め称えることができるのに、陳腐な言葉しか持っていないのが、残念でしかたない。
ユウヒしか見えていなかった俺は、彼が合格することを少しも疑わずに、夜会の準備へと戻った……。
—
食堂へ向かうと、前寮長のタケル先輩が入り口から中の様子を窺っていた。
例年、受験を控えた三年生は準備には関わらず、当日だけの参加となる。
「先輩!」
背後から声をかけると、先輩はおどけた仕草で振り向く。
「ハハハ。見つかっちゃった。明日が夜会だと思うと楽しみで覗きにきちゃったよ」
本当は、心配で様子を見に来てくれたのだろう。
「気にかけてくださって、ありがとうございます」
素直にそう礼を言えば、先輩はやさし気に目を細めた。
「ハヤセ、最近変わったよね」
「へ?」
「こんなこと俺が言うのもおこがましいけど、前は殻に籠ろうとするところがあったでしょ。でも、夜会の準備を始めてからかな、殻から外に出てきたように感じるよ」
「殻……」
「夜会の準備以外にも、なにか心境が変わるようなことがあったのかな?」
探るように笑いかけられれば、ユウヒの顔が思い浮かぶ。
「とにかく、夜会の準備は完璧みたいで安心した。さすが俺の後輩だ。明日を楽しみにしてるから。よろしくね」
自室に戻るため階段を登り始めたタケル先輩の後ろ姿に、俺は深々と一礼した。
「あ、ハヤセ。私用って言ってた件は、終わったのか?」
「ありがとう竹田。もう大丈夫」
俺たちは、チェックリストに基づいて、全ての箇所を時間をかけて確認した。
よかった。
全く問題は無さそうだ。
「それでさ、竹田。実は大きな問題がまだ一つ残ってて……」
「え?なに?こんな直前でやめろよな」
竹田の顔が歪む。
「いや。あのさ、俺、まだ招待状を誰にも渡せてない」
「は?何言ってんの、明日だよ。主催寮の寮長っていうのは、とびきり美しくて可愛い子を連れてくるとか言われてんだよ。今さらのタイミングでその辺の子に声かけても、檜垣寮寮長からの金色の招待状だって聞いたら、恐れ多いって逃げ出しちゃうぜ」
「え、まさか。そんなことないだろ」
「それで、ハヤセ的にはどうするつもりだったの?」
「招待状を渡したい子がもう一人いるって寮生が、どこかにいるだろって思ってた。だから竹田、そんな奴を知らないかなって」
「無理無理。寮長が持つ色の違う招待状を、二番目にいいなって思ってる子に渡そうって男がいるかよ」
「まじか……」
「ダメ元で駅前にでも行って声かけてくるしかないな。ここはもう大丈夫だから。早く行け行け!」
駅前で声をかけるなんて、俺に出来るわけが無かったが、竹田が怖い顔をしていたので、とりあえず招待状を手に寮を出る。
郵便局近くの大手コーヒーショップへ行き、窓側の席に座って外を眺めた。
外はもう暗い。
色づいた街路樹を街灯が照らし、秋を彩っている。
正直、このまま時間切れになり「招待する子がいない」という状況に陥ってもいいかな、と思っている。
それが最も気楽だし、俺らしい。
突然、テーブルに置いていたスマホが振動する。
手に取るとユウヒからのメッセージだった。
そうだ!もう結果が出た頃だろう。
逸る気持ちで文面を確認する。
『今、電話してもいい?』
『ちょっと待って、三分後に俺からかけ直す』
そう返信し、俺は慌ててカフェオレを飲み干し、店から出た。
外の気温は下がっていた。
それでもユウヒの朗報が聞けると思うと、寒さなど気にならない。
郵便局の前でユウヒに電話をかける。
「もしもし」
俺の声は弾んでいたと思う。
「もしもし……」
しかし、ユウヒの声は沈んでいた。
彼が泣いていると、たった四文字で分かってしまった。
俺は途端に、なんと声を掛けていいのか分からなくなる。
気の利いた言葉が、一つも出てこなかった。
鼻を啜るユウヒの背後からは、駅の構内放送が聞こえている。
彼はもう東京駅にいるようだ。



