*

マウスを握る右手の指先が、わずかに震えていた。
私―芦沢紗月―はノートパソコンから視線を外し、自分の部屋を見渡した。
玄関の鍵はかかっている。チェーンも。
ここは9階の研究室でもなければ、地下4階の書庫でもない。
だから、心配することはないのだ、と自分に言い聞かせる。
「……物理的に、ありえない」
エレベーターよりも早く、息を切らさず1階に先回りする。
そんなことは、不可能だ。
瞬間移動したとしか思えない。
中世の説話や『遠野物語』に登場する「神隠し」の現代版のような時空の歪みを感じる。
ズキリ。
右目の奥が痛むような気がする。
もう深夜だ。
あまりにも長く画面を見すぎたせいだと自分を納得させるために、私は机の上の目薬を手に取った。
仰向けに首を曲げ、冷たい一滴を瞳に落とす。
視界が涙で潤み、天井の照明が大きく滲んだ。
「……?」
滲んだ光の端に、何かが見えた気がした。
天井の隅、エアコンの影。
黒い、何か染みのようなものが見えた気がした。
「……っ」
慌てて目をこすり、再び見上げる。
……何もない。ただのクロスの継ぎ目だ。
「……疲れてる。本当に」
私は、震える指でマウスを操作し、第3話のページへ進む。
この情報の鎖を繋ぎきれば、すべては論理的に解決するはずだ。
そう信じなければ、今の自分を保てなかった。
早く続きを読まなければ――
*

マウスを握る右手の指先が、わずかに震えていた。
私―芦沢紗月―はノートパソコンから視線を外し、自分の部屋を見渡した。
玄関の鍵はかかっている。チェーンも。
ここは9階の研究室でもなければ、地下4階の書庫でもない。
だから、心配することはないのだ、と自分に言い聞かせる。
「……物理的に、ありえない」
エレベーターよりも早く、息を切らさず1階に先回りする。
そんなことは、不可能だ。
瞬間移動したとしか思えない。
中世の説話や『遠野物語』に登場する「神隠し」の現代版のような時空の歪みを感じる。
ズキリ。
右目の奥が痛むような気がする。
もう深夜だ。
あまりにも長く画面を見すぎたせいだと自分を納得させるために、私は机の上の目薬を手に取った。
仰向けに首を曲げ、冷たい一滴を瞳に落とす。
視界が涙で潤み、天井の照明が大きく滲んだ。
「……?」
滲んだ光の端に、何かが見えた気がした。
天井の隅、エアコンの影。
黒い、何か染みのようなものが見えた気がした。
「……っ」
慌てて目をこすり、再び見上げる。
……何もない。ただのクロスの継ぎ目だ。
「……疲れてる。本当に」
私は、震える指でマウスを操作し、第3話のページへ進む。
この情報の鎖を繋ぎきれば、すべては論理的に解決するはずだ。
そう信じなければ、今の自分を保てなかった。
早く続きを読まなければ――
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