*

私―芦沢紗月―はふっと息を吐き、マウスから指を離した。
無意識に肩に力が入っていたらしい。
私が通っているのは、X大学だ。
このWEB小説の舞台とは違うと、頭を振る。
もう一度、自分に言い聞かせるかのように。
――カサッ。
背後で、何かが擦れるような音がした。
私は反射的に振り返る。
……誰も、いない。
「……空調の音、か」
自分でも驚くほど、声が強張っていた。
私は喉の渇きを覚え、机の上に置いていたマイボトルを手に取った。
キャップを開け、お気に入りのハーブティーを口に含もうとする。
「……?」
鼻先をかすめたのは、ハーブの爽やかな香り……ではなかった。
雨の日のアスファルトのような、あるいは、池の底に溜まった泥のような、わずかに生臭い水の匂い。
腐敗したのだろうか。
しかし、今は2月だ。
夕方に淹れたばかりのハーブティーが、たった数時間で傷むなんてあり得ない。
私は口をつけぬまま、ボトルをじっと見つめた。
中身は、先ほどと同じ透明感のある琥珀色だ。澱ひとつ浮いていない。
――疲れのせいだ。
あるいは、先ほどまでいた古い書庫のカビの匂いが、鼻についているだけだ。
記憶が、飲み物の香りを邪魔しているだけだろう。
私は一度ボトルを置き、再びパソコンの画面に意識を向けた。
この『実話怪談』を読み進めれば、この不快な気配の正体や、そこから逃れるためのヒントが書いてあるかもしれない。
知ること。分析すること。
それが、私にとって唯一の身を守る手段なのだ。
私は第2話のリンクをクリックした。
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私―芦沢紗月―はふっと息を吐き、マウスから指を離した。
無意識に肩に力が入っていたらしい。
私が通っているのは、X大学だ。
このWEB小説の舞台とは違うと、頭を振る。
もう一度、自分に言い聞かせるかのように。
――カサッ。
背後で、何かが擦れるような音がした。
私は反射的に振り返る。
……誰も、いない。
「……空調の音、か」
自分でも驚くほど、声が強張っていた。
私は喉の渇きを覚え、机の上に置いていたマイボトルを手に取った。
キャップを開け、お気に入りのハーブティーを口に含もうとする。
「……?」
鼻先をかすめたのは、ハーブの爽やかな香り……ではなかった。
雨の日のアスファルトのような、あるいは、池の底に溜まった泥のような、わずかに生臭い水の匂い。
腐敗したのだろうか。
しかし、今は2月だ。
夕方に淹れたばかりのハーブティーが、たった数時間で傷むなんてあり得ない。
私は口をつけぬまま、ボトルをじっと見つめた。
中身は、先ほどと同じ透明感のある琥珀色だ。澱ひとつ浮いていない。
――疲れのせいだ。
あるいは、先ほどまでいた古い書庫のカビの匂いが、鼻についているだけだ。
記憶が、飲み物の香りを邪魔しているだけだろう。
私は一度ボトルを置き、再びパソコンの画面に意識を向けた。
この『実話怪談』を読み進めれば、この不快な気配の正体や、そこから逃れるためのヒントが書いてあるかもしれない。
知ること。分析すること。
それが、私にとって唯一の身を守る手段なのだ。
私は第2話のリンクをクリックした。
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