どすこいラブリーちゃん

こちらは、私が2025年に訪れた際の、婀娜多村再整備後の観察記録です。
現地の状況と、自身の感想を併せて記述します。

婀娜多村は、すでにその面影のほとんどを捨て去っていました。

斜面だらけの泥道は、アスファルトで均され、多少歩きやすくなっていました。
民家の屋根や壁は塗装が新しく、古民家カフェには看板が立ち、周囲の景観に溶け込むように工夫されています。
以前のような重く、湿った空気ではないように感じます。風が山間を通り抜けるたびに清々しさすら感じました。

案内板には「赤土の教訓」と題された簡単な歴史解説があり、過去の土砂災害等について簡潔に触れられていました。
都合の悪いことを伏せ、過去の出来事をそれらしく描く技術には感心してしまいます。

最初、私は古民家カフェに入りました。
店内は整然としており、客はまばらに入っており、静かにコーヒーを楽しんでいます。
私は、カウンターの端に置かれた雑誌を手に取り、ページを軽くめくりました。
そして、用意していたメモ書きを雑誌に挟み込みました。
【婀娜多村の水は腐っている】

旧校舎跡に向かう途中、なつかしい女性に出会いました。村で昔からクリーニング屋を営んでいた広尾さんです。
クリーニング屋は廃業したのか、屋台で大判焼きのようなものを売っていました。
看板には【あだだ焼き】と書いてあり、よくみると、村のキャラクターの刻印がされているようでした。

軽く会釈しながら屋台に向っていきます。
「あだだ焼き、カスタード入りひとつください。」
そう注文すると、広尾さんはにこっと笑って、間延びした声で「はあい」と答えてくれました。

「ひとりで遊びにきたのお?」
向こうは私のことを覚えていないようで、ただの観光客だと思っているようです。
無理もありません。私は、何年も前にここを離れたのですから。
「はい。ひとりで来ました。」
「そうなのお。楽しんでいってねえ」
あだだ焼きをひとつ手渡されます。

「はい。楽しみます。」
私は礼儀正しく返答した後、受け取った【あだだ焼き】を地面に思い切り投げ捨てました。
広尾さんは大層面食らったようで、目をまんまるにしたまま硬直しています。
私はそんな広尾さんを無視して、小走りで旧校舎跡に向かいました。

思い出の校舎跡は今、児童館として整備されていました。
扉を押して入ると、木製の床は新品同様に磨かれ、壁面も塗り直されていました。
私は、児童書がきれいに並んだ本棚を見て、思わず足で蹴り飛ばしてしまいました。衝撃で、本が床中に散乱します。
「なにやってんだ!」
司書らしき人物がすごい形相で怒鳴りながらこちらへやってきたので、私は一目散に走り去りました。
昔校庭だったであろう場所を走りながら、私はなんだか懐かしい気持ちになってしまいました。