どすこいラブリーちゃん

村から神奈川に移り住んだとき、私はまだ十六でした。

都会は冷たいけれど、優しいところでした。
誰も自分を知らない。
誰も私を【ラブリーちゃん】と呼ばない。

それだけで、十分でした。

最初に住んだのは、築四十年のワンルームです。
駅から十五分。坂道の途中。
ベランダの向こうにコンビニの看板が見える部屋でした。

家賃は三万八千円。

保証人がいなかったので、無保証で借りることができる部屋を必死で探したのを覚えてます。
初期費用は消費者金融で借りました。

最初のアルバイトは、ファストフード店でした。
赤と黄色の看板、油の匂い。
絶え間ない電子音で毎日耳がおかしくなりそうでした。

そこは、あの村よりずっと秩序が保たれた場所でした。
制服があって、役割があって、時間が決まっている。

秩序があった。
最初の三日間は、みんな私のミスを見逃してくれた。

四日目、レジで詰まった。

客の注文を聞き間違えた。
セット内容を間違えた。
会計を打ち直した。

後ろにどんどん列ができる。

「すみません」

声が震える。

バックヤードに戻った瞬間、ため息が落ちた。

「……また?」

同年代のバイトの女の子が、小さく笑う。

「なんか、仕事覚えるの遅くない?」