どすこいラブリーちゃん

部屋の中は、私の知っている「生活」の音をすべて拒絶していた。
わずかに開いた窓から入る街の喧騒も、遠くのネオンの瞬きも、この四畳半の空間に踏み込んだ瞬間に死に絶えるようだった。
ただ、古びたノートパソコンの冷却ファンが、微かに「サーッ」と乾いた呼吸を続けているだけだ。

鼻をつくのは、饐えた食べ残しの匂いと、下水の臭い。そして、死臭。
視線を上げるのが怖かった。けれど、私の意志とは無関係に、瞳は部屋の中心へと吸い寄せられる。

逆光の中に浮かび上がる、細いロープ。足に力が入ったのか、ギシ……と、安っぽいフローリングが鳴る。

かつてクラスメイトが「ラブリーちゃん」と呼び、教室の隅に追いやった肉の塊が、
今は重力に従って、ただ静かに垂直の線を引いている。

私が必死に磨き上げ消毒してきた日常に、
その真ん中に、この世で最も不潔で、最も目を逸らしたい現実が、逃れようのない質量を持って吊り下げられていた。

逃げ出したい。今すぐこの場から消え去りたい。

汗ばんだ手が、ポケットの中の護身用スプレーを強く握りしめる。
けれど、そんなものは何の役にも立たないことを、私自身よく理解していた。

幽霊でも呪いでもない。ここにあるのは、村中が過去に放り投げ、放置し、発酵しきった「事実」そのものだった。

ノートパソコンの青白い光が、死人の白濁した足元を照らし、そのまま床を這って、私のパンプスの先まで届いている。

その光に導かれるように、私は一歩、踏み出した。
画面の中に、私の名前が見えた。

足元には、ノートパソコン。
画面は開いたまま。

パスワードは、かかっていないようだった。

わざとだ。

最後の投稿画面。

下書きが残っていた。

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 どうせ、あなたはここまで来ると思ってました。
 でもさ、私が死んじゃってて、正直がっかりしたんじゃない?
 死人から損害賠償金は取れませんよ。あなたの開示請求は、無駄金。残念でした。
 最悪に歯切れの悪い終わり方、いかがでしたでしょうか?

 こちらは、私の出身地である●●県婀娜多村における地域文化とその変遷についての調査記録です。
 最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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指先が冷たくなる。

真壁の言葉が、遠くで響く。

「彼女は、分かっていたのでしょう。開示請求される可能性も。」

そうだ。彼女は分かっていた。
最初からここに誘うつもりだったんだ。

IPも隠さなかった。全部わざと。

どうせ死ぬつもりだったんだ。
だからこそ、嫌いな私を巻き込んで、村をもう一度かき回して……

私は立ち尽くしたまま、動けなかった。

清めが効いた。大勢の笑い声が聞こえたような気がした。