どすこいラブリーちゃん

『あの……1つ良いですか?』
「なんですか?」
『雑談として、聞いてほしいのですが』
真壁はそう言って、ゆっくりと話し続ける。
『……僕は高校生まで、婀娜多村で父の仕事の手伝いをしていました。だから、鬼塚愛さんとも実際にお会いしたことがあります。』
「ああ…そうなんですね。」
『僕は、見たことがあるんですよ。』
「え?」
『僕が高校生で、まだ愛さんが小学校低学年くらいの頃だったでしょうか。彼女が、神社近くの山で、傷だらけの姿で大木に括り付けられているところを発見したんです。』
「……」
『太い縄のようなもので、ぐるぐると木に括り付けられていました。少なくとも小学生の力では、どうにもならなさそうな状態でした。同級生にいじめられていたのか、親から虐待されていたのか、それとも村人にやられたのか、今となっては分からないのですが』

それは誰に向けた弁明でもなく、独り言のようだった。

『彼女は、近くを通りがかった私を見つけるやいなや、大声で助けを求めました。すさまじい形相でこちらに向けて絶叫する彼女を見て、僕は怖くなり、全力で逃げました。』

しばらく、通話の向こうで風の音のような雑音が続いた。

「……それで?」

私がそう促すと、真壁はすぐには答えなかった。

『いや……別に、それだけです。』
「最終的に、真壁さんは鬼塚愛を助けなかったんですよね。」
『……ええ』
「誰か呼んだりも?」
『……そのときは、怖くて。』

真壁は小さく咳払いをした。

『あの子のことを、一秒たりとも見ていたくありませんでした。気持ち悪い、不浄なものに思えたのです。しかしなぜそんな風に思ったのか、今も上手く説明ができないのですよ』