どすこいラブリーちゃん

「……私、今後どうするべきなのか、分からなくなってきました。」
「そうですね。今から大量死の原因を突き止めることは非常に困難です。なにせ、もうすべて埋め立てられてしまいましたから。」
「はい……あの……ごめんなさい。いろいろお話してくださったのに」

「いえ、諦めるのは早いでしょう」

真壁は静かに首を振った。

「沼は埋められ、水路は作り直され、当時の環境は失われた。ですが――」

彼は指先で私の携帯を指さす。

「まだ生きていますよ」
「え?」
「いいのですか?なりすまされたままで。気持ちが悪くないのですか?」

突然現実に引き戻されたような感覚に陥った。真壁さんの口調が少し厳しくなる。

「このブログ主――鬼塚愛は、明らかにあなたに悪意を持ってブログを書いている。あなたの名誉を棄損するためにわざわざ因縁のある婀娜多村まで赴き、あなたの名前を名乗り、具体的な破壊行動まで取っているのです。しかし、このまま何もしなければ、ただ泣き寝入りですよ。」

私がオロオロしていると、真壁は少し笑顔になる。

「あなた、お金はありますか。」
「え?いや、私は学生なので、そんなには…」
「親は?」
「えっと…親は、あると思いますけど……」

「開示請求しなさい。なるべく早く。」

思いもよらない提案に、思わず「えっ」と小さな声が出た。

「でも、あの、開示請求って、そんな簡単にできるものなんですか?」

私の質問に、真壁は即答しなかった。代わりに、椅子に深く腰掛ける。

「簡単ではありません。ただ、道筋はあります。」
「道筋?」
「まず、あなたがやるべきことは一つ。証拠の保全です。」

彼は私の携帯を指さす。

「そのブログのURL、スクリーンショット、投稿日時、プロフィール情報。すべて保存してください。可能なら魚拓も取る。削除される前に。」
「魚拓?」
「ウェブページの保存サービスです。消されても証拠として残る。」

淡々とした説明が続く。

「次に、ブログの運営会社を特定します。ドメイン情報や、利用規約を確認すれば問い合わせ窓口は分かるはずです。」
「そこに連絡するんですか?」
「いきなり【個人情報を教えてください】と言っても拒否されますよ。原則、運営会社は開示しません。」
「じゃあどうやって……」
「まず【発信者情報開示請求】を裁判所に申し立てます。」

頭が真っ白になる。

「裁判所……?」
「ええ。名誉毀損やなりすましによる人格権侵害を理由に、発信者のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求めるのです。」

私は思わず息をのむ。

「そこまで……」
「あなたは、実在の学生です。成りすまされ、虚偽の死亡記事を掲載されている。社会的評価の低下は明白です。要件は満たすでしょう。仮処分が認められれば、運営会社はIPアドレスを開示します。」
「IPアドレスが分かったら……?」
「次は、そのIPを管理するプロバイダを特定し、改めて発信者情報開示請求を行う。契約者の氏名・住所を開示させる。」

遠い話のようでいて、妙に具体的だ。

「あの…開示請求って、どれくらいかかるものなんですか。」
「数か月。早ければ二、三か月。遅ければ半年。」
「お金は……?」
「弁護士費用と裁判費用で、数十万円は覚悟したほうがいい。」

私は言葉を失う。
真壁はじっと私を見る。

「泣き寝入りしますか?もし親御さんに伝えれば、可愛い娘のためですから、数十万くらい出すと思いますよ。」

胸の奥がざわつく。

鬼塚愛。
ラブリーちゃん。

【消えろ、消えろ、消えろ、消えろ】

あの時の呪詛を振り切るように、私は小さく首を振る。

「やります。」

真壁は満足そうに頷いた。

「では、急ぎましょう。相手が削除する前に。」