どすこいラブリーちゃん

私は一時的に、観光協会の女性と司書の方に席を外してもらうよう、お願いした。
つまり、おばあさんと二人きりにしてもらったのだ。

「お久しぶりですね、広尾さん。」
「お久しぶり・・・?」

クリーニング屋の広尾さんは、私のことを覚えていないようだった。
無理もない。最後にあったのは10年近く前だし、私も成長して全く面影がないのだろう。

「覚えてませんか?10年くらい前、ここに住んでました。私のことみーちゃんって呼んでくれてたの、覚えていませんか?」

広尾さんは少し悲しそうな、困ったような表情をする。

「ごめんねぇ…私ね、なんだかもの覚えがすっかり悪くなっちゃったみたいでね…あなたのことを、みーちゃんって、呼んでたの?全然覚えていなくて…」
「ううん、大丈夫です。あやまらなくていいんです。そんなことより、鬼塚愛という人物を覚えていませんか?」

広尾さんは急に表情を変えて、はきはきと喋りだす。

「ああ、鬼塚さんちねぇ。覚えてるよ。あのバチあたりな一家だぁ」

さっきまでのぼんやりした調子が嘘みたいに、言葉がはっきりしている。

「バチあたり、ですか」
「そうよぉ。夫婦そろって金髪で、気がおかしいんじゃないかってみんな言ってたんだ。村のしきたりも、馬鹿にしてねぇ。祭りにも出ない、寄り合いにも顔出さない。愛ちゃんも、随分変わった子だったよ」

私は息を詰めた。

「変わった、とは」

「なんて言えばいいかねぇ……いつも一人だったねえ。なんだか臭かったし。人のこと、厭らしい目でじっと見る子だったよ。こっちが何も言ってなくても、なんか知ってるみたいな顔でね」

胸の奥がざわつく。

「そうなんですか。」

広尾さんは、少し視線を泳がせた。

「うーん……だから学校でもいじめられてた、って話も聞いたことあるよ。あの頃はねぇ、子どもも少なかったし、逃げ場もないからねぇ」

いじめ。私は膝の上で手を握りしめた。

「ああでもね、鬼塚さんとこの一家は、数年前の流行り病でみんな亡くなっちゃったんだ。」

私は目の前が真っ白になった。

「え?みんな亡くなった?」
「そうなのよぉ。まだ若かったのにね。まあ、酷い病気だったから。仕方がなかったのかもねえ」
「いや、そんなことは、ないと思うんですけど」

私は若干取り乱す。
だって。

「その、私に成りすましてた女。多分、鬼塚愛なんですよ。」